業務効率の改善や保管庫の省スペース化などを目的として、業務上保管するべき文書を電子化(ペーパーレス化)する企業が増えています。この記事では、こうした文書の電子化をすすめていくうえで知っておくべきなe-文書法とその対象文書、電子化のメリットなどをご紹介します。
e-文書法とはどのような法律か
e-文書法とは、会社法や商法、法人税法など法律で保管が義務付けられている文書について、紙だけではなく電子データでの保存を認める法律です。電子文書法とも呼ばれていますが、いずれも通称で、正確には2005年4月に施行された以下2つの法律から成り立っています。
- 民間事業者等がおこなう書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律
- 民間事業者等がおこなう書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
e-文書法は日本の電子社会化を目指す「e-Japan戦略」の一つとして制定された法律です。企業が作成する文書のうち、電子化することで業務上の利便性が認められるものは、積極的に電子化を認めようとする動きのなかで制定されました。
しかし、同時期に「個人情報保護法」が施行され、そちらの方が注目された影響もあり、施行されてからの期間の長さの割には詳細を知らないという人も多いかもしれません。それが最近になり、政府主導によりすすめられている働き方改革により業務効率の改善を図ったり、リモートワークの拡大により文書の電子化が必要になったりしたことで、改めて注目を集めています。
同じように電子文書の保存・保管について定めた法律には、1998年に施行された電子帳簿保存法もあります。電子帳簿保存法は帳簿や決算関連書類、証憑書類など主に国税に関する文書を対象としているのに対し、e-文書法は会社法や商法などそれ以外の法律で保管が義務付けられている文書も幅広く対象になっているという違いがあります。
e-文書法の対象となる文書
e-文書法により電子データでの保管が認められた文書は多岐にわたります。詳細は内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が公開している「e-文書法によって電磁的記録による保存が可能となった規定」で確認できますが、大まかには以下のような文書が対象となっています。
- 会計帳簿
- 契約書
- 領収書
- 請求書
- 納品書
- 預金通帳
- 見積書
- 注文書などの財務・税金関係書類
- 定款
- 株主総会・取締役会議事録などの会社関係書類
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 建築図面
- 診察記録
企業活動を続けていくうえで保管が義務付けられている文書は数多くあります。関連する法律や規定を管轄する省庁も財務省、国土交通省、厚生労働省など多岐にわたります。こうした文書に関して横断的に電子化を認めているのがe-文書法の大きな特徴です。
一方で、どんな文書でも一律に電子化が認められているわけではないので注意が必要です。一例として、船舶に備える手引書などは緊急時にすぐ見読可能な状態でなくてはならないため、電子保存が認められていません。また、免許証や許可証など現物性の高いものも対象外となっています。
文書を電子保存する際の4要件
先に述べたように、文書の電子保存はどのような種類や形態でも認められているわけではありません。電子保存が認められる技術的基本要件として、経済産業省では以下のガイドラインを定めています。
1. 見読性
電子化される文書は、はっきりと明瞭に読める状態で保存されている必要があります。ディスプレイで表示するだけでなく、プリンターで出力した際の可読性にも配慮する必要があり、解像度の目安はカラーの場合150dpiとされています。
2. 完全性
電子データは紙文書に比べるとコピーや改ざん、漏えいのリスクが高くなるため、こうしたトラブルへの対策が求められます。仮にトラブルが起こった場合はそれが判明できるようなセキュリティ対策はもちろん、電子署名やタイムスタンプなどを利用して、原本が完全な状態で保存されていることを証明する必要があります。
3. 機密性
機密性を確保するため、許可されたユーザー以外が当該ファイルにアクセスできないようにするなど、不正アクセスを防止する必要があります。
4. 検索性
必要が生じた際にすぐに電子文書を有効活用できるよう、検索性が保たれている必要があります。インデックスを作成して検索できるシステムを整備しておくことが重要です。
上記のように、文書を電子保存する際はとにかく書類をスキャナにかけてフォルダにまとめておけばいいわけではなく、その後の文書の活用やセキュリティまで考慮しておく必要があります。保管文書の電子化をすすめるうえでは、まずは当該文書が以下の要件を満たしているかどうかをチェックすることから始めるといいでしょう。
- 該当書類の電子保存が認められているかどうか
- 保存方法についての要件を満たしているか
- 行政への届け出や承認が必要でないか
実際に電子文書で業務をおこなう際は、文書にどこからでもアクセスできるクラウドサービスを利用するのが主流になってきています。上記の条件を満たした上で、自社の業務に対応できるクラウドサービスがあるかを確認しておくことも重要です。
文書を電子化することで生まれる、業務上のメリット
文書を電子化して保存することで、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。
1. 書類の保管・管理の手間が軽減される
文書の電子化によるメリットとして、まずあげられるのは保管や管理の手間が大きく軽減されることです。法律により一定期間の保管が義務付けられている文書は多く、業種によってはそれが日々増えて保管庫を圧迫しているケースもあります。それらの文書を保管するためのスペースを用意することはもちろん、ファイリングやインデックス作業の負担は決して軽いものではありません。文書を電子化して保存することで、物理的な保管スペースが不要になるだけでなく、管理の手間も大幅に省くことができます。
2. 業務効率が改善される
経済産業省は文書を電子保存する際の技術的基本要件として検索性を確保することをあげていますが、これにより文書が活用しやすくなり、業務効率の改善につながるという側面もあります。例えば数年前に作成した書類が急に必要になっても、保管庫から当該文書を見つけ出すのは容易ではありません。 しかし、電子保存されていればキーワード検索や全文検索などを活用して、サーバー上に保管されている文書をスムーズに見つけることができるでしょう。業務の余計な手間を省き、効率化を実現するのも電子保存の大きなメリットです。
3. ペーパーレス化の促進につながる
環境への配慮や経費の削減などを目的として、ペーパーレス化を推進している企業は少なくありません。日本はもともとハンコ文化が根づいていることもあり、企業においても重要な書類は押印または署名して、紙で保存するのが習慣化していました。しかし、最近では従来の印鑑や署名に代わる電子署名が登場し、従来の紙ではなく、電子化して保存するルールを設ける企業も増えています。
クラウドサービスをうまく活用して業務全体をデジタル化できれば、これまで難しかった契約業務などを完全にペーパーレス化することが可能です。
4.リモートワークとの相性がいい
働き方改革や新型コロナウイルスの影響で、最近はリモートワークを導入する企業も増えています。こうした新しい働き方との相性がいいことは大きなメリットといえるでしょう。特にコロナ禍のなか、書類に押印するためだけに出社するビジネスパーソンの姿がワイドショーなどでも大きく報じられ話題になりました。
企業によって業務プロセスは異なるため一概にはいえませんが、もし出社する目的が印鑑を押すためだけだとしたら、文書の電子化や電子署名を導入することでこうした業務は大きく効率化することができます。こうしたリモートワークとの相性がよく、遠隔地からでも文書のハンドリングができるのも大きなメリットです。
文書の電子化や電子署名の導入については、このeBookでも詳しく解説しています。業務効率の改善に、ぜひご活用ください。
働き方改革ホワイトペーパーダウンロード
e-文書法への対応は、業務にさまざまなメリットをもたらす
e-文書法への対応は、業務効率の改善や経費の削減、働き方改革の推進など、さまざまなメリットをもたらしてくれます。ただ、繰り返しになりますが文書の電子化はただ書類をスキャナにかければいいわけではなく、見読性、完全性、機密性、検索性の要件を満たす必要があり、さらにはすべての文書が電子保存できるわけではありません。文書の電子化をすすめる際は、こうした条件をふまえておくことが重要です。