総務省 の調査によると、日本の生産年齢人口は1995年以降減少に転じており、2025年には7,085万人、2040年には5,787万人まで減少すると推計されています。
こうした状況下においては優秀な人材確保はもちろんですが、それ以上に流出阻止のための取り組みが重要となります。もし仮に、企業にとって欠かせないスキルを持った人材が他社や海外に流れてしまったら、大きな損失になることはいうまでもありません。そこで近年、多くの企業の注目を集めているのが「従業員満足度」です。
従業員満足度とは、そもそもどのような指標か
従業員満足度とは、言葉の通り従業員の業務環境に対する満足度を表す指標です。エンプロイー・サティスファクション(Employee Satisfaction)を省略して「ES」と表記されることもあります。
従業員満足度は企業内のさまざまな要因に左右されますが、一般的には業務の内容や評価システム、給与、福利厚生、働きがい、企業のビジョンなどが大きく影響するとされています。近年ではこれらの要因について従業員がどのように感じているか、定期的にアンケートや面談などを実施して調査し、従業員満足度を数値的に分析、改善につなげている企業も増えています。
従業員満足度向上によるメリット
従業員満足度の向上には、以下の3つのようなメリットがあります。
優秀な人材の確保・流出阻止
従業員満足度を改善する最も大きな理由は、企業にとって欠かせない優秀な人材を確保することにあります。かつては終身雇用が一般的で仕事のやりがいを大切にする労働風土もありましたが、近年はこうした常識は大きく変わり、ライフワークバランスの充実や労働条件の向上にプライオリティをおいて仕事を探す人も増えています。
こうした背景もあり、優秀な人材を確保し、自社の人材を他社に流出させないためには、人が長く働きたいと思えるような環境を整えることが重要なのです。
生産性の向上
業務の生産性が向上するということも、従業員満足度をアップさせることによるメリットの一つです。自分がすべき業務に集中できるように労働環境が整備されれば、従業員のモチベーションは高くなり、仕事に前向きに取り組めるようになります。「やらされる仕事」に対して能力以上の力を発揮できる人はいません。前向きに仕事に取り組むことができれば、一つひとつのタスクを、自分の仕事として主体的に取り組めるようになるでしょう。
また、前向きに仕事に取り組めるようになると、必要なコミュニケーションが円滑におこなわれ、従業員同士の人間関係にも良い影響が生まれます。情報交換が活発にされることで、業務の生産性は大きく向上するでしょう。
顧客満足度の向上
優秀な人材が集まり、一人ひとりが高いモチベーションで働ける環境がつくられれば、商品やサービスの品質向上につながります。これにより、顧客満足度の向上も期待できるのが3つめのメリットです。
日本にはもともと顧客を大切にする文化があり、顧客満足度の向上にはどの業種でも高いプライオリティがおかれています。しかし、仕事に対するモチベーションが低いと、「お客様のための最善策は何か」という意識を高く保ち続けることが難しくなります。その結果、通り一遍のマニュアル的な対応になりがちで、顧客に本当に価値を感じてもらえるような質の高い接客は期待できないでしょう。顧客に満足してもらうためには、まずは自社の労働環境を見直すことが重要なのです。
サービス・プロフィット・チェーンにより、企業はさらに成長する
従業員満足度と顧客満足度の関係について説明する際、しばしば取り上げられるのがサービス・プロフィット・チェーン(SPC)という考え方です。これはハーバード大学のヘスケット教授とサッサー教授らによって、1994年に『Putting the Service-Profit Chain to Work』という論考の中で発表されました。
具体的には
1. 従業員満足度を向上させることで、
2. サービスの品質が向上し、
3. それが顧客満足度につながる。
4. これにより増加した企業収益を従業員に還元することで、さらに従業員満足度を高められる。
...という好循環が生み出されるというものです。
従業員満足度の高まりはただ労働環境の改善になるだけでなく、自身の企業やブランドに対するロイヤルティを生成します。それが組織の一体感の醸成につながり、ひいては生産性や顧客サービスなど業務の質の向上をもたらします。
結果、顧客満足度は向上し、さらに顧客ロイヤルティが育成されることにより、ブランドやサービスの成長や収益の向上など、企業としての成長サイクルが生成されるのです。
ES向上のために、明日からできる8つの取り組み
従業員満足度は企業の成長のためにも重要なものの一つです。従業員満足度の向上のためには、具体的にどのような取り組みをすればいいのでしょうか。代表的なものを8つご紹介します。
1.ワークライフバランスの実現
