10月19日(土)に開催された「あにつく2024」より、「Netflixシリーズ 『鬼武者』ルックメイキングセミナー」のイベント内容を紹介します。
ウェビナー概要
Netflixシリーズ 『鬼武者』ルックメイキングセミナー
2023年11月2日より配信スタートしたNetflixシリーズ「鬼武者」を基に、弊社アニメーション制作における「モデリング」「セットアップ」「ルックデブ」各種工程に関して、実際の事例を交えながら制作スタッフメンバーがお話します。
【主催】株式会社Too
【特別協賛】オートデスク株式会社
【登壇者】株式会社サブリメイション 小川 喬右 氏
株式会社サブリメイション杉 英人 氏
株式会社サブリメイション 土屋 嘉廣 氏
登壇者紹介
まずは、登壇者を紹介します。
1人目は、株式会社サブリメイション(以下、サブリメイション)でCGディレクターを勤めていて、鬼武者ではモデリングチーフを担当した小川 喬右です。
2人目は、サブリメイションのルックデベロッパーで、鬼武者ではルックデブを担当した杉 英人です。
3人目は、サブリメイションの制作の土屋 嘉廣です。鬼武者では、制作デスクという役割を務めていました。
会社紹介
次に、サブリメイションについて紹介します。サブリメイションは2011年に設立されたCGアニメーションのプロダクションです。現在、国立、名古屋、仙台の3つの拠点を構え、約130名の規模で活動しています。
これまでの作品実績には多くのプロジェクトがありますが、特に直近では『鬼武者』という作品に携わりました。
本日はこの鬼武者を題材に、モデリングから開発工程までをメイキングとして紹介していきます。基本的には、この目次に沿って進めていきます。
作品概要
それでは、鬼武者の作品紹介です。
Netflixシリーズ「鬼武者」Netflixにて世界独占配信中
https://www.netflix.com/title/81153116
鬼武者は、2023年11月からNetflixで配信中の作品です。カプコンのゲームを原作に、オリジナルの脚本を書き下ろして制作されました。総監督は三池崇史さん、監督はサブリメイションの代表取締役の須貝真也が務めています。
本作の特徴として、キャラクター制作において実写モデルを参考に進めた点が挙げられます。特に、主人公である宮本武蔵は三船敏郎さんの肖像をもとにデザインされています。これにより、作品全体にリアリティと独自性が加わりました。
今回は、こうしたルックの作り方について話していきます。
モデリング/セットアップ
ここからは、モデリングとセットアップについて紹介します。
本作において、モデリングとセットアップをどのように進め、どのように制作を回していったのか話していきます。
三船敏郎をモデルに制作
鬼武者の特徴の1つとして、実在の著名人の肖像をもとにキャラクターを制作している点があります。今回、主人公の宮本武蔵のデザインには、三船敏郎さんのイメージをお借りしました。
社内では、キャラクターのモデル監修を担当する専門スタッフを配置し、その方と密接にコミュニケーションを取りながら制作を進めました。特に、メインデザイナーであるキム・ジョンギさんの絵柄と三船敏郎さんらしさをどのように融合させるか、そして世界観と整合性を持たせるかを最重要課題としてモデルを作り上げました。
実際の三船さんの写真をお見せすることはできませんが、もし何か機会があれば見比べていただきたいです。かなり細部まで寄せることができたのではないかと自負しています。
デザイン画をお見せできず申し訳ないのですが、メインデザイナーのキム・ジョンギさんは、世界的に非常に有名で、圧倒的な画力を持つ方です。彼が作成したキャラクターのデザイン画をベースに、絵としての魅力や漫画的な要素をどのように落とし込むか、また部分によってはリアルな造形として表現するかというバランスに非常に四苦八苦しました。
特に、三船敏郎さんの男らしさや日本人らしい顔立ちを再現するうえで、顔のバランスが少しでも崩れるとその印象が失われてしまうため、細部まで丁寧に監修の方と詰めていきました。この過程は、作品のクオリティを保つために特に重要なポイントとなりました。
FKを採用したセットアップ
モデリングに関しては、「いかにデザインを丁寧に詰めるか」という点に重点を置いていて、特別な技術的な取り組みを行ったわけではありません。ひたすらデザインと照らし合わせながら進める作業が中心でした。
