2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されます。企業は、人材確保・定着や生産性向上のためにも、しっかりと働き方改革を推進する必要があります。今回は、働き方改革の概要やメリット・デメリットを確認したうえで、実際の取り組み事例についても紹介します。
働き方改革の概要・課題と具体的な取り組み方
ここでは働き方改革の概要と改革が求められている背景や課題を紹介します。さらに、企業が働き方改革を実現するための具体的な取り組み方についても取り上げます。
働き方改革の概要
現在企業や働き手が直面しているさまざまな問題を解決するために、2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されます。働き方改革は、生産性向上、就業機会の拡大、労働者の意欲・能力を存分に発揮できる環境づくりにより、日本経済を活性化し国力を維持・発展させるという狙いがあります。
働き方改革につながる政府の動きのひとつに、デジタルファースト法案の検討があります。デジタルファースト法案が施行されれば、行政手続きや本人確認手法に関して電子申請が優先されることになり、そのためのシステム整備が行われます。企業にとっても、紙ベースで行っている各種申請業務をデジタル化することで業務効率の向上が期待されます。
企業が直面している課題とは?
日本国内における多くの企業が直面している課題は以下の3点です。
長時間労働
日本は欧州諸国と比較して年平均労働時間が長く(労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2017」)、2013年には国連から対策を講じるように勧告を受けています。さらに、調査会社Northstarの調査では、有給休暇の取得率が3年連続最下位(19ヶ国中)という結果になっています。長時間労働そのものも問題ですが、長時間労働を前提とした企業の体質が大きな問題となっています。
非正規労働者と正規労働者の待遇格差
非正規労働者(パート、アルバイト、契約社員、派遣社員など)と正規労働者(フルタイムの正社員)との賃金や待遇格差が問題となっています。両者の賃金格差は欧米諸国よりも開いているとされます。「同一労働同一賃金」の考え方に基づき、不合理な賃金格差の解消が目指されています。
生産年齢人口の減少による人材不足
少子化による人口減、特に15~64歳までの生産年齢人口の減少が問題となっています。総務省の平成29年版「情報通信白書」によると、生産年齢人口は2015年の約7,629万人から2030年には約6,875万に減少すると推測されていま す。その後も、総人口、生産年齢人口ともに減少していく可能性が高く、企業は人材の確保がますます難しくなってくると予測されます。
働き方改革の具体的な4つの取り組み
これらの企業課題に対応するため、働き方改革が進められています。ここでは働き方改革の具体的な取り組みについて紹介します。
テレワーク・在宅ワーク普及の推進
労働生産性の向上を目的として、テレワークや在宅ワークが推進されています。生産性の低いルーチンワークや無駄な移動時間をカットし、業務効率を高めることができます。
柔軟な働き方の促進
テレワークの他にも、フレックスタイムの導入や副業・兼業の承認などによる柔軟な働き方の促進が取り組まれています。
ダイバーシティーの推進
高齢者の就労支援、介護・育児との両立を図る女性の雇用促進、外国人雇用など多様な労働力を活用できる環境整備や評価体制の構築も重要視されています。
ITツールなどの活用
業務効率を向上し、生産性を高めるためには、クラウドツールをはじめとするITの活用が不可欠です。具体的には、クラウドの他、業務連絡用のビジネスチャットアプリやSFA(営業支援システム)、Web会議システム、モバイル端末など、業務効率や柔軟な働き方をサポートするツールの導入が進められています。
働き方改革のメリット・デメリット
生産性向上や多様な働き方が実現できる働き方改革には多くのメリットがあります。しかし同時にいくつかのデメリットも考えられます。ここでは、従業員側、会社側の観点からそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。
従業員側のメリット
従業員側のメリットは以下の3点です。
自由な時間の確保
働き方改革により長時間労働から解放されれば、休日や終業後の自由時間が確保されます。その結果、趣味や自己啓発などに時間を費やすことができます。これによってワーク・ライフ・バランスの向上が期待できます。
ライフスタイルに合った働き方の実現
子育てや介護との両立や副業を行うなど、個々の事情や状況に合わせた働き方が可能になります。
同一労働同一賃金による不平等の是正
これまで正社員との待遇の差に理不尽な思いをしてきた非正規雇用者にとっては、格差が是正され生活水準の上昇や就労意欲の向上が期待されます。
会社側のメリット
会社側のメリットについては主に下記の4点があります。
労働力の確保
柔軟な働き方が可能な企業には、優秀な人材が集まり、定着しやすくなります。
社会的な信用を得られる
過労死をはじめとした労働問題に対して世間の目が厳しくなっています。長時間労働を解消し、健全な企業体質であることをアピールすることは、社会的な信用につながります。
