モーションキャプチャーシステムは、アニメやゲームなどでの用途以外に動作分析や数値化といった産業や研究用途への活用も進んでいます。また、メタバースはVRとともに、マニュアルだけでは学習が難しく、実際に現場で研修をおこなうにもコストや工数がかかるトレーニングやシミュレーションなどへの利用がはじまっています。
この記事では、産業/製造業にターゲットを絞った、モーションキャプチャー、メタバースの活用事例や具体的なシステムについて紹介します。
モーションキャプチャーの産業/製造業における活用領域とケーススタディ
まず、モーションキャプチャーの活用領域について説明します。モーションキャプチャーはスポーツ&医療、産業/製造業、エンターテインメントとさまざまな分野で使われていますが、この記事では産業/製造業における活用にスポットを当てて説明していきます。
可視化と数値化
モーションキャプチャーには、可視化と数値化という二つの用途があります。製品の設計、開発時点から使用感をシミュレーションしたり、 熟練者と後継者の動作を比較するのが可視化の例です。数値化については、関節の角度や重心位置、 軌跡などからの動作分析が一例です。動作分析により、効率の良い作業姿勢を学んだり、事故を防ぐ動作を指導できます。
ケーススタディ
ケーススタディとして、製品製造の工場での作業工程における作業者の手指や腕、足の位置や軌跡の測定や、機械やロボットが正確に動いてるかを計測する、などが挙げられます。
モーションキャプチャーシステム「Xsens MVN」
具体的な製品として、モーションキャプチャーシステムXsens MVNを紹介します。Xsens MVNはIMU(慣性計測ユニット)式で9軸+1軸のIMUセンサーを17個身体に装着してモーションデータを取得します。光学式と違いセンサーを体につけるだけでモーションデータの取得ができるので、カメラが不要で素早く簡単にキャリブレーションして運用可能で、さまざまな場所で使用できるのが特長です。
さまざまな機能が高度にインテグレーションされたハードウェアとソフトウェアになっており、3軸ジャイロ、3軸加速度、3軸地磁気、1軸気圧で測定したデータはハードウェア側で処理され、正確な方位データがソフトウェアに無線で送られます。ソフトウェア側では、搭載されている人体モデルに計測データを当てはめることでモーションを取得できます。
周辺の環境磁場の影響により方位がずれるケースや、複数のセンサーが地面につく動きなどの際にリアルタイムでは正確なデータが取れない場合にも、ソフトウェア側で処理することでより正確なデータを取得できるようになっています。
Xsens MVNのハードウェアとソフトウェア
Xsens MVNのハードウェア
Xsens MVNのソフトウェア
エンターテインメント向けのMVN Animateと、動作評価や分析向けのMVN Analyzeの2つに大きく分けられます。
MVN Analyze Proは詳細なデータを動作解析するためのソフトウェアで、モーションデータをグラフで表示したり、筋電計など外部機器との同時計測や、筋骨格モデルとの連携なども可能です。
さらに、クラウドレポート出力サービスのMVNクラウドを利用することで、キャプチャーしたデータをクラウド側で処理し、歩行評価、敏捷性評価、怪我のリスク評価などをレポート化できます。
自動車メーカーでのモーションキャプチャーを利用した先進的な取り組み
Xsens MVNは、自動車メーカーをはじめとする産業分野で、製品開発、ユーザービリティ評価、熟練者・非熟練者の技術伝承評価、組み立て順序や部品の付け忘れ防止などの品質管理などに利用されています。
自動車会社での事例として、安全衛生や作業環境最適化を目的とした、稼働している工場のラインでの先進的な取り組みを2つ紹介します。
トヨタ モーター ヨーロッパ
MVN Analyzeを自社開発のソフトと連動してエルゴノミクス評価をおこない、作業負荷の可視化に10年前から取り組んでいます。
トヨタ モーター ヨーロッパの事例紹介(英語)
Movella Enhances Employee Safety Measures at Toyota | Movella, Inc.
