映像企画製作会社である株式会社カラー様では、『エヴァンゲリオン』シリーズなど全作品資産をこれまでオンプレミスシステムでアーカイブしていました。しかし、ハードウェア運用管理に手間を取られる事と、データを失うリスクを抱えていた事から、クラウド移行を決断。同社が選定したのは低価格の高速クラウドストレージサービス「Wasabi Hot Cloud Storage」(以下、Wasabi)と、柔軟性と拡張性を兼ね備えたネットワークストレージ「QNAP」を組み合わせたソリューションでした。
移行完了後は、運用管理コストの80%減が見込まれており、より本質的なシステム企画・管理業務に集中できると期待されています。導入の背景や効果を、システムインフラの構築・運用を担う、システム部 主任 システムエンジニア 三澤 一樹様に伺いました。
『エヴァンゲリオン』シリーズなど全作品資産を格納するアーカイブ環境
株式会社カラー様は、映像企画製作会社です。映像作品の企画・原作・脚本・デザイン等の開発ならびに製作・宣伝・配給を手がけ、『エヴァンゲリオン』シリーズ等の作品を制作しています。アニメ以外にも『シン・仮面ライダー』など実写作品の制作に関わっています。また、映像クリエイターの発掘と育成、またアニメーション・特撮に関する資料・技術の保存・管理・啓蒙も目指しています。
同社には、2006年の設立以来、『エヴァンゲリオン』シリーズを始めとする複数の作品の静止画ファイル、動画ファイル、連番出力ファイル(静止画ファイルに連番名がついたもの)などの中間制作物が多くアーカイブされています。それらは現在まで営々と蓄積され、その容量は500TBに上ります。アーカイブデータは社内での過去素材の再利用を目的として運用されています。これらのファイルは同社にとってまさに資産であるため、消去することはありえません。そのため、新しい作品が制作されるにつれ、データ容量はさらに増えていきます。
障害対応など課題の多かったオンプレミスシステム
これまで、こうした作品ファイルはオンプレミスでアーカイブされていました。具体的に採用されていたのはQNAPのNAS(Network Attached Storage)です。500TBと容量が大規模であるため、HDDの数にして60台以上となっていました。ハードウェアには障害がつきもので、RAID5で冗長構成は組んでいたものの、時には複数のHDDに続けて不具合が起こることがありました。三澤様は、次のように語ります。
三澤様:
何かあればすぐ新しいHDDを手当てする運用を確立していますが、さすがに立て続けに起こると『データを失ったらどうしよう』と不安になり、夜もよく眠れない状態でした。また、1台のHDDに収めているデータ容量が大きいため、交換になると、他のHDDから新しいHDDにデータを復元・再構築するリビルドで1~2週間かかっていました。どうしてもその進捗が気になるため、より本質的に取り組むべき仕事が後回しになりがちです。さらに、リビルドが走るとNASのパフォーマンスが落ちるため、社内ユーザーの業務効率に影響を及ぼします。
特に同社の場合、常に繁忙期といえるほど一年を通じて多忙であるため、その影響については真剣に考慮しなければなりません。
またオンプレミスシステムの場合、メーカー保守満了に伴って、ハードウェア更改をおこなわなければなりません。そしてストレージ容量が大きいために、完全に移行を終えるのに6カ月もの時間が必要でした。やはりこの期間も進捗が気になるため、他の仕事をしながらも心が休まらない状態でした。また更改時期がめぐってきた2023年、三澤様はこの繰り返しから脱却する方法を模索することにしました。
考えたのはクラウドへのアーカイブです。当初は他社製品を検討していましたが、ストレージ料金に加えてデータの下り転送料が発生するのがネックでした。同社の場合、必要に応じてファイルをダウンロードすることになり、月当たりいくらの下り転送料が発生するか予測することができません。コストをコントロールできないというのは回避したい事態でした。
Tooの提案したWasabi+QNAPソリューションを選択
そうした中、システムインテグレータとして頼りにしているTooから、クラウドオブジェクトストレージであるWasabiの提案がありました。三澤様はただちによい感触を持ったといいます。
三澤様:
初めて聞くブランドでしたが、Tooが推奨するクラウドストレージならまちがいないだろうと思いました。また、料金が低価格で、下り転送料も発生しないのもよく、容量だけを考えればすむというのは、コストを見積もる上で非常に重要でした。その総額も、既存のオンプレミスシステムとほぼほぼ変わらないというのも、稟議を通す上でプラス要因でした。
このソリューションは、今まで同様コストコントロール可能な状態でデータをアーカイブすることができ、しかもクラウドであるため、移行後は永久にハードウェア障害対応から解放されることを意味しました。