生産性向上につながる
働き方改革の実現を目指すことは、無駄な業務を削減して生産性の高い業務に人や資源を集中させるためのきっかけになります。
雇用の流動性が高まる
「同一労働同一賃金」の考え方により従業員を積極的に採用しようとする際に、成果を上げられない生産性の低い既存従業員がネックになるケースがあります。現状は労働契約法や労働基準法などのセーフティネットにより解雇が容易ではありませんが、条件が緩和される可能性があります。そうなった場合、必要なときに積極的な人材管理が行えるようになります。
従業員側のデメリット
次に、従業員側のデメリットについて紹介します。
残業禁止による一時的な収入低下や仕事の持ち帰りの発生
残業や休日出勤が規制されると、それまで支払われていた時間外手当分がもらえなくなり収入が低下するかもしれません。また、自宅への仕事の持ち帰りという「隠れ残業」が発生する可能性があります。
負担のしわ寄せが管理職に集中することもある
一般従業員や非正規雇用者の仕事の負担を削減した結果、管理職や特定の従業員にのみ負担が集中してしまう可能性が考えられます。
会社側のデメリット
会社側のデメリットについて2点紹介します。
働き方改革に対応するために負荷がかかる
働き方改革に対応するためには、仕事の見直しや就業規則などの再整備が求められ、コストや作業負担が発生してしまいます。
罰則規定がある
2019年4月以降、有給休暇取得義務(年間5日)や長時間労働・残業時間の制限(原則として月45時間、年360時間)を守らない場合に罰則が課される可能性があります。有給休暇取得義務違反に対しては、従業員一人につき30万円以下、長時間労働・残業時間制限の違反に対しては罰金30万円以下もしくは、6ヶ月以下の懲役、と規定されています。
現行の生産性維持・向上への懐疑
働き方の変更やITツールの導入に伴い、従業員の混乱や反発を招くことがあります。また、セキュリティリスクもはらんでいます。確かな指針によるリーダーシップの発揮と最適なツールの選定、運用ルールづくりが求められます。
働き方改革取り組みの事例
すでに多くの企業が働き方改革に取り組んで成果をあげています。ここでは、成功事例として2社の取り組みを紹介します。
A社の取り組み
オフィスICTの運用・監視などを行なうA社では、早期よりテレワーク導入のための基盤を整えることによりスムーズな在宅ワーク制度の導入に成功しています。
テレワークの基盤となるオフィス改革(ペーパーレス化・フリーアドレス化)
2007年より効率的な働き方を目的としてペーパーレス化・フリーアドレス化にいち早く取り組み、2010年の本社移転をきっかけに全社展開。テレワークの基盤となるオフィスに依存せずに働ける環境を確立しました。
テレワーク導入に向けてのルールづくり
勤怠管理・業務の進捗管理のルールづくり、テレワーカーとオフィスワーカーとのスムーズな連携、テレワーカーにセルフマネジメントを求めることなど上司の目が届かなくてもマネジメントができるルールを作成。同時に、全従業員を対象としたテレワーク導入に関する説明会を合計40回開催して、制度の理解促進に努めました。
業務時間の「見える化」
在宅勤務従業員の勤怠管理を細かく管理するツールを独自開発して運用したり、Skype for Businessを活用してオフィスワーカーとの活発なコミュニケーションができる仕組みを整えたりするなど、場所の制約を受けない働き方を実現しました。
AI・RPAの活用による生産性の向上
テレワークの本格導入の成功を受け、さらなる生産性向上のためにAI(人工知能)やRPA(ロボティックプロセスオートメーション)を導入して定型業務の自動化の実現を図っています。
B銀の取り組み
地方銀行のB銀では、タブレットの活用、時短勤務制度の導入、ワーク・ライフ・バランスを実現する勤務体系の導入などにより、働き方改革に取り組んでいます。
在宅勤務により育児時短勤務者に柔軟な働き方を提供
育児時短勤務制度を利用しているスタッフのうち、渉外活動に従事しているスタッフのみを在宅勤務制度の対象としました。業務専用タブレットのログイン時間で勤務時間を管理。ログイン時間やログイン場所をはじめとした運用ルールを徹底させることで、柔軟な働き方を提供するとともに、長時間労働の防止、適切な顧客情報の取り扱い、働き方の見える化を実現しています。
タブレット活用による業務効率化
元々この銀行の業務は「紙」文化が根付いていたのが、業務全般や顧客対応にもタブレットを活用することで業務効率化を実現しています。待ち時間の解消という観点から顧客満足の向上にも寄与しています。
業務効率化につながる働き方改革への早急な対応が求められている
労働人口の減少や多様なライフスタイル・働き方への対応、非正規労働者と正社員との格差の是正という観点から、働き方改革への適切な対応が求められています。長時間労働が世間から厳しい目で見られていることや罰則規定がスタートすることにより、働き方改革への対応が遅れた場合、企業は競争力を失ってしまう恐れもあります。反面、取り組みに成功した場合には、企業にも従業員にもさまざまなメリットがあります。働き方の実現に向け、柔軟な働き方ができる制度やITツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。