今回のセミナーはルックメイキングに焦点を当てていることもあり、完成したモデルをどのようにセットアップし、アニメーターに渡し、最終的なルックに仕上げていくかをお話しします。私たちのセットアップの大きな特徴としては、ほとんどのメインセットアップがFK(フォワードキネマティクス)で構成されている点が挙げられます。
セットアップはとてもシンプルで、細かいコントローラーを多く組み込むような複雑な構造ではなく、表示されている骨がほぼ全てという形になっています。人間の構造をシンプルにするFKベースのセットアップは、前作の『ドラゴンズドグマ』や自社オリジナル作品『Walking Meat』などを経て培われたスタイルです。
FKを採用することのメリットは、シンプルに構造を組むことでリリースが早くなり、アニメーターとのやり取りがスムーズになる点です。これにより、短期間でのブラッシュアップが可能になります。また、長い間このリグスタイルを採用しているため、アニメーター自身が細かい調整を行えるようになっており、例えば「髪の骨の本数を増やす」「骨の向きを変更する」などの調整をリガーに依頼せずに完結するケースも多くあります。
こうしたアニメーターとの円滑な連携により、作業環境を整えつつ、高品質なカットを短期間でこなす体制を構築しています。さらに、アニメーション工程の後には、ルックデブ(ルック開発)を経て、レンダー班が最終的な絵を出力する流れとなっています。このスケジュールとクオリティを担保するプロセスにおいて、今回のFKベースのリグがとても役立ちました。
リグを組む過程では、全体にリリースする前を「テイク0」として一部の社内アニメーターにリグを渡し、カット作業に入る前に試験的な動作確認を行ってもらいました。この段階では、三船さんが出演する『椿三十郎』などの作品を参考に、表情を抜粋しながらアニメーターに表情を作成してもらいました。
テイク0のリグは表情が全て組まれているわけではないため、まずは数種類の表情を作成します。その中でアニメーターから「この部分の骨がないために特定の表情が作れない」といったフィードバックを受け、それをもとにリガーが1週間ほどかけて修正を加えました。
こうしてテイク0からテイク1に進む過程で、表情のバリエーションを徐々に追加し、最終的に「これだけの表情があればカットごとに対応できる」という段階まで仕上げました。その後、テイク1を正式にリリースし、一話の制作に入るという流れで、武蔵のキャラクター表現を進めていきました。
本作独自の特殊なセットアップ
今回、特に頭を悩ませた点の1つが、三船敏郎さんの映画でも見られる「懐手」のポーズについてです。このポーズは、着物の中に手を入れている状態で、三船さんのクセともいえる動きです。本作でも、この懐手の状態がデフォルトのポーズといえるキャラクター表現として採用しました。
しかし、戦闘シーンなどでは腕を袖から出した動きに切り替える必要があり、この切り替えの表現方法について社内で議論を行いました。このような細かな動作の調整も、本作の表現を支える重要なポイントの1つとなりました。
最初は、腕を出している状態から懐手のポーズまでを1つのリグで対応できないかという検討を行いました。しかし、両方に対応可能なリグを作るとコストが高くなるという課題が浮上したため、リグを2種類用意する方法を採用しました。
具体的には、腕を出しているモデル専用のリグと、懐手の状態専用のリグをそれぞれ作成しました。腕を出しているリグでは通常の動きを優先し、懐手用のリグでは袖の中に腕を収め、不必要な部分を削除することで、懐手の動作をより効率的に表現できるように設計しました。
さらに、腕を袖から出し入れするカットでは、アニメーターと事前にすり合わせを行い、カット内でモデルを切り替える方法を採用しました。この際、違和感が出ないようにリグの設計段階で工夫を重ね、カットのつなぎを明確に定めた上で進めました。
こうした柔軟な対応により、懐手と通常動作を効率よく表現するセットアップを実現しました。
ルックデブ メイキング
続いてルックデブの話になります。
特効によるルックの表現力アップ
今回、武蔵をはじめとする鬼武者のキャラクターたちのルックを作るにあたり、まずはコンセプトをしっかりと考えました。ルック作業の初期段階では、モデルや線画のデザイン、原案デザインをもとに「ルックをどのように構築するか」という流れで進めていきました。
コンセプトとして重視したのは、「止め絵でもかっこいい」「静止画でも動きを感じられる絵を作る」という点です。この「止めても動きを感じる絵」とは何かを追求する中で、影の見せ方に注目しました。
