2024年10月19日(土)に開催された「あにつく2024」より、「オリジナルショートアニメ『BRIDGE -My Little Friends-』における、アクティングアニメーション演出セミナー」のセッション内容を紹介します。
セッション概要
オリジナルショートアニメ『BRIDGE -My Little Friends-』における、アクティングアニメーション演出セミナー
StudioGOONEYSが企画・製作を手掛けたオリジナルショートアニメ「BRIDGE -My Little Friends-」は、3DCGアニメーションの中でも難易度の高いアクティング(日常芝居)に、若手アニメーターがチャレンジすることをフォーカスして制作した作品です。
本作のアニメーターの平均年齢は制作時点で24歳。メイキングを通じて、日本のセルルックアニメーションの考え方について、また、当社が企画開発にチャレンジしていく理由についてお話出来たらと思います。
【主催】株式会社Too
【特別協賛】オートデスク株式会社
【登壇者】株式会社StudioGOONEYS 斎藤 瑞季 氏
登壇者・会社紹介
最初に、簡単な自己紹介から入ります。StudioGOONEYSで代表取締役を務める斎藤瑞季です。このような肩書きではありますが、実際には現場で一緒に作品を作る仕事に携わっているため、日々制作も行っています。
会社紹介
StudioGOONEYSは、「日本のCGを世界へ」という目標を掲げて設立されました。皆さんも感じていると思いますが、日々3DCGで制作されたアニメ作品が増えてきています。3DCGアニメはアクションやダンスシーンなどで特にその強みを発揮しており、かっこよさや魅力を感じる方も多いと思います。
一方で、最初の頃は3DCGに対して「何か気持ち悪い」と感じる部分があったのも事実です。3DCGの進化を映像やアニメで見てきた方なら、その歴史を振り返ることができるかもしれません。その進化の中で、3DCGがアニメ制作に使われ始めて技術や表現がどのように変化してきたのかは、私たちにとって大きな関心事です。
現在、特に課題となっているのがキャラクターアニメーションの「アクティング」の部分だと感じています。今回は、この課題に挑戦する形で作品を制作しました。私たちが目指しているのは、3DCGや2Dといった形式に関係なく、作品そのものが観客の心に届くことです。そして、違和感なく「いい作品だ」と思ってもらい、好きになってもらえることを最も大切にしています。そのために、ツールとして3DCGを活用し、新たな表現にアプローチしている会社です。
オリジナル作品の紹介
現在StudioGOONEYSでは3本のオリジナル作品を開発中ですが、その中でも主に進めているのが、右上の『Muguet』と右下の『CHAT FOOD』という2本の映画作品です。この2作品は脚本だけでも約3年をかけまして、現在同時並行で開発を進めています。
制作にあたっては、ハリウッドのストーリープロットラインを参考にしたり、日本で映画制作に携わってきた方々と協力したりして、作り方を学びながら取り組んでいます。もともとStudioGOONEYSはBtoBの会社です。BtoBとは、例えば原作を持つメーカーさんから依頼を受け、3DCGの技術を使って制作を行う形態を指します。
しかし、今回のオリジナル作品では、自分たちで企画を考えるBtoCの形を目指しています。この2つの作品を企画・制作する目的は、自社で作品を生み出す力を持ち、直接観客に届ける挑戦を実現することにあります。
オリジナル開発を行う理由
オリジナル開発を行う理由ですが、お話しした通り、BtoBメインのCG業界からスタートする企画をもっと世の中に増やしたいという思いがあります。もちろん、そうした取り組みをされている会社もありますが、まだまだ少ないと感じています。
StudioGOONEYSは資本や提携といった後ろ盾が一切なく、学校の仲間と始めた会社です。実際に私が会社を立ち上げる際には貯金が1,000円以下という状況で、税理士さんや会計士さんには笑われたほどでした。つまり、資金が潤沢にある状態で始まった会社ではありません。それでも、「CGデザイナーが主役となれる環境を作りたい」という思いを持ち続けて、この道を進んできました。
