ICT教育を積極的に推進する帝京大学小学校では、3〜6年生を対象に児童1人1台のiPadを導入しています。
以前より「Jamf Pro」を利用してiPadの管理をおこなっているほか、2023年9月からは「Jamf Data Policy」の採用を決定。
Webフィルタリングのみならず、iPadのデータ通信量を分析して"学習効果の見える化"にも取り組んでいます。
Jamf Data Policyをなぜ導入し、どう活用しているのか。学内のICT教育を推進するキーパーソンである、教頭 等々力將仁様、主任 小林翔太様、教諭 平澤賢也様、教諭 安達真人様に話を伺いました。
約220台のiPadをJamf Proで管理
帝京大学八王子キャンパス内に2005年4月に開校した帝京大学小学校は、「『自分流』で培う人間力(自ら問題意識を持ち、考え、判断し、行動し、その結果に責任をもつ、『生き抜く力』を育みます)」を教育理念に掲げ、子どもたちの主体性や自主性を重んじた教育をおこなっています。
1クラス20人以下の少人数でのきめ細やかな学習指導、1年生からネイティブスピーカーと日本人英語専科が協力しておこなう英語教育、知育玩具を活用したプログラミング教育、自然豊かな環境を活かした里山教育(課題解決学習、STEAM教育)などの独自の取り組みを教育の特色とするほか、学びのスタイルとしてアクティブラーニング(主体的・協働的な学び)を重視。また、2021年9月、3年生以上の児童を対象に1人1台デバイスとして利用していたWindowsタブレットをiPadへ更改し、これからの情報化社会を生きる子どもたちに必要不可欠なICTスキルの育成や、児童一人ひとりの個性を重視した個別最適な学習に取り組んでいます。各教室では電子黒板も活用されるほか、有事の際はオンライン学習を取り入れたり、デジタル教科書やデジタルドリルを教材の選択肢として用意したりするなど、ICTを積極的に活用しながら児童が主体的に学ぶ姿勢を育んでいます。
こうした21世紀型教育を推進するうえで欠かせないのが、児童が持つ各iPadのしっかりとした設定の管理と安全対策です。帝京大学小学校ではiPadの導入当初からJamf社の「Jamf Pro」を採用し、児童と先生用に配備している約220 台のiPad を管理しています。また、安全対策やセキュリティ面で欠かすことのできないWebフィルタリングに関しては、2023年9月から同社の「Jamf Data Policy」を活用。児童が学内、または持ち帰り学習で自宅からインターネットにアクセスする際に危険なサイトや学習に支障をきたすサイト、有害なサイトへのアクセスをブロックしています。
平澤様(以下、敬称略):
iPadにも標準でAppleのフィルタリング機能が搭載されています。以前はJamf Proを用いて管理下のiPadに対してMDMで簡易なフィルタリング設定を配布していましたが、Jamf Data Policyはコンテンツフィルタリングに特化した製品なので設定がしやすく、詳細なフィルタリングをおこなうことができます。本校で導入しているiPadは学習のためのものであり、ルールを守ったうえで使うように指導を徹底していますので、子どもたちが意図的に不適切なコンテンツを検索することはないと思っています。しかし、たとえば調べ学習をしているときにゲームの広告を誤ってタッチしてしまったり、性的なコンテンツが表示されてしまったりする可能性があります。そうした事態を招かないように、子どもたちの安全をより強く保障できる点に魅力を感じました。
設定がしやすいJamf Data Policy
ブラウザのみのフィルタリングにしか対応しない製品もある中で、Jamf Data Policyはブラウザとアプリいずれの通信もブロックでき、フィルタリングの設定を簡単におこなうことができます。設定画面もわかりやすく、サイトやアプリの利用可否をあらかじめ用意された豊富なカテゴリから選択したり、個別にドメイン登録して通信を制御したりすることができます。また、通信種別ごと(セルラー、Wi-Fi)に分けて設定できることも大きな特徴です。
小林様(以下、敬称略):
Jamf Data Policyのフィルタリング設定画面を開くと、まずアダルトや広告、ギャンブル、ゲームといったカテゴリが表示され、カテゴリごとにまとめて許可/不許可をワンクリックで設定できます。また、各カテゴリの中には多数のサービスやアプリがあり、個別設定も可能です。たとえば、ライフスタイルというカテゴリでは『教育』は許可にして『出会い』は不許可にするなど柔軟に設定でき、必要に応じて簡単に切り替えられます。私たち教員はITの専門家ではありませんから、こうした設定のしやすさはとても有難いです。