PVを見るとわかると思いますが、影にはタッチのような質感を取り入れています。通常のセルアニメ表現では、影はシンプルで記号的な形状になることが一般的ですが、今回は影のシェイプやエッジ部分に動きのある線を加えることで、静止画でも動きが感じられる質感を目指しました。
また、デザイン面では、三船さんの肖像をもとにリアル寄りのデザインが採用されており、そのリアルな質感をどこまで詰められるかが重要なポイントとなりました。ただし、あまりに情報量を詰め込みすぎるとアニメ表現から離れてしまうため、セルアニメ的な表現とリアルな質感とのバランスを徹底的に追求しました。
15種類のレンダリング素材
今回のルック制作において、15種類の素材をレンダリングしました。これは、これまで私が携わってきた作品の中で最も多い数になります。中にはカットごとの調整や特定のカットでしか使わない素材も含まれていますが、ほとんどの素材がベースのコンポジットやキャラクターコンポジットで活用されています。
特に注目すべきは、さきほどお話しした「影に動きをつける」ために使用した素材です。一番上の段の右から2番目にある「着物の質感」と、真ん中の段の一番左にある「シャドウ」の2つを組み合わせ、After Effects(以下、AE)で調整することで影にタッチ感を加える表現を実現しました。
また、他の素材の中でも特筆すべきなのが「汚れ」素材です。着物や顔の汚れを足すために使用しており、これがリアルな質感を強調する重要な役割を果たしています。さらに、一番下の段の左から2番目にある「手描きタッチ」素材も、汚れや質感を演出するために活用しました。
影処理の作業参考
こちらは、影素材と手描きタッチ素材を組み合わせる前後の比較になります。
まず、CG側からライト素材をグレースケールで書き出すと、左側の画像のような素材が得られます。このグレースケール素材に、AEのデフォルトエフェクトである「しきい値」を適用することで、右側のようなアニメ的なはっきりとした影を表現しました。しかし、これだけでは影にタッチ感を出すことはできません。そこで、CGから書き出した影素材にタッチ素材を薄く重ね、さらに光が当たる部分ではタッチが出ないように調整した上で「しきい値」をかけることで、影に動きのあるタッチ感を加える表現を実現しました。
さらに、このタッチの質感についても工夫を重ねました。一般的なハッチング処理では影が格子状に見えるため、静止画では動きが感じられません。そこで、「止めても動きがある絵」を表現するために、UV展開したメッシュの流れに沿って線を引く手法を採用しました。これにより、アニメーションや表情の変化に合わせてメッシュの流れが動きを生み出し、静止したポーズでも全体の形状の流れが見えるような表現が可能になりました。
作業量も非常に多く、極力自動化を進めるためにPhotoshopでテクスチャを作成し、独自のブラシを開発したり、フラクタルノイズのテクスチャを加工して効率化を図りました。それでも腕や足回り、目立つ部分は手描きで線を引く必要があり、私自身を含め、チームで手作業を頑張る場面も多くありました。
次に同じようなルックを目指す場合には、自動化のさらなる向上や新しい技術の導入を検討していきたいと考えています。
陰影・ラインの処理
さきほど紹介した全身の影タッチに加え、今回は人間の肌や顔にも同様のタッチを入れています。このタッチには、動きを感じさせるというコンセプトに加えて、キャラクターそれぞれの年齢感を表現する目的もあります。
右側の武蔵は年齢を重ねたキャラクターのため、肌に細かいタッチを入れ、直線的で綺麗な線ではなく、あえて歪ませることで、年齢を感じさせる雰囲気を表現しました。一方、左側の「さよ」は子供という設定のため、肌の影をシンプルかつ綺麗に入れることで、若さや肌のハリを表現しています。このように、キャラクターごとの肌の質感に差をつけることで、それぞれの特徴を際立たせています。作品を見る際にはこうした肌の質感にも注目してみると、新たな面白さを発見できるかもしれません。
また、影だけでなく、質感そのものにも工夫を加えています。今回は、AEのデフォルトエフェクトである「ブラシストローク」を使用し、影や容姿の質感に合わせたライン処理を行いました。このブラシストロークによる処理を重ねることで、影や質感にさらなる奥行きと動きを加える表現を実現しました。
After Effectsで処理
ブラシストロークはAEのエフェクトで、2D的なエフェクトをかける処理です。当然といえば当然ですが、キャラクターが奥から手前、あるいは手前から奥に移動する際には、エフェクトの数値を調整する必要があります。例えば、キャラクターの立ち位置によってラインの太さやブラシストロークの処理値を調整しなければなりません。