CGアニメは2Dアニメと比べて「やること」が明確に定まっていないことが多く、CG屋さんが主役になれる環境は少ないと感じています。頑張っているCGアニメーターの方々を見ると、作画監督に近いような仕事を多くこなしている傾向があります。演出を考える、演技プランを練る、レイアウトを組み立てる、情報の変化量を工夫するなど、多岐にわたるスキルを発揮しているにもかかわらず、その努力があまり評価されずに終わってしまうことが多いのが現状です。
そんな中、「監督力」「作画監督力」「演出力」を持つ素晴らしいCGアニメーターの方々が、もっと主役になれる環境を作りたいと考えています。現在でも、2Dデザイナーがターシャリと呼ばれる工程でCGの仕上げを指示し、それに合わせてCGデザイナーが作業を進めるという流れがあります。そうではなく、3Dのデザイナーが最終的な絵を決められる環境を整えることが次のステップだと思っています。
この企画は、3DCGデザイナーがもっと自由に表現し、活躍できる入口を広げるための挑戦です。そして、それが画像にもある「新しいCGアニメーション手法の開発」にも繋がっているのです。
StudioGOONEYSのアニメーション
StudioGOONEYSが今まで取り組んできた仕事の中で、自分たちが得意としている分野や上手くいったと感じる分野を画像のようにまとめてみました。色々な種類の仕事を手がけてきましたが、その中でも「セルルック」、いわゆる作画風の表現は得意分野のひとつです。特にアクションに関しては「いい感じに仕上がる」と感じることが多いです。
セルルックが流行する前は、CG業界ではリアルルックが主流でした。現在もリアルルックの制作は行っていますが、リアルルックのアクション表現もそれなりに得意のため、十分対応できています。
また、リアルルックのアクティングに関しては、ハリウッドの手法、いわゆるピクサースタイルの作り方が確立されています。そのため答えが見えやすく、取り組みやすい分野です。アニメーターの中にはピクサーを目指している人も多く、その憧れが技術向上に繋がっている部分もあると感じています。リアルルックのアニメーションは明確な指針がある分、取り組みやすいと考えています。
リアルルックアクション
画像は、リアルルックアクションの例です。StudioGOONEYSで手がけた作品のひとつで、『疾走、ヤンキー魂。』というゲームのオープニング映像を制作しました。「演出やアクションを自由に考えて作ってほしい」と言われ、全て演出やアクションを考えながら制作しました。リアルルックでもアクションはやりやすいなと感じたプロジェクトのひとつです。
他にもリアルアクションの例として、『SHOW BY ROCK!!』というサンリオの作品があります。この作品では、3DCGで「あえてリアルルックの方向で制作しよう」と提案し、制作を進めました。
リアルルックアクティング
次はリアルルックのアクティングについてお話しします。リアルルックのアクティングでは、ディズニースタイルやピクサースタイルのようなキャラクター表現を目指した作品を目にすることがありますが、StudioGOONEYSでもそういったアプローチを取り入れています。
また、もう少しリアルな方向に寄せたアニメーションも制作しています。画像のような可愛らしいキャラクターをリアルに動かすアニメーションなどもそのひとつです。こうした表現はCGが得意としている分野のひとつで、違和感なく仕上げられています。制作を進める中で、「これは上手くいったな」と思う成功例を積み重ねていくことで、技術をさらに磨いています。
セルルックアクション
次はセルルックのアクションについてです。セルルックアクションは、ゲーム内の必殺技シーンなどでよく求められるようになっています。こうした表現は、日本のCG業界でも多くの会社が取り組んでいる分野です。