帝京大学小学校では、Jamf Data Policyで実際にフィルタリング設定をおこなう際、ICT担当の教員だけではなく、各学年から1人ずつ教員を集めて話し合いをおこないました。ほかの教員の視点を取り入れることに加え、具体的にどんなフィルタリングを設定しているのかを理解してもらい、保護者にもしっかりと説明してもらえるようにするためです。Jamf Data Policyの"設定のわかりやすさ"はこうした初期設定の場でも力を発揮しました。
小林:
まずはICT担当が初期設定をおこなったあと、Jamf Data Policyの設定画面を電子黒板に映し出して、皆で1つ1つの設定を決定していきました。フィルタリング項目がカテゴリごとに整理されているのでわかりやすいですし、項目にはアプリ名だけでなく、アプリのアイコンも表示されます。そのためICTが得意ではない教員でもすぐに見分けがつきます。
1人1台デバイスの利用状況を把握
Jamf Data Policyの導入効果に関しては、使用後まだ日が浅いため定量的な判断をするには早計であるものの、「導入後に子どもたちがインターネットの危険に晒される事案が発生していない」ことから、安全性担保の実現には大きな価値を感じています。
また、児童の主体性や自主性を重んじる帝京大学小学校では、以前からiPadの利用に関して厳しいルールを設けておらず、学年ごとに必要最低限の基準を設けてフィルタリングの設定をおこなっていました。そのため、Jamf Data Policyを導入したからといって、閲覧できないサイトが増えて授業や児童の学びに支障が出たりするようなデメリットは生じていません。導入したての頃は意図しないサイトがブロックされてしまったこともあったそうですが、その都度ホワイトリストにドメインを登録するなどして修正していったと言います。
平澤:
Jamf Data Policyによってセキュリティが保障されて安全性が高められたことは1つの導入効果ですが、それよりも子どもたちがより安心して学習に使える環境や、教員がより安心して授業できる環境を整えられたことを堂々と宣言できるようになったのが大きなメリットです。
安達様(以下、敬称略):
iPadを購入される保護者の方へ説明会を実施した際、子どもが危険なサイトや不適切なサイトにアクセスするのではないかという質問がありました。そうした不安の声に対して、本校ではJamf Data Policyを導入しているため、他校とは比べものにならないほどセキュリティ強度が高いと自信を持って言えるようになりました。さらに、万が一トラブルが起きたときも、Jamf Data Policyを使えば子どもたちがどのサイトにいつ接続したかなどがわかりますので、原因の特定や今後の対応に活かすことができます。
こうした言葉からもわかるように、Jamf Data PolicyではIT管理者がデバイスごとの通信状況をリアルタイムで把握し、データ通信量をもとに児童がどのようなサイトやアプリをどれくらい利用しているかを確認できます。こうした"データ通信量の可視化"がおこなえるという、一般的なフィルタリング製品にはないJamf Data Policyの独自の強みを帝京大学小学校では導入時の魅力として捉え、また導入後の大きな効果として感じています。
"学習効果の見える化"も可能に
Jamf Data Policyによる"データ通信量の可視化"が可能になったことで、帝京大学小学校では"学習効果の見える化"にも今後取り組もうとしています。つまり、児童1人ひとりがどのような学習ツールを利用しているか、自宅学習でiPadがどれくらい利用されているか、どのアプリが一番使われているか、新たに導入した学習ツールがどれだけ利用されているかなどの分析に活用していくのです。
小林:
たとえば、本校ではAI型教材のデジタルドリルを導入していますが、その利用状況を把握したいと思っています。おそらく学年ごとに使用状況の差があったり、高学年になるほど勉強が苦手な子が使っていたりなどの傾向が見えてくると思います。それがわかれば、今後も使い続けるのかどうかや、新しいツールを導入するかを的確に判断できます。今後はクラウド型のデジタル教科書を導入することで同様に利用状況を可視化して分析していきたいと思います。
また、帝京大学小学校ではこうしたデータ分析を単に学習ツールの有効性を判断するためだけではなく、個別最適な学習を深化させたり、児童の興味関心を顕在化させたり、iPadをより使いやすくしたりするためにも積極的に活用していきたいとします。
安達:
たとえば、AI型教材で勉強していて学力が上がっていればその子どもにはAI型教材が適していると判断できるでしょうし、逆に上がっていないのであればその子どもにはAI型教材が合っていないのかもしれません。ですから、紙の教材を勧めたり、教員の空いた時間を利用した一対一の学習などをおこなったりできます。子ども1人ひとりの特性によって教育のアプローチの仕方を絞り込み、それを授業に活かしていくことができます。
