東京都内でも高い有名大学進学率を誇る中高一貫校の海城中学高等学校様では、各教室にプロジェクターを設置し、生徒貸出し用にiPad100台を導入、さらに教職員全員にiPadを配布されています。どのように教育現場で活用されているのか、ICT教育部 部長の平田先生にお話をお伺いしました。
知識の「伝承」から「活用」へ
2020年の大学入試改革に対応するために学内に委員会ができました。そのミッションの1つに教育のICT化が掲げられました。今後ますます、知識を伝承する授業から、『知識を活用する力を育む授業』へと変化していきます。iPadの使い方を学ぶことがICT導入の目的ではありません。iPadを使い、知識を活用して新しいものを生み出すことによって、創造力を養うことができると考えています。
授業でのiPad活用
本校では、中学1年から3年にかけて『生徒が自分自身の社会的な問題関心からテーマを定め、文献調査や野外調査、インタビュー取材などを自分で実行、学期ごとにレポートをまとめる』という社会科総合学習の授業が行われています。インターネットを活用した文献調査やフィールドワークにおける写真撮影にiPadを使用することはもちろん、授業中ではひとつのテーマについて議論するときにも、知識や意見を共有する手段としてもiPadを活用しています。また、私の担当する化学では、実験をする前にグループごとに結果を予想してiPadに記入、その意見をクラス全体で共有します。実験中にはiPadのカメラで撮影しておくことで、におい以外のことは記録できるので、復習するときには非常に有効だと考えています。
座学の授業でも変化を感じます。挙手形式では、ひとりの意見しか聞き出せなかったところ、iPadに生徒それぞれの意見を記入してもらうと、クラス全員の意見が簡単に集められます。これまで積極的に挙手をすることが苦手だった生徒の意見も把握することができるので、授業がさらに活性化されたと感じています。
生徒はすぐに習得
導入前には生徒へのiPadの使い方の指導を心配していましたが、実際には生徒は面白がって使っていくうちに、すぐに使いこなせるようになりました。iPadに触れたことがない生徒も、使い方がわかる他の生徒の手元を見て、すぐに習得するのです。生徒は非常に高い適応能力を発揮してくれて、授業で2、3回使用すると『iPadはあって当たり前』の状態になりました。
生徒が使う貸出し用iPadはきれいにケーブルが束ねられ管理されている。「ICT教育部のメンバーは皆きちんとするタイプですね(笑)」と話す平田先生。
校内のICT導入ステップ
私自身の取り組みとしては、本格的な導入に先駆けてiPadとプロジェクタとスクリーンを毎回授業に持っていき、様々な関連資料を投影しながら授業を行っていました。その経験から据え置きのプロジェクタとホワイトボードは必須だろうと考えました。プロジェクタ導入後は、接続する手間を省くためにApple TV、接続を安定させるネットワーク、教員用iPadと、順に導入しました。iPadを徐々に導入する中でデバイス管理について考え始めました。『生徒ひとり1台のiPadを導入したら、どうやって大量のデバイスのキッティング作業やマネジメントをするのだろう』と、方法を探していたタイミングでDevice Enrollment Program(DEP)の存在を知り、これだ!と思いました。DEP対応ができるTooに展示会で巡り合ったのもこの時期です。現在では、DEPによるデバイス調達と、Jamf Proによるデバイス管理を実行しています。
(Tooでは国内でもいち早くDEPに対応し、MDMであるJamf Proと共に教育関連の展示会で紹介しています。)
これからICTは自然にあって当たり前になっていくでしょう。ICTを用いた授業の完成形は特に決めていません。生徒と教員が様々な使い方をするなかで、本校の強みを活かしたオリジナルな活用方法を見出していきたいと考えています。今後はiTunes Uなども活用してみたいと思っています。生徒に対しては、iPadの使い方に大きな制限はしていません。機能制限によって、可能性や創造性を制限したくないと考えています。こう使いなさい、と使い方を定めてしまうと、生徒の知的好奇心を制限してしまうことになります。本校には知的欲求の高い生徒が多く集まっており、すでに切磋琢磨する環境は整っています。さらにICTを活用することで、隣の席の友人から普段あまり話さない人まで、校内の仲間がどんなことに興味を持っているのかを共有し、生徒同士で刺激し合うことができると考えています。
明るくておしゃれなICT LABは、新しいスタイルの授業のアイデアを創造するためのスペースと貸出し用のiPadなどを保管するスペースになっている。相談や打ち合わせができるスペースも開放的で、校内の先生や生徒、他校からの視察などひっきりなしに人が出入りしている。
ICT導入の適正な評価をどう考えるか
ICT導入をどう適正に評価するのかが課題です。iPadを導入すればいいのではなく、どこに必要なのか、メリットがあるのかを適正に評価したいと思っています。例えば過去に作成したプリント教材をデータにするだけでも、人数分のプリントを印刷して配布する作業時間をカットできます。iPadに置き換えることで少し良くなることから始め、iPadがないと成り立たないことまで、少しずつ活用する機会を増やしていきたいと考えています。メリットが見えてくれば活用される場面も自然に増えていくと思っています。
海城中学高等学校
海城中学高等学校では、「国家・社会に有為な人材を育成する」という建学の精神のもと、時代に即して具現化したものを教育実践しています。グローバル化が進み価値観が多様化している現代社会、時代に求められる真のリーダーを育成するために、「新しい人間力」と「新しい学力」をバランスよく養う教育を実践しています。
※記載の内容は2017年2月現在のものです。内容は予告無く変更になる場合がございます。