セルルックは特にアクションと相性が良く、CGで映える表現のひとつだと思います。作画で描くと大変なシーンでも、CGであれば効率よく表現できる点が魅力です。この分野は、StudioGOONEYSが得意とする部分のひとつです。また、モーショングラフィックス的なセンスや考え方が求められることもありますが、これがCGと非常に相性が良い点もあり、うまくいきやすい分野だと感じています。
セルルックのアクションには、「アニメっぽいスタイル」だけでなく、モーションキャプチャーを基にしたアクションプランを活用する手法もあります。その後、手付けで微調整を加える形で制作するアクションもあり、StudioGOONEYSではこうした方法を用いた作品も手がけています。
このようなアプローチでもセルルックアクションの魅力をしっかりと引き出せているため、うまくいっている印象が強いです。
セルルックアクティング
最後に、セルルックアクティングについてお話しします。これは『モンスターストライク』という作品で取り組んだ際に気づいたことなのですが、今までアクションやディズニー的なアクティングにはかなり取り組んできました。しかし、日本のアニメ風の作品におけるCGのアクティングは、まだ上手くいかない部分が多いと感じていました。
その中でも、画像にあるピンク色の髪の女の子が泣くシーンを作った時、特に印象的でした。このシーンがとてもよく出来ていて、「すごくいいな」と思ったんです。この経験から、「セルルックアクティングをさらに詰めていけば、3DCG作品を観る人々の心に、作品のストーリーがもっと深く伝わるのではないか」と考えるようになりました。
このきっかけを通じて、セルルックアクティングを本格的に研究し、表現力を高めたいという思いが強くなりました。これからも、この分野を追求していきたいと考えています。
こうした自分たちの得意分野を整理した結果、この「△」で示した「セルルックアクティング」をさらに追求していくことが、今後の課題となりました。
BRIDGE -My Little Friends- アニメーションのポイント
では、本題のBRIDGEでのアニメーションのポイントについて紹介していきます。本作品では、制作の過程で特に気をつけた点があります。ストーリーや他の細部にもさまざまなこだわりがありますが、特に重要視したのは「アクティング」です。つまり、人が作品を見た時に、キャラクターのアニメーションがCGっぽく見えないようにするためにはどうすればいいか、逆に「なぜCGっぽく感じてしまうのか」という点に焦点を当てて考えました。
特に制作を進める中で気づいたのは、「うまくできていると、CGっぽさに気づかない」ということです。気づかれないというのは、逆にとても良いことです。観る人がCGっぽさを意識せずにストーリーに没頭できるようにするためにはどうすれば良いのかを考え、以下の3つの大きな柱を設定して制作を進めました。
1. 演技プランによる情報変化量の最適化
2. 原画シルエットによる情報変化量の最適化
3. 2D撮影方法の取り入れ+αによる情報変化量の最適化
こうしたアプローチの中で、「こうすれば上手くいく」というポイントを見つけながら、試行錯誤を重ねて制作した作品です。
CGで重要なのは情報変化量
3つの柱の話に行く前に、重要なポイントの1つとして、「CGで重要なのは情報変化量」という考え方があります。これを一言で表現するのは非常に便利ですが、同時に曖昧さも含んでいるため、どう説明するべきか悩むところでもあります。
今回の作品では手描きアニメーションをベースにしていますが、情報変化量はルックによって異なります。例えば、キャラクターが非常に情報量の多い実写的な作品、例えば『ファイナルファンタジー』のようなスタイルだと、今回のような情報変化量のノイズをうまく活かすことが難しいかもしれません。そのため、ルックに対して適切な情報変化量を選ぶことが重要です。また、それが「観客が過去に見たことのあるもの」、あるいは「経験として馴染みのあるもの」に変換できるかどうかも大事なポイントになります。