平澤:
学校で皆一緒におこなう学習だけの見える化ではなく、子ども1人ひとりの興味関心や得意不得意を”見える化”することにも活用できると思います。
小林:
子どもが使いやすいiPadにしてあげたいと思っています。ですから、たとえばタイピングなど使用頻度が多い教育的なアプリがあれば、それをホーム画面に登録してあげることができます。これによって、これまで使っていなかった子どもも興味を持って使うようになるかもしれません。
各家庭へのフィードバックも検討
GIGAスクール構想をきっかけに1人1台デバイスを導入する学校は珍しくなくなりましたが、こうした児童一人ひとりの学習状況や興味関心の見える化を実現している学校はまだ多くありません。帝京大学小学校ではJamf Data Policyを導入することでそれにいち早く着手し、自分たちの教育活動に活かそうとしているのです。また、将来的にはその分析結果を保護者に共有することも検討しています。
平澤:
本校では各家庭でのICT機器やインターネットの利用状況などに関するアンケートを取り、その調査結果を保護者の方にフィードバックしています。本校はiPadを導入していることもあり、全国平均と比べて子どものICTの使用度は高いのですが、そのうち何割くらいを学習に使っているのかは見えてこない部分でした。多くの家庭では子どもがiPadで何をしているかを逐一追うことは難しいと思いますので、Jamf Data Policyによってそれを”見える化”して共有することで家庭でのiPadの利活用の判断に活かしていただけると思います。
小林:
アンケートで『うちの子はYouTubeばかり見ています』と答える保護者の方もいます。しかし、少なくとも学校では休み時間にAI型教材で勉強している子どもが多いように感じます。保護者の方はそうした学校内での子どもの姿を見ることができませんので、Jamf Data Policyを使った分析結果を共有することで、実際の子どもの姿と保護者の感覚的なイメージの差をなくしてあげることができます。そして、うまく差がなくなれば子どものやる気や自信もつながると思いますし、子どもがiPadを使えているとわかれば保護者の方もさらに協力してくれると思います。
信頼できるエキスパートの存在
このようにJamf Data Policyのさらなる効果的な活用も視野に入れる帝京大学小学校ですが、なぜそもそもJamf Data Policyを導入したのでしょうか。その理由を尋ねると、これまで述べたJamf Data Policyならではの特徴に加え、"サポートが充実していること"が導入を決断する大きな決め手になったと言います。
帝京大小学校ではJamf製品の販売・サポートをおこなうApple製品正規販売店のTooからJamf Proを導入し、同社の「あんしんMDM運用」のサービスによって管理・運用に関するきめ細かなサポートの支援を受けてきました。そうした中で強い信頼感を築いていたことが、Jamf Data Policyの導入にもつながったのです。
平澤:
iPad向けのフィルタリングサービスに関しては、導入時にいくつか比較検討をおこないました。Jamf Data PolicyはJamf Proとの連携にも優れていますし、何かあったときにTooに聞くことができます。ほかの製品を選択して新しい関係をいちから構築するよりも、すでに"絶対信頼できる"とわかっている人に頼れるほうが安心できました。
小林:
Jamf ProでもJamf Data Policyでも、その設定や管理・運用をおこなうのは私たち教員です。何かトラブルが起きたときに解決できなかったりすると、授業や学びが止まってしまいますので、エキスパートに頼れることはとても大事です。これまでTooさんには電話やメール等で何度も質問をしましたが、とてもレスポンスが速く、本当にここまで聞いていいのかなということでも丁寧に返答をくださいます。
安達:
本校では、Tooの『BYAD(Bring Your Assigned Device)プログラムを利用してiPadを導入しています。そのためデバイスの修理に関することや、たとえばスクリーンショットが勝手に撮影される、iPadが学校のWi-Fiにつながらないといったトラブルに関しても、解消するまで親身になってサポートしてくれるのがとても有難いです。
Jamf Data Policyのフィルタリングを設定する際には当初何を許可してブロックすべきかを悩んでいたそうですが、そんなときもTooの担当者が設定を手助けしてくれ、導入経験をもとにしたノウハウを教えてくれたことが大いに役立ったといいます。また、Jamf Data Policyの操作方法がわからなくなったときにはTooがYouTubeで公開している説明動画を参照できるなど手厚いサポートがあったからこそ、教員でもフィルタリングの設定を短期間で適切におこなえたのだと言います。
