2017年5月、日経BP総研が企業の経営企画、事業開発担当者にオープンイノベーションに関するアンケート調査を実施しました。これによると、勤務先の企業にオープンイノベーションが必要と回答したのは実に91.8%という結果が出ています。しかし、これだけ重要と認識されていながらも実践している企業は全体の38.2%とそれほど多い数字ではありません。そこで今回は、そもそもオープンイノベーションとはどういったものなのか、従来のクローズドイノベーションとの違いを見つつ、今、オープンイノベーションが重要だと思われている理由、そして、実践するためのポイントについて考察していきます。

今、オープンイノベーションが重要だとされる理由

そもそも、オープンイノベーションとは、他社や民間、大学の研究機関などの外部組織と連携し、新たなイノベーションを起こしていくことを意味するものです。自社のリソースだけでは足りない部分に関し、外部の技術やアイデアを提供してもらうことで、自社だけでは実現できない技術開発や新たなビジネスモデルの創出をおこないます。
従来、多くの企業はクローズドイノベーション、つまり自社内にあるリソースを活用し、新製品や新事業の研究開発をおこなっていました。その理由として、自社の知的財産を保護することが挙げられます。また、研究開発機能の取引コストが大きいため、自社のみで研究開発をおこなったほうがコストがかからず効率的であったことも、クローズドイノベーションが盛んだった理由の1つです。しかし、そのような状況は、製品のライフサイクルの短期化と低価格化によって大きく変化しています。
中小企業研究所が2004年に実施した「製造業販売活動実態調査」によると、1990年代、ヒット商品が1年未満で消えてしまう確率は4.8%。しかし2000年代に入ると、約4倍の18.9%が1年未満で売れなくなっています。以前であれば、1社で研究開発をおこなったほうが高い利益を得ることができました。しかし、先の調査結果のように新製品のライフサイクルが短期化していることで、研究開発にかけたコストを回収することが難しくなっています。

また、同調査において、ヒット商品が売れなくなる理由として、最も大きなものは「同種の商品で、より低価格品が現れた」であることが示されました。多額の予算をかけ発売した商品でも、一瞬のうちに低価格の類似品が出回り売れなくなってしまうことで、クローズドイノベーションをおこなうメリットがほぼなくなってしまったのです。
そのほかの理由として挙げられるのが、IT技術の進化による製品の高度化、複雑化です。最近、話題のスマートホームがその例です。高度なエレクトロニクス技術が必要なAIやIoTを駆使した快適で便利な住空間を、住宅メーカーだけで実現させることは難しいでしょう。また、家電メーカーだけでは住宅のノウハウがないため、単独でスマートホームを開発するとなれば、多大なコストと年月を費やさなければなりません。

すでにスマートフォン・ゲーム機など、一つの製品の中に多くの企業がそれぞれの技術を集約させることで生み出されています。 こういったクローズドイノベーションの限界、IT技術の進化による製品の高度化、複雑化など、その解決策としてオープンイノベーションが大きな注目を浴びているのです。

思ったようにオープンイノベーションが実践されていない理由

時代の変化に応じて注目を集めるようになったオープンイノベーション。しかし、冒頭で触れた調査でも見られるように、多くの担当者が重要であると回答しているにもかかわらず、実践している企業はまだそれほど多くはありません。その理由としてはいくつか考えられますが、そのなかでも次の3点はオープンイノベーションを実践するうえでの大きな課題といえます。

1. オープンイノベーションに対応できる人材の不足

これまで自社だけで研究開発をしてきた社員が急に外部の社員と同じチームでプロジェクトを遂行することは簡単ではありません。社風、理念、働き方などすべてが違うもの同士が互いに最高のパフォーマンスを発揮する必要があり、そのための環境をつくり出せる人材がいないことはオープンイノベーション実践の大きな壁といえます。

2.オープンイノベーションを実践する組織づくりができていない

人材不足と同様、組織つくりができていないことも大きな問題です。理由としては、経営層のオープンイノベーションに対する理解不足や、現場にいる変化を望まない社員の非協力が考えられます。

3.オープンイノベーションを実践するうえで自社内のニーズ、シーズが明確でない

オープンイノベーションを実践するためには、自社の強みと弱みを明確に理解していなければなりません。そして、どういった製品を開発したいのか、どのような新しいビジネスモデルを創出したいのかが明確であることも求められます。オープンイノベーションを実践したいとは思うものの、何をすべきかがわかっていないケースは少なくありません。まずは、自社を客観的に観察し、ニーズとシーズを明確にすることから始めなければ、これまでにない革新的なイノベーションを生み出すことはできないでしょう。

オープンイノベーションを実践している企業事例

では、すでにオープンイノベーションを実践し、成功を収めている企業の事例を紹介します。

人脈構築イベント開催がパートナー探しに貢献

オープンイノベーションを成功させるためのポイントの一つとして、いかにしてパートナーとなる企業、大学などを見つけ出すかということがあります。愛知県に本社を持つ自動車部品メーカー、A社では、EVや自走運転など、自動車産業の劇的な変化による新たなビジネスモデル構築の必要性を感じ、東京支店に拠点を設け、本格的にオープンイノベーション活動を開始。ともにビジネスモデルをつくる関係を構築するため、さまざまな取り組みをおこなっています。
そのなかでA社がとったおもな施策は、大学発ベンチャーへの出資、8つの大学や研究機関との組織的連携契約の締結、国家プロジェクトへの参画などです。さらにA社では、さまざまな業界の有識者の講演、対談、ワークショップなどをおこなう人脈構築イベントを3カ月に1回の頻度で開催しています。ほかにも参加企業150社を超える大規模イベントも年に1回程度実施することで、多くのパートナーとの協業を実現しています。

ベンチャーへの出資、大学や研究機関との組織的連携、そして人脈構築イベント。こうした施策によって、いざという時にどこと組むか、どこであれば自社にない技術を持っているかといった多くの情報を蓄積することが可能です。ピンポイントで自社に足りない技術を持った企業を探すことは、一見、効率的に見えます。しかし、A社の取り組み方法のほうが、情報の蓄積が多い分、問題点が出たときの迅速な対応が可能です。結果として、長期的な視点で見れば、より効率的にオープンイノベーションを進めていけるでしょう。

オープンイノベーション実践のポイントは人材にあり

オープンイノベーションは、自社内だけで完結させるのではなく、外部の力を借りて、スピーディーに進めていくことが求められます。しかし、協業する相手は一般の企業だけではなく、大学やスタートアップ企業であることが少なくありません。そのため、自社との企業風土や文化、業務に対するスピード感の違いにより、意見が折り合わなくなってしまうといったことが起こりがちです。

そこで、重要となるのが、自社と協業相手の橋渡し役を果たせる人材です。橋渡し役をこなすには、自社の企業風土、文化を把握し、さまざまな部署の人材を効率的に活用できる力が必要です。そして、それ以上に協業相手の企業風土、文化に対する理解も欠かせません。そのため、オープンイノベーションを実践し、成功させるためには、自社の考えだけに縛られず柔軟な思考を持った人材を育成するか、もしくは採用することがポイントになるといえるでしょう。


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