CGのアニメーションがCGっぽいと感じられる原因についてですが、CGの作業には「ローテート(rotate:回転)」「トランスレート(translate:移動)」「スケール(scale:大きさ)」があります。これらの動きが目立つと、「CGっぽい」と感じさせてしまいます。CGアニメーターは骨(リグ)を動かしてアニメーションを作るので、一部分だけローテートやトランスレートする現象が起こりやすいのです。これがCGアニメーションに対する違和感や気持ち悪さの原因だと私は考えています。
一方、手描きアニメーションでは、同じローテートやトランスレートに見える動きでも、1枚1枚手作りで描かれるため、自然なノイズが生まれます。これがCGとの大きな違いです。ただ、「答えはノイズです」と発表してしまうと、「CGアニメーターに未来はないのか」と受け取られかねません。ノイズを入れるだけでは解決にならないため、このテーマをどう扱うべきか非常に悩みました。
この課題に対して、アニメーターと一緒に試行錯誤を重ねました。本作品では、アニメーターの平均年齢が23歳という非常に若いチームで制作しました。全体の平均年齢でも28歳ほどで、まだ経験が浅いメンバーが多かったです。そのため、技術的には足りない部分も多く、あたたかみのあるアニメーションは作れても、非常に高度なことまでは達成できませんでした。
それでも、若いチームが一丸となり、どうすればより良いアニメーションが作れるかを考えながら進めていったプロセスは、大きな学びとなりました。この経験を通じて、CGアニメーションの新しい可能性を模索していきたいと思っています。
1. 演技プランによる情報変化量の最適化
改めて、さきほどの3つの要素のうち、1つ目について説明します。それが「演技プランによる情報変化量の最適化」です。これはどのように使われたかというと、例えばAからBのポーズへの移動の場合です。今回は絵コンテを載せていませんが、通常の絵コンテではキャラクターが単純に下に降りて終わるような動きしか描かれていないことがほとんどです。一般的には、演技プランはアニメーターに任されています。
このように演技プランがアニメーターの裁量に委ねられる中で、単に「降りるだけ」だと、どうしても動きがローテートやトランスレートに見えやすくなります。また、絵があまり動かないシーンは、情報変化量が少ないためにCGっぽさが目立ちやすくもなります。
その理由は、ノイズがないからです。手描きで描かれたアニメーションには自然とノイズが加わりますが、CGの場合はローテートやトランスレートがそのまま見えてしまい、情報変化量が不足しがちです。特にセルルックの場合はこの影響が顕著で、CGっぽさが強調されてしまいます。
この問題を避けるため、アニメーターが演技プランを追加することで、情報変化量を増やしています。例えば、「この動きはトランスレートやローテートっぽく見える」と感じたアニメーターが、独自の演技プランを考えて動きを工夫します。これによって、アニメーションがCGっぽく見えなくなり、より自然な動きが実現されます。
演技プランを通じて情報変化量を最適化することで、CGらしさを抑えたアニメーションを作り上げていく。それがこの1つ目のポイントです。
2. 原画シルエットによる情報変化量の最適化
基本のsquash & stretchでシルエットを変化させよう
次に2つ目のポイントについて説明します。それが「原画シルエットによる情報変化量の最適化」です。この方法は、1つ目の演技プランをたくさん足すアプローチとは異なり、小さな演技であっても、1枚ずつの原画をオリジナルな形に変化させる方法です。「どうやってその変化を加えるのか?」という課題に対する取り組みになります。
「ノイズを加える」と言ってしまえば簡単ですが、それではそこで終わってしまいます。ここで基本として用いるのが「squash & stretch」です。これは多くの学生が学ぶ基本的な技術ですが、これをアニメーションの動きに取り入れることで、より気持ちの良い動きが生まれやすくなります。