画像にあるように、仕様書として「この距離ならラインの太さは何ピクセル」「ブラシストロークの数値はいくつ」という細かい指示をまとめた資料を用意しました。画像はそのほんの一部で、実際にはこの何倍もの資料を作成し、作業者が参照できるようにしました。
さらに、影やラインの表現にはAEの「乗算」モードを活用しました。通常、ラインを載せる際は、キャラクターのカラー素材とライン素材を分けてセルアニメ風に仕上げることが一般的ですが、今回はCGでカラーとラインを分けやすい利点を活かしました。この特性をもとに、色彩設計の方々と何度もやりとりを重ね、ラインを乗算で重ねることで背景とキャラクターのなじみを向上させる実験的なアプローチを試みました。
これにより、斜線処理だけでなく、ラインの載せ方にも工夫を加え、全体的にザラザラとしたリアリティのある質感を持たせつつ、アニメとしての表現を損なわない仕上がりを目指しました。
刀へのこだわり
鬼武者は時代劇をベースにした物語で、侍たちの時代を描いているため、刀には特にこだわりました。資料として刀に関する書籍を数多く集め、特に持ち手部分の質感には細心の注意を払いました。制作当初、まだコンテ作業中ではありましたが、手元にカメラが寄り、刀の柄を握る瞬間が必ずあると予測し、その場面を念頭に質感を追求しました。
キャラクターと同様に、刀にも影にタッチ感を加え、常に光が当たる部分にはハイライトを入れています。また、影と同じくザラザラとした質感を加えることで、刀の存在感を強調しています。
刀の描写については、特にカットごとに丁寧な作業を行いました。刀の動きやハイライト、影の表現が重要で、動いてこそ刀の美しさやかっこよさが引き立つため、寄りのカットでは各作業者が個別にテクスチャを描き起こしました。これらのテクスチャはAE上で、3Dモデルにテクスチャを描くような感覚で制作しています。具体的には、AE上でUVプラグインを使用し、CGモデルに直接テクスチャを描くように操作できる仕組みを活用しました。
AEでテクスチャをパスとして描くことの利点の1つは、そのパスにアニメーションを付けられる点です。これにより、特定のカットではパスアニメーションを用いて影やハイライトを動かし、「ここをしっかり見せたい」というシーンにおいては、動きに合わせて影やハイライトが滑らかに変化するよう調整しました。
さらに、影の調整についてもカットごとに細かく行っています。これは弊社サブリメイションの特色とも言えるかもしれませんが、セル作業に入る前にライティング打ち合わせを実施しています。このライティング打ちでは、監督や演出担当とともに、場面ごとの光源の方向や強さ、影の割合、逆光やバックライト、リムライトの有無などを詳細に設計します。こうした光の演出に関する打ち合わせを経て、各カットごとの影の調整が行われる仕組みになっています。
表情の味付け処理
ライティング打ち合わせを経て、各作業者がカットごとに影の設計を行っています。一応のベースとして、キャラクターの顔には順光影、半分影体、逆光という3パターンをデフォルトで用意していました。しかし、右側のキャラクターのように、このライティングではデフォルト設定に含まれないパターンが必要となる場合は、作業者がカット用に新たな影を描き起こしました。
さらに、こうした特別なカット以外でも、他の話数やカットにおいても、必要に応じて影を個別に描き、テクスチャやパスアニメーションを使って影が動きに馴染むよう調整しています。これにより、影が固定的でベタ貼り感が出ることを防ぎ、より自然で動きのある表現を実現しました。
また、キャラクターの設定として表情集や各種パターンも事前に用意し、ライティング打ちや監督、演出との綿密なすり合わせを経て影を仕上げています。ただし、作業者にはある程度の自由度も持たせており、光源方向や演出意図、このキャラクターがどのような心情で動くのかといった基本を守りながら、表情や影付けにクリエイティブな裁量を与えていました。結果的に、「いい感じであればOK」という柔軟な姿勢で進めることができ、作業者にとっても表情や影付けの自由な表現を楽しめる環境となりました。
こうした作業は、ルック班やレンダー班にとっても、創造性を発揮できる面白いプロセスだったと感じています。
Q&A
Q1.さきほど、Lightwaveを利用していると伺いました。他のセミナーではMAYAや3ds MAX、Blenderなどのソフトウェアを使用しているという話をよく耳にするのですが、Lightwaveを採用された決め手は何でしょうか?
