氷川竜介のアニメCG列伝 第一回

株式会社サンライズ 『機動戦士ガンダム UC』 (1/4)

- 正確な立体感と空間把握がメカ表現の先端を切り拓く -
 

 

2010年から劇場イベント上映とビデオソフト販売・配信を中心にスタートした『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』。episode 6まで平均25万本を越える好調なセールスで推移し、2014年5月にはいよいよ完結となるepisode 7が公開予定である。

本作は「宇宙世紀シリーズ」とも呼ばれる『機動戦士ガンダム』から連なる世界観の中で、巨大な人型機動兵器モビルスーツの激闘が熱い人間ドラマに絡むコア中のコアという印象の作品だ。その画面づくりは精密なディテールと強烈な美意識に支えられているが、その中でCGが果たす役割は見た目以上に大きい。

手描き作画中心のアニメーション作品内で、いかに最先端のCGが貢献して濃密な映像としていくのか、その柔軟な発想をCGディレクターの藤江智洋氏にうかがった。

(インタビュー・構成 アニメ評論家 氷川竜介)

 

3DCG導入のポイントは「ガンダムの変身」

――まず、自己紹介をかねてガンダムに関わるきっかけから教えてください。

藤江 僕はもともとCGモデリングの会社にいて、『SDガンダムフォース』(03)という作品で初めてのフルCGアニメーションに携わりました。独立してからもサンライズ作品の『GUNDAM EVOLVE』(01~03)、富士急ハイランドの「GUNDAM CRISIS」(07)、それから『超劇場版ケロロ軍曹シリーズ』(06~10)に参加し、『機動戦士ガンダムUC』(10~)のCGディレクターに至るという流れです。CGモデラー出身である自分の利点はすぐに立体形状での吟味が出来ることで、作画とCGの組み合わせのときにも「できる、できない」の判断がスムーズだと思います。

――もともとガンダムシリーズはガンダム本体をキャラクターとして扱ってきた歴史があり、TVシリーズの新作でも手描きでガンダムを描いています。『ガンダムUC』はフルCGの『機動戦士ガンダム MS IGLOO』を別格とすれば、主役メカにCGを多用する初のガンダム作品となるのではないでしょうか。

藤江 確かに作画が基本の作品ですから、主役級にCGを使うのは確かに特殊かもしれませんね。今回の作品ではガンダム自体が変身し、同時にキャラが座るコックピットシートも変形する設定があるので、その部分はCGにすることが最初から決まっていました。さらに小説が先行してガンプラ(プラモデル商品)も発売済みだったので、模型からCG化すれば検討時間も削減できますし。その分、作画チームにはキャラクター性の出るところでパワーを出してもらうと、そんな分担の意識は最初からあったと思います。

――ポイントは変身のメカニズムですか。

藤江 CG化のきっかけはそうですね。もしゼロからユニコーンガンダムの変身用モデリングをつくるという話でしたら、尻込みしていたかもしれません。案の定、やはり商品は変形機構が複雑でしたが、細かいパーツがガチャガチャ動くのはCGの得意とする見せ場ですし、これはやりがいがあるなと。

――アニメの中でのCGに期待されることは何だと思われていますか?

藤江 やはり正確性、それが一番だと思います。メカデザイナーのカトキハジメさんもアニメ用のメカ設定を担当された玄馬(宣彦)さんも、カチッと立体的な形を描かれる方ですからCGのテイストがマッチしていて、それもラッキーなことです。商品データからCGへの移行も相性が良く、モデリングをやっていた人間としてやりやすかったです。

――CGによる変身描写で、見せ場はどの部分になりますか?

藤江 やはり顔ですね。「一本角からガンダム顔になる」ということはユニコーンガンダム最大の特徴ですから、そこはしっかりやろうと、力をいれました。

 

CGを作画とシームレスに見せる工夫

――CG・作画の棲み分けは、どのように考えられましたか?