ただし、squash & stretchをやり過ぎるとカートゥーンのような動きになり、日本のアニメには合わない場合もあるため、バランスが重要です。例えば、画像にあるムギちゃんが話すシーンの場合、顔の小さな動きにもsquash & stretchを取り入れることで、トランスレートやローテートに見えない自然な効果を生み出しています。
小さな動きの中でも原画A→原画Bを考えてみよう
これも「原画シルエットによる情報変化量の最適化」のアプローチのひとつですが、小さな動きの中で課題となるのが、原画Aから次の原画もほとんど同じシルエットになるケースです。例えば、CGでキャラクターの頭を少しだけ斜めにした場合、どうしても原画Aから原画Aへと見え、単に回転させただけの動きになりがちです。
これを防ぐための工夫について、もう少し分かりやすい例を見てみましょう。レンダリングがまだ完成していないシーンではありますが、同様のアプローチが適用されます。
左側と右側の動きを見比べてみてください。右側は、基本的なリグのアニメーションを使ったものです。服には少しだけsquash & stretchを入れてありますが、骨を動かしたローテートやトランスレートをそのまま使ったクリップでアニメーションを作成しています。これでも十分上手く見えますが、やはり少し「CGっぽい」と感じられる部分があります。
一方、左側の動きでは、ポーズが変化しているというよりも、シルエット自体が変化している点が特徴です。まるで手描きのように上から描き直したかのような動きになっています。ただし、これは2Dのターシャリ作業によるものではありません。StudioGOONEYSでは、CGアニメーターが最後まで自分たちの手で作品を作り上げることを目指しているため、ターシャリを行わない方針を取っています。
このアニメーションも、実際に完成したものではなく、AからBへの動きを試行錯誤しながら作ったものです。CGっぽい動きを抑えるために、アンティシペーションを少し追加したり、動きに変化を加えたりするだけで、大きく印象が変わります。
重要なのは、どんな方法を使うかは自由であるということです。リグに仕込んでも良いですし、2D的なレンダリングをした後にメッシュワープで調整しても構いません。ただし、大切なのは原画の絵をしっかりと作ることです。棒を動かすような線的なアプローチではなく、点を意識したポーズを丁寧に作り込むことが重要です。
ウェイトによる「痩せ現象」は特に注意しよう
これもCGではよくある問題です。CG屋さんだけが気になる点かもしれませんが、ウェイト調整による回転の影響で部分的に細くなってしまうことがあります。例えば手首が回転することで形が崩れ、見た目に違和感が生じることがあります。
こういった問題に対して、どのような方法でも良いので対処することが大切です。例えば、少しだけ首を太くすることで、回転時の痩せ見えを防ぐ工夫ができます。横を向いた時に痩せてしまう部分に気を配り、痩せないように調整するのがポイントです。このように、CGの特性が目立ってしまう箇所には十分注意して制作を進めることが重要です。
スネ夫ヘアーも遊んでみよう
少しおまけの話ですが、「スネ夫ヘアーで遊んでみよう」というアプローチについてです。アニメではよくある現象ですが、片方の視点から見ると髪の毛が大きく出ているのに対し、逆側の視点では髪の形が異なるデザインになることがあります。
しかし、こうしたデザインは作画の癖やノイズによる表現の一環でもあり、キャラクターの絵として「かっこいい」「可愛い」「魅力的」な見た目を優先して描かれているのが理由です。CGの場合、途中経過を動かすことでポーズにたどり着く仕組みですが、作画ではその時点で「いい絵」として描かれます。こうした「嘘」を活かして良い絵を作る姿勢は、CGでも積極的に取り入れるべきだと感じています。
また、横を向いた際に髪の毛の量が増える現象も、一見するとノイズに思えますが、「いい絵」として成立しているなら、それを採用する価値があります。こうしたアプローチも試みた中での一例です。
手書きの「ノイズ」の再現も試みよう
今回、自分の遊び心で「手描きのノイズ」をCGで試してみました。CGでアニメーションを作ると、鼻や目の動きがどうしてもローテートやトランスレートに見えてしまうことがあります。左側がその典型的な例で、ただトランスレートさせた動きですが、右側では少し遊んでみました。