BMWグループ
デジタルワークプレイスストレスマネジメンの開発に取り組んでおり、各国の生産拠点でより迅速で客観的な、エルゴノミクス評価環境を構築しているそうです。
BMWグループの事例紹介(英語)
モーションキャプチャーを使った定量的な動作評価
目視またはビデオカメラによる作業の記録では、作業者が機械の陰に隠れて見えなくなるなど2次元的手法の限界があり、数値化して評価するのが難しい問題がありました。3次元的に動作を計測できるモーションキャプチャーを導入すれば、定量的な評価が可能になります。
アセスメントによる定量の目標設定や達成度評価の効率化
モーションキャプチャーを使用すると膨大な量のデータが取得できますが、そのデータをもとに定量の目標設定や達成度の評価を手作業でするのは大変です。しかし、最近では世界的にスタンダードになっている、各種のアセスメント(評価手法)を利用する手法が浸透しつつあります。Xsensでは、各種アセスメントを利用して、作業工程における負荷指数とリスクを全自動で数値化するオプションサービスを、サブスクリプション形式で提供しています。
AIを活用し腰や首など各部位にかかる力をシミュレーション
さらにサードパーティのソリューションと組み合わせることで、AIを利用した運動力学のアプローチによって、腰や首など各部位にかかる力をシミュレーションによって算出する方法もあります。
使用したのはドイツのスケールフィット社が開発したインダストリアルアスリートというソフトウェアで、リアルタイムとオフラインの両方に対応し、日本語を含む15言語に対応したExcelデータでレポートを出力します。見やすいレイアウトで日本語化されており、サブスクリプションではなく買い切りのソフトウェアです。
メタバースで没入型トレーニングを実現する「CORE」
続いて、メタバース没入型トレーニング「FYND CORE」をご紹介します。COREは「いつでも、どこでも、誰とでも」さまざまなデバイスで没入型学習を可能にするXRコラボレーションプラットホームです。
VR空間に世界中の人が集まり共同トレーニングができるので、費用の削減や安全性の確保などのメリットがあります。1部屋に最大30人、同時に5部屋で開催できるので最大で150人が同時接続できます。マルチデバイス対応ですが、現時点での対応機器はMeta QuestなどのVR機器かWindows PCのみで、AndroidとiOSデバイスは対応予定です。
活用事例
一般的でわかりやすいのがデジタル会議室としての利用で、場所や会場を借りる費用や参加者の出張費を節約できます。動画やPowerPointなどの画面を共有可能で、VR機器がなくても参加できます。
ほかにも、事故や災害の現場に最初に駆けつけて対応する人たちのトレーニング用途や、医学生や看護学生が薬の扱い方をトレーニングするバーチャル薬剤室に活用できます。どちらもメタバースを活用することで、安全な環境で他人に危害を加える心配なく何度でもトレーニングできるところが便利です。
デジタルツインに焦点を当てた産業向けメタバース「Omniverse」
最後に紹介するのが、産業向けメタバース「NVIDIA Omniverse Enterprise」です。デジタルツインとしての運用に焦点を当てたプラットフォームで、仮想空間上の共同開発プラットフォームとも言われています。
事例
Amazonの倉庫
Amazonの倉庫で50万台以上の配送ロボットのオペレーションの最適化に活用している例を紹介します。AIを活用してデジタルツインを構築し、倉庫の設計や流れを最適化しています。ロボットアームや搬送用ロボットをOmniverse上でシミュレーションするアプリもあるとのことです。
海外のリフォーム大手企業
海外のリフォーム大手企業が店舗のレイアウトの最適化にOmniverseを利用している例もあります。店舗のデジタルツインを構築し、実際の店内の顧客の人流データを利用してシミュレーションすることで商品のレイアウトを最適化し、売り上げの最大化につなげる取り組みをしているそうです。
Omniverseはできることが非常に多い分、運用や導入の難易度は高いプラットフォームです。Tooでは、複数のメタバースプラットフォームからお客様に合ったものを提案でき、ワンストップで提供できます。CORE、Omniverseなどのメタバースプラットフォームの導入や、モーションキャプチャーデバイスの導入に関しては、ぜひTooにご相談ください。