今作においてLightwaveを使用した理由ですが、これまで長年にわたりLightwaveを使い続けてきたという実績があったからというのが大きな理由です。しかし、近年では弊社内でもBlenderなどの新しいツールへの移行を一部検討しており、徐々にBlenderの使用比率も上がってきています。
実際、鬼武者の制作時にもBlenderを採用するか、Lightwaveを継続使用するかという議論がありました。また、Lightwaveを採用した理由の1つにLightwaveの特色があります。特色とは、モデリングツールとアニメーションツールが分かれている点です。この構造が制作フローにおいてメリットをもたらすことから、最終的にLightwaveを選択することになりました。
Q2. 影のテクスチャの書き込みについてお伺いします。1カット、あるいは1枚あたりの影のテクスチャ書き込みには、どれくらいの人数が携わり、どの程度のスピード感で進めていたのでしょうか?
キャラクターごとに多少の差はありますが、メインでしっかり映るキャラクターの場合は大体1体に約2週間で、実働で言うと10日ほどで仕上げていました。影の調整などのカット作業に関しては、当時のチーム人数が5人程度で、それぞれが約50〜60カットを担当し、1〜2ヶ月で作業を終わらせるというスケジュール感でした。
このようなスピード感を実現できたのは、ベース段階での準備が整っていたことに加え、さきほどお話ししたライティング打ちの打ち合わせが非常に有効だったからです。この打ち合わせで、光源の方向や演出の意図などを監督や演出陣と具体的に詰めることができた点が大きなメリットでした。
また、カットごとの作業負担を調整した点も効率化に寄与しています。「あまりこだわらなくてもいいカット」と「丁寧に力を入れるべきカット」の優先順位を事前に明確にすることで、各作業者が効率よく作業に取り組むことができました。このような体制が、全体のスピード感を支えた要因だと考えています。
Q3. アニメーターとレンダリングのセクションが分かれているとのことですが、一般的にはアニメーターがキャラクターをコンポジットするケースも多いと聞きます。このようにセクションを分けることのメリットやデメリットについてお聞きしたいです。
セクションを分けることの大きなメリットとしては、アニメーターがアニメーションに専念できる環境を整えられる点が挙げられます。一方で、レンダリング担当者は影やルックのディティールに集中できるため、それぞれが時間をかけて自分の領域に注力できるというのは、セクションを分ける利点と言えるでしょう。
鬼武者では登場キャラクターが非常に多い上に、モブのモンスターや群衆シーンも多いため、ルックを作り込む時間と人数が必要でした。これがセクションを分けた理由の1つです。また、AEを使用したベースコンポジットでは効率化が求められるため、コンポジットの知識やエフェクト、エクスプレッションといったスキルが必要となります。これら専門的な部分を扱うため、セクションを分けることが画の精度を高める結果につながったと考えています。
デメリットとしては、アニメーターが表現したかった意図をレンダリングセクションでどこまで忠実に再現できるか、すり合わせが難しいという点があります。アニメーターが「このカットではこういった表情をつけた」という意図を正確に伝え、レンダリング担当者がそれを反映するためには、セクション間の密なコミュニケーションが必要です。
この課題に対しては、普段からの話し合いや共有を丁寧に行うことで解決を図っています。特に、キメカットや重要な表情については、アニメーターとレンダリング担当者が意図をすり合わせるよう努めています。
作品紹介
鬼武者は、Netflixシリーズ「鬼武者」Netflixにて世界独占配信中です。現在公開中につき、ぜひご覧ください。