児童ファーストの新たな学び
Jamf Data Policyの今後に関しては、しばらく時間が経ってから児童が安心・安全に学べる学習環境が構築できているかという観点に再度立ち、設定の見直しを適宜おこなっていくそうです。また、一歩先を行く"学習の見える化"をできるだけ早期に実現するために、教員自身が習熟度を深めて活用レベルを上げていきたいとします。
とかく学校でのフィルタリング製品の導入は、セキュリティだけが目的になりがちです。もちろん、セキュリティの向上は重要ですが、あまりにも厳しい制限をかけてしまうと、せっかくの1人1台デバイスが使いづらいものとなってしまい、児童生徒の自由な学びを妨げてしまいます。そうした中で、子どもたちを縛りつけるためではなく、安全性が担保できていることを可視化し、学習効果の見える化によって児童の教育や保護者の理解に役立てようとする帝京大学小学校のJamf Data Policyの活用事例には学ぶべきことが多いでしょう。
また、そうしたセキュリティ一辺倒にならない利活用がそもそも目指され、スムースに促進されるのはICT教育のビジョンや目標が共有され、風土として学校全体に根づいているからにほかなりません。それは「帝京大学ではどんなICT教育を実現しようとしているか?」と尋ねたときの3人の先生方の言葉からも見て取れます。
平澤:
本校では、iPadの導入を『使用の仕方をルールで禁止するのではなく、課題が解決できない場合にルールを作る』というデジタルシチズンシップの考え方で進めています。ICTの利活用が必須となるこれからの世の中で、それを自分で正しく使いこなし、自分を表現する方法を小学校の頃から自然に育むことが大事だと考えるからです。本校では日常の授業においても"絶対にiPadを使いなさい"とはしていません。iPadの機能を活用する子もいれば、デジタル教科書を使う子、アナログの紙を使う子などさまざまです。子どもたちがいろいろと工夫して、私たちが想像しなかったような新しい視点や面白い発想を引き出すことが、ICT教育では一番大事だと思っています。
安達:
これは学校説明会でもお話しているのですが、本校ではiPadを子どもたちの個性や才能を伸ばすためのツールだと捉えています。iPadという個別最適化のツールを使って、子どもたち1人ひとりが自分の長所を伸ばしてほしいと思っています。
小林:
文部科学省では令和の日本型学校教育としてウェルビーイング(Well-being)を実現すること、つまり子どもたち1人ひとりが幸福や生きがいを獲得するための教育がSociety 5.0社会では特に重要だと位置づけています。これまではそれを実現するためのツールとして鉛筆やノートがあったわけですが、今後はそれがiPadに変わっていくと思います。その良き使い手になってもらい、1人ひとり異なる幸せや生きがいを見つけてもらえるように後押しするのが私たち教員の役割だと思います。
帝京大学小学校では2012年の校舎の新設移転をきっかけに、校内LANや各教室への電子黒板の配備、教材や業務のデジタル化を進めるなど、早期からICTの導入を積極的に推進してきました。こうしたことからiPad導入後も利活用はスムースに進み、コロナ禍でのリモート授業も早々に開始することができました。また、2022年度は顔出しを条件に登校扱いとして認めるオンライン出席を一時的に導入するなど、できる限り子どもたちに寄り添った対応をおこなっています。こうした柔軟な対応は、まさにICTがあったからこそ実現できたことだと言います。
等々力様:
現在は登校を原則としていますが、新型コロナウイルス感染の疑いがあって登校できない児童も、家から授業に参加できます。また、家に資料などを持ち帰っていなくても、iPadにデータを送れば家からでも授業に出ることができます。このような対策に関しては学校側だけで決めるのではなく、子どもたちと会話したり、保護者からの意見も取り入れたりしています。また、教員個人で抱えられない課題や悩みに関しても、これまで教員間で協議を重ねながらいろいろと解決してきました。ICT担当の小林先生、平澤先生、安達先生の3名に関しては、日々自身で最新情報を収集して、検証を重ねてくれていますのでとても頼もしく、信頼を置いています。
帝京大学小学校では来年度はドローンを飛ばしてその映像を教室で閲覧する体験学習を取り入れるなど、ICTに関してはデジタルとアナログのバランスを重視しながら、かつ新しいものに関しては今後も校内で協議しながら積極的に取り入れていきたいとします。帝京大学小学校での"児童ファースト"の新たな学びはこれからもどんどんと加速し、子どもたちの未来を切り拓いていくに違いありません。
※記載の内容は2024年4月現在のものです。内容は予告無く変更になる場合がございます。