記録的大ヒットとなった「君の名は。」から3年の月日を経て、2019年7月に公開された「天気の子」。前作よりさらにデジタル作業の重要度が大きく増した今作品の制作には、デジタル環境の強化、再構築が必須でした。 株式会社コミックス・ウェーブ・フィルムの都川眞栄様にお話を伺いました。
まずは、都川さんのお仕事内容についてお聞かせください。
映画「天気の子」では、設定制作を担当しました。また、並行して社内システム管理をCGチーフより引き継ぎ、担当していました。前職は地元徳島の製薬会社で、パソコンをキッティングして全国の拠点に送る仕事に携わっていました。PCのハードウェアに強い自信はありましたが、システム管理については全くの初心者でしたので、以前から当社とお付き合いのあった有限会社ファーラウトさん、Tooさんに助けてもらいながらシステムの構築や管理を行いました。
今回の制作環境の特徴を教えてください。
前作に比べてスタッフが増え、社内でデジタル作業をするスタッフが多くなりました。今回、撮影、VFXのほぼ100%を弊社スタジオ内で行っています。
まず、作業データを、前作品まで使っていたFTPサーバーからSMB接続できる新しいサーバーに集約しました。「天気の子」の現場では、スクリプトを使って様々な工程を圧縮していたのですが、スクリプトを効率的に使うのにSMB接続できるサーバは不可欠でした。
また、HPのワークステーションを15台導入し、ライセンスサーバーに1台、レンダーファームに14台を割り当てました。レンダーファームには、撮影で使うAfter Effectsと各種プラグイン、CGで使うHoudini、3ds Maxとそれぞれのプラグインを使えるように準備し、複数のソフトウェアからの処理を1つのシステムでレンダリングできるようになりました。レンダーファームに任せることで、マシン環境に関係なくレンダリング品質を統一できたことも作品のクオリティアップにつながっています。
今回初めての試みとして、Deadlineをディスパッチャに使用しました。レンダリングジョブのバッティングが起きないのはもちろん、適時ジョブを複数台に振り分けることで速度アップにつながること、ジョブの進行状況、エラー状況が見やすいことなど、とても助けられました。
別業界からアニメ業界に来たわたしが「天気の子」という大規模のプロジェクトで大きなトラブルもなくシステム管理をやり遂げられたのは、早い段階で勇気を持ってTooさんやファーラウトさんに相談したことが大きいです。デジタル環境については、どの業界でも内部の得意な人にタスクが集まる傾向がありますが、「餅は餅屋」と考えて、相談する勇気を持つことが今回の作品で得た大きな経験だと思っています。
ほかに、今回の制作環境で変わったことはありますか?
PhotronのHARBORというサービスを使って納品データのやり取りを行いました。HARBORに関わる回線をすべて10Gbpsで構築していたおかげで、ギリギリまでクオリティアップのために現場のスタッフに踏ん張ってもらうことができました。これから一層デジタル化の進むアニメーションの現場では、回線速度に対する投資が重要になってくると感じました。
制作担当として、映画「天気の子」の見て欲しいポイントはどこでしょう?
今作では、全体の1/3程のカットでCG、VFXが使われていますが「一見してCGとわからないようなCGが使われているところ」が、わたしのイチ押しポイントです。例えば、街中で歩いている人々やドアの開閉にも贅沢にCGが使われています。
システム面での今後の展望をお聞かせください
データコピーにかかる時間的、人的コストを減らすためにも、社内のネットワーク、ハードウェアを10G化しようと思っています。また、メンテナンス性を高めるためにも、各作業者の作業環境を画一化したいと考えています。
それから、昨今の状況を鑑みて、作品のデータ管理をはじめとしたセキュリティ対策をより一層強化します。その際には、クリエイターがストレスを感じることなく、「今まで通り使える」という前提を崩さずにセキュリティレベルを上げることが大切だと思っています。
弊社は新しいものを導入する際のハードルが異常なくらい低いんです(笑)提案したことに対してガンガンチャレンジさせてもらえる社風なので、アニメ業界に限らず、Tooさんをはじめとする様々な業界の人たちと情報交換しながら、新しいシステムや様々な課題に取り組んでいきたいと思っています。
※記載の内容は2019年8月現在のものです。内容は予告無く変更になる場合がございます。