右側の鼻を観てみると、形が変わっているのが分かると思います。一見ノイズのようですが、実は意図的に調整しています。この変化を加えることで、右側の方がより「作画っぽく」見えるのではないでしょうか。左側はアニメーションそのままの動きですが、右側はノイズを加えただけで、手描き感のある表現に近づけています。
BRIDGEでは、このような試みを全てのカットで小規模ながら実施しています。こうしたノイズを加えることで、アニメーションが「何か変」と感じる箇所が逆に成立してしまう場合もあります。リテイクが難しい場合にも、この方法が意外と有効なのではないかと感じました。
最初のスライドに戻りますが、実はCGアニメーターの方々、とりわけ上手い人たちは本当に驚くほど頑張っています。演技プランに関しても、非常に高度なことを考えながら作業をしています。しかし、その分とてもコストがかかることも事実です。
これを毎回全力で行うと、徹夜が続いてしまうような過酷な作業環境になります。当然、それを全てのCGアニメーターに求めるのは現実的ではありません。そこで、効率的に解決する方法として挙げられるのが、さきほどお話しした「原画シルエットによる情報変化量の最適化」、つまりポーズ to ポーズの考え方です。
これがもっと上手く機能すれば、演技プランを過剰に詰め込まなくても、AからBへのポーズ変化だけで自然な動きを再現できるようになります。それによって、演出の意図として「あまり動いてほしくないシーン」にも対応しやすくなるのです。
実際に、大きな予算をかけたCG映画でも、小さな動きに違和感を覚えるシーンを見たことがある方は多いのではないでしょうか。特に、わずかな動きであっても「何かおかしい」と感じる場面があるはずです。このような課題に対応するには、2番目のポイントが非常に鍵を握っていると思います。
まだ難しい部分も多く、単純にノイズで成功するだけでは根本的な解決にはなりません。もし、皆さんの中で何か良いアイデアや方程式のようなものがあれば、ぜひ教えていただきたいと思っています。これをさらに洗練させていくためのヒントが得られれば嬉しいです。
3. 2D撮影方法の取り入れ+αによる情報変化量の最適化
3DカメラをキャラクターとBGで分けて気持ちよくしよう
では、3つ目のポイントについて説明します。これはCGの得意な部分を活かしながらも、別のアプローチを試みた例です。いくつかの使い方がありますが、その中でもキャラクターと背景(BG)の見せ方に焦点を当てていきます。
上の例では、キャラクターと背景が同じカメラで撮られています。リアルなカメラワークで表現する場合、これでも十分に成立します。しかし、キャラクターの動きについて考えると、1枚ずつ手描きするアプローチでは、こうしたリアルな回り込みの動きはあまり入れないことが多いです。そのため、視聴者にとってももう少しシンプルな動きの方が、気持ち良く感じられる場合があります。
下の例では、キャラクターの動きをシンプルにしています。この方がキャラクターの動きがはっきりと分かりやすく、自然に見えるのではないでしょうか。どちらのアプローチも正解ではありますが、今回はシンプルな動きに重点を置いて制作してみました。
キャラクターとBGが同じカメラ
作り方としては、カメラが左から右に回り込んだだけのシンプルな動きです。今回採用したのは、このカメラワークに合わせてキャラクターも回転させ、常に同じような位置にキャラクターが映るように調整した方法です。
このように、キャラクターの動きをカメラに合わせて調整することで、視覚的な一体感を保つことができます。また、あまり激しい回り込みをしないことで、作画的な演出を意識した仕上がりになっています。作画の現場では、こういった場面で原画の枚数を減らし、絵の変化を抑えることでシンプルさを保つ手法がよく取られます。その考え方を参考にして、今回の動きもあえて変化を抑えた作り方にしています。
そもそもアニメーションって
原画は「良い画」を描きたい?
