働き方改革のひとつの柱である「残業時間の上限規制」。しかし、業種にかかわらず恒常的になっている人手不足もあり、思うように規制を遵守することができていない職場も多いでしょう。そこで考えたいのが、オフィスへの勤務が難しい社員も確保できるリモートワークの導入。
ただし、リモートワークにはいくつか気をつけなければならない点があります。今回は、リモートワークの普及を妨げる理由と、その解決方法についてご説明します。
これからの日本にとってリモートワークが重要な理由
労働人口の減少
国立社会保障・人口問題研究所の日本の将来推計人口(平成29年推計)によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は年々減少の一途をたどっています。1950年以降では最も生産年齢人口が多かった1995年の8,726万人をピークに、2015年には7,728万人と20年間で約1,000万人も減少。さらに2065年にはピーク時の半分に近い4,529万人になると予測されています。
また、高齢化により要介護者の数は増加を続けており、厚生労働省が発表した介護保険事業状況報告(2019年10月)では、要介護(要支援)認定者は約668万人。このうち、居宅で介護保険のサービスを受けている人数は約383万人です。つまり、生産年齢人口の減少に加え、介護を理由に職を離れなければならない人が増加することで、人手不足は今以上に深刻な問題となっていくことが推測されます。
リモートワークが人手不足対策の鍵
恒常的な人手不足を解消するためには、出産、育児など、社員のライフスタイルに変化が生じても、継続して雇用できる環境を構築することが重要です。それにはオフィスだけではなく、自宅やサテライトオフィスなど、働く場を自由に選択できるリモートワークの導入が最も効果があると考えられます。
さらにリモートワークは、既存社員の離職を防ぐだけではなく、新たな人材採用にも大きな役割を果たします。多様な働き方を認めている企業ということで企業イメージが向上するからです。
企業イメージ向上が期待できることについては、総務省の情報通信白書(平成29年版)に記載されている調査結果が参考になります。リモートワーク(調査では自宅、サテライトオフィスのほかモバイルワークも含む)の導入企業、未導入企業において、社員が増加傾向にあると回答した企業の割合から減少傾向と回答した企業の割合を引いた数値結果を公開しており、リモートワーク導入企業は直近3年および今後3年どちらも10ポイント以上のプラスであるのに対し、リモートワーク未導入企業では、どちらもマイナスでした。このことからも、リモートワークの導入が、人手不足解消に大きな効果を発揮するであろうことがうかがえます。
思うようにリモートワークが普及しない理由
恒常的な人材不足解消に大きな効果を発揮するリモートワーク。しかし、海外企業と比較してそれほど多くの企業に普及しているとはいいきれないのが現状です。総務省が2019年5月31日に発表した「平成30年通信利用動向調査 」によると、企業においてリモートワーク(テレワーク)を導入している、もしくは具体的な導入予定があるのはわずか26.3%という結果が出ています。しかも、導入している企業のなかで、在宅勤務、サテライトオフィスでの勤務はそれぞれ37.6%、11.1%。日本においては、リモートワークはまだまだ一般的ではないといえるでしょう。
人材不足解消に効果があるにもかかわらず、思うように普及が進まない原因はいくつか考えられます。総務省が2018年3月に発表した調査「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究(PDF)」では、今後テレワーク導入を検討している企業が「テレワーク実施の課題」に回答しています。特に多かった課題は次の6つです。
- 会社のルールが整備されていない 49.6%
- テレワークの環境が社会的に整備されていない 46.1%
- 上司が理解しない 28.0%
- セキュリティ上の問題がある 24.6%
- ほかの従業員から孤立している感じがする 15.5%
- 同僚が理解しない 15.5%
1位の「会社のルールが整備されていない」は、従来のオフィス勤務用に策定した就業規則では、リモートワークに対応させることが困難であることを示唆しています。また、リモートワークでは、重要な資料や個人情報などを社外でも閲覧可能にする必要が生じます。そのため、セキュリティルールが整備されていないことも含まれていると思われます。
2位の「テレワークの環境が社会的に整備されていない」は、日本ではまだサテライトオフィスやコワーキングスペースといった通常のオフィス外で働ける環境の整備が不足していることを意味します。さらに外部の場所的な問題に加え、会社側のセキュリティ対策も必要なのはいうまでもありません。
つまり、4位の「セキュリティ上の問題がある」とも合わせ、リモートワークの普及を妨げる大きな要因には、セキュリティに対する整備が整っていないことにあると考えられます。
リモートワークのセキュリティ問題を解決する手段としてのクラウドサービス
セキュリティ対策の怠りからサイバー攻撃の標的となり、データが破壊され業務に支障が出たり、重要情報が漏えいしたりしたニュースが後を絶ちません。そのため、リモートワーク導入に二の足を踏んでいるところもあるかもしれません。しかし、正しいセキュリティ対策を講じれば、情報漏えいのリスクを最小限に抑えることが可能です。
リモートワーク導入のためのセキュリティ対策
そこで、実際にリモートワークを導入するうえで、やっておくべきセキュリティ対策について説明します。まず、「新たなセキュリティポリシーの策定」と「セキュリティソフトの導入」は必須です。そして、もう1点、重要なポイントがあります。それは、クラウドサービスの活用です。
リモートワークで危険な点は、社内よりもセキュリティ管理の甘い自宅やサテライトオフィスから、社内ネットワークに直接アクセスすることです。サイバー攻撃者は、自宅のパソコンに攻撃をしかけ、コントロール可能な状態にします。そこからファイルサーバーのみならず基幹システムにまで侵入することで機密情報窃取を狙います。最悪、ファイルサーバー(ハードウェア)自体の管理者権限まで奪われる可能性もあります。
この攻撃を防ぐために効果を発揮するのがクラウドサービスの活用です。データや資料はクラウドのストレージに保管し、そこでやり取りをすれば、自宅から社内のネットワークに直接アクセスする必要がなくなります。クラウドサービスには、ユーザーに応じたアクセス制限がかけられるので、そのユーザー以外の機密情報にアクセスされるリスクも減ります。また、Webブラウザーや専用アプリからしか利用できないので、ハードウェア自体のアカウント乗っ取りがされにくいのも特徴です。
また、オフィスにいる社員とのコミュニケーションも、クラウドメールやチャットサービスを利用することで、社内のメールサーバーにアクセスする機会を軽減できます。
「新たなセキュリティポリシーの策定」「セキュリティソフトの導入」に加え、クラウドサービスを活用することによってセキュリティリスクを抑え、リモートワークを活かせるようにしましょう。
クラウドサービスの活用がリモートワークの導入を促し優秀な人材の雇用を確保する
世界に類を見ないスピードで進む少子高齢化、それによって加速する人手不足や市場の成熟など、企業を取り巻く環境は決して良いとはいえません。そのなかで企業として生き残り、これからも発展していくためのひとつのポイントは優秀な人材の確保です。そこで効果を発揮するのが、さまざまな事情があってオフィスに出社できない人材の雇用を実現するリモートワークの導入です。
リモートワークはセキュリティ面の不安が大きいかもしれませんが、セキュリティポリシーの策定とクラウドサービスの活用で十分実現可能な働き方です。社員一人ひとりがセキュリティを意識し、クラウドサービスを安全に活用できる環境を構築することがポイントです。
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