仕事だけでなくプライベートの時間が充実すれば、生活に対する満足度も高まり前向きに仕事に取り組めます。短時間勤務制度やフレックスタイム制などを取り入れることができないか検討してみましょう。また、在宅勤務など多様な働き方を認める制度を設けることで、育児や介護による離職を防ぐことも重要です。育児休暇や介護休暇などの制度を拡充することで、働きやすさにつながります。
2.従業員の希望を加味した人員配置
企業において、現在の配置と自分のやりたい仕事内容は必ずしも一致するとは限りません。ただ、そこにあまりに大きなミスマッチがあると離職の原因にもなります。社内公募制度を整えたり、定期的に異動希望をヒアリングする場を設けたりするなど、希望に沿った配置ができる制度を整備することが重要です。
3.福利厚生の充実
従業員満足度の向上のためには、福利厚生の充実も重要なポイントです。最近はこうした企業向けに福利厚生サービスをアウトソーシングできるサービスも登場しているため、活用してみるのもいいでしょう。また、朝食や昼食の無料提供など、他社にはない独自の福利厚生を取り入れるのも効果的です。
4.労働時間、残業を削減する
長時間労働が当たり前になっていたり、残業が多かったりする職場はれだけで従業員に大きな不満を抱かせます。人手が足りないのはどこも同じですが、業務プロセスの中に無駄がないか、また業務内容を抜本的に効率化することで負担の軽減にならないかを考えてみましょう。
5.コミュニケーションの円滑化
どんなに労働環境を整備しても、職場の雰囲気が悪く人間関係がうまくいかなければ仕事の満足度は低いままになってしまいます。従業員同士が気軽に交流できるような場を設けたり、社内チャットツールや社内SNSなど、コミュニケーションツールの導入により、社内の人間関係を円滑にする取り組みを検討してみましょう。
6.評価方法の明確化
毎月の報酬は従業員にとって大きなモチベーションになりますが、その評価方法が曖昧なままだと「頑張っても評価されない」というイメージを持たれてしまいます。こうした不満を解消するためには、評価の方法やプロセスを明確にし、従業員にしっかりと告知することが大切です。
7.給与以外で従業員を評価する仕組み
評価の方法は必ずしも報酬だけとは限りません。目標を達成した社員を表彰したり、業務スキルを競い合うコンテストを開催したりするなど、給与以外でも従業員を評価する機会を作るのも満足度向上に効果的な方法です。
8.企業の理念や取り組みを告知する
経営方針やビジョンなど、企業の理念に共感している従業員は満足度が高く、高いモチベーションを持って業務にあたることができる傾向にあります。経営理念を従業員に共有し、将来的なビジョンを企業のトップから告知する場を設けるなどの取り組みが有効です。
従業員満足度の向上に有効な業務ツール
従業員満足度を向上するための取り組みは多岐にわたるため、どこから取り組めばいいか迷う方も多いかもしれません。そんな時は、まずは比較的手軽に始められて効果の高い、業務プロセスの見直しにつながるツールを導入し、「働きやすさ」の改善に取り組むことをおすすめします。具体的には以下のようなツールにより、業務環境が改善できないか検討してみましょう。
電子署名ツール
社内稟議や決裁、また契約などに必要な捺印や署名を電子化してくれる電子署名ツール。紙の書類をやり取りすることなく画面上で完結できるようになるため、業務の効率化につながります。また、外出先やリモートワークでも対応できるため、紙の書類で発生しがちだった「ハンコ待ち」の時間もなくなり、スムーズに処理できるようになるのも大きなポイントです。
ビデオ会議システム
業務におけるコミュニケーションツールとして、コロナ禍のリモートワークなどで急激に普及したビデオ会議システムもおすすめしたいツールのひとつ。遠隔地にいる相手ともまるで隣にいるかのように会話できるほか、簡単なファイルのやり取りにも使えます。育児や介護などで在宅勤務をしている場合でも、スムーズなコミュニケーションが可能になります。
ファイル共有ツール
業務に必要なデータをクラウド上で共有できるファイル共有ツール。ただデータを共有するだけでなく、アクセス権限機能でプロジェクトごとに領域を切り分けたり、社外スタッフとのデータ共有に利用したりと、これまで社内サーバーでは難しかった使い方が可能です。PCはもちろん、タブレットやスマホなどのモバイル端末にも対応しているため、自宅や外出先など社外からでもデータにアクセスできるメリットもあります。
企業の成長につながる重要な取り組み
従業員満足度の向上は、ただ従業員に気持ちよく働いてもらうだけでなく、優秀な人材の確保や獲得、商品やサービスの質向上など、企業にとって重要な価値を生み出す取り組みといえるでしょう。企業の成長には不可欠な取り組みとして、まずはできることから始めてみてはいかがでしょうか。