JVCケンウッド・ビデオテックは、2017年9月30日、10月1日に千葉・幕張メッセで開催されたサカナクションのワンマンライブ「SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Around」において、Insta360 Proによる6K解像度の360° 3D映像収録と3D VR映像制作を担当した。
Insta360 Proは、6つの200°魚眼レンズと4つのマイクを搭載したコンパクト一体型のプロフェッショナル向け360°カメラ。最大8K解像度で360°の全天球写真・動画が撮影可能となっており、360°ライブストリーミング配信にも対応している。
Insta360 Pro採用の経緯と現場での運用について、同社取締役CTO工学博士の森 俊文 氏と営業制作部チーフプロデューサーの似鳥 将俊 氏にお話をうかがった。
Insta360 Proを採用することになった経緯を教えていただけますでしょうか?
セミナーで実機を確認し、これまで不満に感じていたことが全て解決した。
似鳥氏:
サカナクションさんからVR映像の制作依頼を受けた際に、先方から単なる360°映像ではなく、3D(立体視)にしたいという要望がありました。そこで、3D撮影が可能なVR機材を検討していたところ、TooさんからInsta360 Proを展示するセミナーの案内をいただきまして、実機が拝見できるということで参加したのが最初のきっかけでした。
Insta360 Proが発売されていたことは知っていたのですが、セミナー開催が9月27日で収録日の3日前だったこともあり、すでに使用経験のあったNOKIAのOZO CAMERAで撮影することを考えていました。
しかし、セミナーでInsta360 Proの内容を確認したところ、いろいろと不満に感じていたことがすべて解決していて、このカメラをメインに使ってみようということになりました。そこからは、翌日改めて実機で確認して試用し、つぎの日にはライブコンサート会場に搬入するというタイトなスケジュールで、9月30日、10月1日の2日間使用しましたが、Tooさんのサポートもあって問題なく収録することができました。
ぶっつけ本番に近い状況で、それでもInsta360 Proを使ってみたいと思えた?
カメラのマニュアル設定や3Dへの対応などの信頼感が持てる設計、かつ暗所のSNがよかったのが決め手。
森氏:
Insta360 Proは、カメラの感度やシャッタースピードを設定できるという、カメラとしての基本機能が装備されていて安心して使用できます。OZO CAMERAも含めて、最近はカメラにお任せでなにもできない、シャッター速度も決められないというカメラが非常に多く、撮影する側としては不満を感じていました。
特に今回のようなライブコンサートでは照明の演出も激しいので、フルオートのカメラでは映像が乱れてしまいます。Insta360 Proなら心配なく使用できると思いましたし、実際問題なく撮影することができました。
それから、リアルタイムスティッチング。動画の場合、4K解像度までなら撮影時にスティッチング処理をしてくれます。今回は6Kの360° 3D撮影を選択したので、後処理になりましたが、専用アプリ(Insta360 Proカメラコントロールアプリ)を利用することで、セッティング中や撮影中にスマートホンやタブレット、パソコンでスティッチングをプレビューすることができます。
後処理に関しても、専用アプリ(Insta360 Pro STITCHER)でスティッチの自動処理が効きますし、そのスティッチのパラメーターを自分で設定することもできます。Insta360 Proでは、スティッチする場所を決めるのではなく、スティッチする距離を決めるという方法を採用していて、理にかなっているなと感じました。実際、ポストプロ作業での追い込みが、かなり楽になります。
後処理というところでは、3D撮影後にレンズ間隔を自由に決められますし、3Dには絶対必要な機能なので、3Dカメラをわかっている人が設計しているカメラだなと感じました。そういう部分は信頼感につながります。
似鳥氏:
コストパフォーマンスもポイントでした。これまでも複数台のカメラを組み合わせたシステムで、360°撮影をしてきました。2Dの事例になりますが、今年3月に車内のVR映像を制作しまして、撮影に数百万、ステッチに数百万というコストがかかっています。しかし、それが普通なのかなと思っていました。
今回のお話をいただいたとき、3カメにはしたいと考えましたが予算を考慮しなければならない。当初検討していたOZO CAMERAは1日のレンタル費が数十万円で、それが3台となると、レコード会社の方々も含めて話し合ったときに、ちょっと高いなというのが正直なところでした。
そこで、リコーのTHETAを組み合わせてみようとしていたときに、Insta360 Proが使用できることになり、予算にピタリとはまりました。
森氏:
実際の収録は、Insta360 Proをメインカメラに、OZO CAMERAと小型カメラ用の3DリグにTHETAを2台設置して、360° 3Dカメラの3カメ体制で行っています。
似鳥氏:
TooさんがInsta360 Proでテスト収録した夜景映像のSN比も良かった。先ほどの車内VR映像では、夜景のノイズがひどくて大変なことになりました。ライブコンサートの会場は暗いことが多いので、安心材料になりました。
森氏:
Insta360 Proでは、動画はH.264でエンコードされ、ラッピングはMP4形式になりますが、Log収録に対応しています。3Dモードでは8K収録はできず、6Kか4Kの選択になりますが、画質は問題ありませんでした。
実際にInsta360 Proを使用されて、収録現場での取り回しはいかがでしたか?