これまでさまざまな手法を考えてきましたが、そもそもアニメーションを作る際、特に原画を描くときには「良い画を描きたい」という意識が常にあります。3Dアニメーションの制作では、「モーション」という言葉が使われることがありますが、私はあえて「モーション」とは呼びたくありません。私にとっては「アニメーション」という言葉の方がしっくりきます。
アニメーションとは、「良い画の連続」を意識したものだと考えています。一方で、モーションが必要な場面も確かにあります。例えば、360度どの方向から見ても成立するようなリアルタイムアニメーションを作る場合には、「見たい画」ではなく、「成立する動き」を作らなければなりません。その場合はモーションという考え方が適しているかもしれません。
ただ、3DCGのセルアニメで感じる「違和感」や「気持ち悪さ」の原因のひとつは、このモーションの部分にあるのではないかと考えています。3D特有の動きが、アニメーションの「見たい画」や「描きたい画」と乖離してしまうことで、違和感が生じているのだと思います。
その結果、「見たい画」や「描きたい画」、「可愛い画」、「かっこいい画」が必ずしも正解ではない場合があるということを改めて実感しました。この気づきがとても面白かったです。
セルルックもリアルルックも基本的には同じ
セルルックとリアルルックの違いについてですが、結論としては「基本的には同じ」です。セルルックもリアルルックもアニメーションの原則は共通しています。アニメーション12原則をご存知の方もいると思いますが、これらはハリウッドだけに適用されるものではありません。ハリウッドのカートゥーンでは、誇張表現が非常に大きく、動きや表情が極端に誇張されます。一方で、日本のアニメーションでも12原則を同様に活用できます。ただし、日本作品ではその「幅」が異なります。
具体的には、ハリウッドのカートゥーン作品では情報変化量の遊び幅が非常に大きく、動きの誇張が特徴的です。一方で、日本の作品では、小さな動きで表現することに重きが置かれています。そのため、情報変化量の「遊び方」に違いがあると言えます。
こうしたセルルックとリアルルック、さらには日本とハリウッドのアニメーションの違いについて、情報変化量を軸にさらに研究を深めていけば、新しい発見があるのではないかと感じました。
アニメーションにおいて大切なこと
これが最後の話になりますが、アニメーションにおいて最も大切なことのひとつは、「ストーリーを伝えるためにキャラクターの感情表現を的確に描くこと」だと考えています。BRIDGEの制作においても、その点を強く意識しました。
「CGっぽい」という表現をさきほど使いましたが、これが問題となるのは、違和感が生じた瞬間に視聴者の頭からストーリーが一瞬抜け落ちてしまう点です。私たち制作者としては、視聴者に違和感を感じさせることなく、脳をストーリーに100%使って没頭できる環境を作ることが重要だと考えています。
そのため、違和感を減らすためであれば、アニメーションにノイズを加えることもひとつの方法だと思っています。最終的には、アニメーターがどうすればオーディエンスに違和感なくストーリーを伝えられるかを研究し、実践することが大切です。
また、キャラクターに命が吹き込まれる瞬間というのは、非常に面白いものです。キャラクターが性格を持ち、自ら動き出すようなイメージが現場では共有されています。例えば、本作品のジンという猫のキャラクターの場合も、最初に作られたカットや次に作られたカットを通じて、少しずつ性格や動きが決まっていきました。現場では、他のメンバーが作ったカットを見ることで、キャラクターが徐々に形作られていくのです。
このように、チームでキャラクターを作り上げていくプロセスの中で、「このキャラクターならこういう演技はしないだろう」といった共有認識が自然と生まれてきます。これがアニメーション制作の醍醐味のひとつでもあります。
今回のセミナーでお話しした内容が、皆さんが作品を作る際や鑑賞する際に少しでも役に立てば嬉しいです。
Q&A
Q. 自然に見せたり、セルルック調でCGっぽく見えないようにする工夫についてですが、作画ではタイムシートに「2コマ打ち」「3コマ打ち」などの指定があると思います。CGにおいても、リミテッドアニメーションのように動きを制限して表現する方法を積極的に取り入れたりしているのでしょうか?
今回、時間の都合であえて触れなかった部分ですが、非常に興味深いテーマです。質問の通り、CG業界ではタイムシートや演出シートを活用する概念がまだ浸透していません。この点について、CG業界にこうした手法が導入されれば大きな変化が起こるのではないかと感じています。
この課題に取り組む中で、StudioGOONEYSではタイムシート的な方程式を模索しています。例えば、CGでアニメーションを作る際、完全に等間隔の1コマ打ちや2コマ打ちにすると、どうしてもCGっぽく見えてしまいます。そのため、現状では2コマや3コマを組み合わせる方法を採用しています。具体的には、1コマ打ちの後に2コマ落ちを入れるなど、少しランダム感を持たせた動きにしています。
さらに、作画で言う「中割」や「当割」にあたる部分をCGで表現する際は、タイミングで調整する方が自然な仕上がりになります。手描きのようなノイズを加えなくても、タイミングを工夫することで演技プランに集中できる環境を作ることが可能です。こうしたバランスを取りながら、CGアニメーションらしさを排除しつつ、アニメらしい表現を目指しています。