具体的なシステム構成内容は次のとおりです。クラウドオブジェクトストレージにWasabiを採用し、ダウンロードするファイルの受け皿としてカラー様側に60TB容量のQNAP NASおよびQNAPアプリケーションHybridMountを配置します。実体は常にWasabi側にあり、ファイルはその都度QNAPへダウンロードします。
HybridMountは、パブリッククラウドサービスとリモートデバイスをリモートマウントすることによって、クラウドストレージへのアクセスを低遅延にすることを可能にします。また、QNAP NASは既存のシステムでも利用していたため、社内ユーザーにとってなじみがあり、データのアーカイブ場所がWasabiになってもまったく変わらないというメリットもあります。
Wasabiに関しては、無償トライアルを利用して使用感の確認もおこなわれました。見極めポイントは、WasabiとQNAPの接続が簡単におこなえるかどうか、パフォーマンスはどうかというものでした。三澤様は語ります。
三澤様:
接続はものすごく簡単でした。Tooに検証機を用意してもらい、何度か試してみましたが、毎回問題なく再現できたので、これで全然問題ないなと思いました。仮にQNAPが壊れたとしても、また別の筐体を持ってきてつなげばよいだけで、データの損失リスクはないということも確認できました。
パフォーマンスに関しては、平均5GBぐらいある3Dモデルファイルを何度か転送してみたそうです。オンプレミスシステムとほぼほぼ遜色ないレベルのパフォーマンスを実現しており、これなら社内ユーザーの体感に響くほどではないだろうと判断されました。
三澤様:
アーカイブに関しては、データの損失がないことを第一に考えるのは当社のポリシーです。それをコストパフォーマンスも加味して実現してくれるという点で、Tooの提案してくれたWasabi+QNAPソリューションに決めました。
導入プロセスで浮上した課題を解決
2023年9月、正式に契約となり、QNAPの導入プロセスに入りました。QNAPには、QTSというOSと、新しく登場したZFSベースのQuTS heroというOSがあります。当初は後者で導入を進めたのですが、Activity Directoryの連携性が実証されているQTSへ切り替えることになりました。設定の変更は管理画面上で簡単におこなえる上に、データもWasabi側にあることから、QNAPを初期化するなど大きな変更をおこなっても、システムの稼働に影響は出ることはありませんでした。まさに、実体をNAS側に置くことなくデータの利活用がおこなえるWasabiのメリットが活きた場面でした。
その後、同年12月のシステムテストを終えて、2024年よりデータ移行が始まっています。そのペースは1Gbpsのインターネット回線を使って1日に約3TB。2024年6月時点で300TBを移し終えました。現在10Gbps回線をオーダー中で、もしその開通時期が早まれば、さらに転送スピードを上げることができます。今のところ、社内ユーザーは既存のシステムを利用していますが、データをすべて移し終えたら静かに新ソリューションへの切り替えをおこなう予定であるといいます。
運用管理コストが80%減らせると期待
三澤様は、Wasabi+QNAPで実現する新ソリューションで望んでいる効果について、次のように語ります。
三澤様:
インフラコストは既存のシステムとそれほど変わらない状況で、管理運用コストは80%ぐらいは減るのではないかと思っています。HDD障害対応や、ハードウェア更改対応から解放されて、本来のシステム管理業務に専念できるのは非常に大きいです。
さらに、新ソリューションを導入したことで、拡張性も持てるようになりました。当社には複数の制作拠点があり、現在、主要な拠点とは専用回線を敷設してアーカイブデータを利用できるようにしています。しかし今後は、インターネット回線だけで、必要ならどの拠点からもWasabi上のデータを利用できるようにする、といったことを実現できます。Wasabi上のデータを二次アーカイブするという案も考えています。ハードウェア運用管理がなくなると、こうしたことが次々企画して実行できる余裕が生まれるはず、と大きな期待を寄せています。
Wasabiは管理画面がわかりやすいのがいいですね。サポートの前面に立ってくれているTooの問い合わせ対応レスポンスもよく、選んだことを満足しています。
新ソリューションへの移行後は二次アーカイブを検討
新ソリューションへの移行が完了したら、発言の中で言及した二次アーカイブを検討していきたいと三澤様は語ります。
カラーの作品資産を守り抜くためのデータアーカイブにおいて、ハードウェア運用管理につきまとう労苦から三澤様を解き放ち、地に足のついたクラウドソリューションを実現しました。
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※記載の内容は2024年8月現在のものです。内容は予告無く変更になる場合がございます。