映像はリアルタイムで確認可能、数万人のコンサート会場でもWiFiコントロールは問題なし。
森氏:
2日間使用して、1日目と2日目では設置場所を変えて収録しています。1日目は客席内のPA席前。レーザー光線の演出なども含めて会場全体の雰囲気を重点的に撮影しました。そして2日目はステージ上のど真ん中、ボーカルの方の足下に置いています。
Insta360 Proのセッティングやコントロールは、もちろん本体でも行えますが、先ほども話に出た専用アプリ(Insta360 Proカメラコントロールアプリ)をダウンロードすることで、スマートホンやタブレットを使用し、WiFi経由で可能になります。このアプリで収録中の映像をリアルタイムに確認することもできますし、スマートホンを利用するヘッドマウントディスプレーを用意すれば、通常の運用形態の中で3D映像も確認でき、かなりの安心感があります。
しかし、ライブコンサート当日の会場では、何万人という来場者がスマートホンを持っていて電波も飛び交っているので、実際のところコントロールが本当にできるのかはわからない状況でした。そこで、スマートホン2台、タブレット1台、3種類の端末にアプリをダウンロードして用意していましたが、すべて問題なく利用できています。
記録メディアについては、SDメモリーカードもしくはUSB3.0接続の外付けSSDでの収録を選択できますが、今回はSDメモリーカードを利用しました。要求されるカードのスペックはそれなりに高くなりますが、128Gバイトのカード2枚で2時間半ほどのライブステージをフルに記録できました。Insta360 Proのカードスロットは1基なので、途中に一度、カードの差し替えを行っています。
電源は着脱式の専用バッテリーの場合、最大75分の連続撮影時間となっていますが、今回はVマウントバッテリーをDC入力へ接続して電源を供給し、本番中はバッテリー交換することなく運用できています。
Insta360 Proを初めて試用した翌々日が本番でしたが、結果としてほぼ不安なく運用できました。もちろん、Tooさんにサポートしていただいたこともありますが、狙ったとおりの映像が撮れているだろうという安心感がありましたし、収録後に確認しても問題なく撮影ができていました。
今後は、Insta360 Proをどのように活用していきたいと考えていますか?
鮮明な8K映像の活用や、VRならではの臨場感ある映像を制作したい。
森氏:
まずはInsta360 Proができること、そしてできないことを検証し、ノウハウが必要な部分を把握したいですね。その上でプロモーション用のVRコンテンツの制作も必要になると思います。
Insta360 Proの活用については、たとえば月の映像や静止画を撮影して、教育もののドーム映像として制作することを考えています。最大8Kで撮影できますので、従来のドーム映像を比較しても、かなり鮮明な映像で提供できるはずです。
森氏:
せっかくですから音楽ものでいろいろと面白い、単なる360°見えますよというVR映像ではなく、3D映像やVR空間音響を活かした臨場感のあるVR映像を制作したいですね。一般的なYouTube向けのVR映像であれば、特に高い費用をかけることなくだれでも制作できてしまいますし、プロとして違いを出していきたいと考えています。
※記載の内容は2017年11月現在のものです。内容は予告無く変更になる場合がございます。