藤江 まず、メカやモビルスーツがキャラクター性のある動きをする場合と、素立ちで建造物に近い状態で置いてある場合とで差をつけています。ナマの感情を入れて人っぽく見せるときは作画で、無機質な表現をするときはCGという使い分けです。古橋(一浩)監督はそういう采配がうまいんです。

――シチュエーションごととなると、演出的な領域にも踏み込みます。

藤江 まさに演出と密接に絡んでいて、「CGモデルがあるから全部それでやろう」という判断には絶対ならないんです。「こういう見せ方に必要だから、CGでやる」と。結果的にまったく使われないCGモデルも出てきましたが、それでも作画さんの参考として使われてカット内容が良いものになったりするだけで、作った甲斐を感じます。シャンブロ(第4話のモビルアーマー)も7割くらいは作画ですし。ある程度先行してCGでやる部分は決まっていましたが、それ以外の部分はスケジュール次第の振り分けになりました。もしCGか作画か見分けがつかなかったとしたら、大成功だと思います(笑)。

――シームレスに同じメカとして見せるのも、ひとつの課題でしょうか。

藤江 厳密に見比べれば、CGか作画かは絶対に分かるんです。でも、お話や映像の流れ上で不自然に見えなければ成功ということなんですね。たとえばカメラがダイナミックに回りこむカットはCGの活躍の場ですから、その時に「カメラが動いている分、CGモデルでもあまり気にならないね」と思ってもらえればいいかなと。線から何から何までガチガチに作画風にすると、「だったら作画でやれば?」となりますから、CGに向いた見せ場で使うのが良いんです。もちろん作画のテイストに寄せてはいますが、作画のためにあえてCGの良さを削るようなことはしないという方針です。

――『ガンダムUC』の場合、作画風の工夫とは何になるのでしょうか?

藤江 原画用に「作画のルール」が決められているので、まずそれに準拠することですね。具体的には「カゲつけ」で、トレス線(輪郭線)を少なめにしてカゲで立体感を見せる方針です。CGの場合、線を出そうと思えばいくらでも出せますが、逆にそこから間引くように線の出方を技術的に設定します。その分、むしろライティングで立体形状を見せるよう気をつけます。止めてみるとどちらの面か一瞬分からない感じの画になりますが、動きの中で出っ張っている凹んでいるという形状が、カゲの変化で伝わるわけです。

――アニメ風のカゲつけにするという意味ですか?

藤江 そうではなく、むしろ明暗の見た目の比率を作画に近づけるんです。線の密度と明暗の比率が同じものであれば、互いに違和感がなくなるだろうと。もちろん作画さんの鉛筆線にはニュアンスがついて味になっていますが、CGではむしろ得意であるシャープな線を出します。なじませる急所を優先した上で、個々の特徴はそのまま見せるという考え方です。トゥーン調の経験は多々ありますが、『ガンダムUC』ほど線を間引いたのは初めてで、最初は「大丈夫かな?」と思いましたが、動かすとむしろ大成功でした。

 作画的なニュアンスのカゲという点では、光の回りこみはわざと入れるようにしています。モデルが立体物としてきちんと成立しているので、ライティング次第でペタッと平面っぽくならないんですね。もともとテクスチャより立体形状で見せようというスタンスで仕事をしてきたので、カゲをうまく出すという点でも相性が良かったです。

――ということは、ポリゴン数は見た目以上に多いのでしょうか?

藤江 たとえば小さいボルトのパーツがあるとします。2Dのテクスチャを貼って表現するのか3Dの立体でモデリングするのか、手法には極端な差があります。今回はカゲを出すために立体にしていますが、遠くてボルトが見えないほど小さくなると、逆に邪魔な存在になることがあります。そうした問題が出た場合、軽量化した遠景専用のモデルをもうひとつつくります。遠近両用で使えるようにするよりは、別々にしたほうが早いんですね。