あにつく2024レポート | CGの仕事 〜アニメ業界における役割と職業〜(シャフト)

10月19日(土)に開催された「あにつく2024」より、「CGの仕事 〜アニメ業界における役割と職業〜」のイベント内容を紹介します。

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ウェビナー概要

CGの仕事 〜アニメ業界における役割と職業〜

アニメ業界における「CGの仕事」とはいったいなんなのか? そもそもアニメの仕事・職種とはどうなっているのか?
アニメ制作におけるCGの仕事を中心にワークフロー・職種と役割・求められるスキルなどを解説。
アニメ業界でCGの仕事をしたいと考えている人、アニメの仕事に対する解像度をあげたい人に向けた内容になっています。

【主催】株式会社Too
【特別協賛】オートデスク株式会社
【登壇者】株式会社シャフト 島 久登 氏

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はじめに

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本日お話しする内容についてですが、4階のセッションではより専門的で、「業界の今」といったハイレベルなテーマが多く取り扱われています。私の方では少し視点を変えまして、これからアニメ業界を目指す方に向けて、よりアカデミックな内容をお話ししていきます。アニメ業界におけるCGの仕事の内容や、業界内に存在する職種の種類などを中心に紹介します。

登壇者プロフィール

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まずは私、島 久登(しまひさと)の簡単なプロフィールです。私は株式会社SHAFTに所属し、現在は3DCGディレクターとして活動しています。

2005年に制作進行としてSHAFTに入社しましたが、家庭の事情により一度退社しております。その後、2015年に3DCGスタッフとして復職し、2018年からはディレクターとして勤務しています。現在は3D専門の部署に所属していますが、同時に社内のデジタル化の推進や、それに伴うワークフロー構築、さらにはハードウェアやソフトウェアを含むインフラ整備も担当しています。

代表作としては、『傷物語』や『Fate/EXTRA Last Encore』、『物語シリーズ』、『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ』、『五等分の花嫁∽』などがあります。

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アニメ基本知識

アニメのワークフローとは

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では、アニメ制作の基本的な知識についてお話しします。アニメのワークフローですが、基本的には紙と鉛筆を使ってフィルムで撮影されていた頃に作られたワークフローが、今でもベースとして残っています。

あにつくでは、デジタル作業に興味を持っている人や普段からパソコンやタブレットで作業している人が多い印象です。一方で、実際のアニメ業界、特に「作画アニメ」と呼ばれる分野では、紙と鉛筆での作業がデジタルに置き換わっただけで、そのやり方自体は昔ながらの仕組みをエミュレーションしている状態です。

実際に、今でも紙で作業している人が一定数います。それが想像以上に多く、現場によってはデジタルと紙が混在していることもあるため、このあたりがアニメ制作を目指す上で少しネックになる部分です。この現状を踏まえた知識を身につけておくといいと思います。

また、アニメ制作の方法は各社で微妙に異なります。画像に書いてある通り、「各社マイナーチェンジを繰り返しているため、全く同じ作り方をしているところはない」というのが現実です。業界全体で統一されていれば分かりやすいのですが、会社ごとに作り方や進行方法が異なり、カメラワークの呼び方自体も会社によって違う場合があります。

もし将来的に、「アニメ業界で働きたい、特にフリーランスで活動したい」と考えているのであれば、会社ごとに違う様式や呼び方に柔軟に対応する必要があります。こうした違いを認識しながら、どんな現場にも適応できる力を身につけていくことが大切です。

現状アニメーションにおける問題点

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さきほど話した内容に関連して、アニメ制作の現状における問題点についてもう少し掘り下げていきます。

まずは、紙と鉛筆を使った素材が一定の割合で存在しているということです。これがデジタル化が進む中での大きな課題になっています。後ほど詳しく触れますが、アナログからデジタルへ変換する際、注意しなければならない点が多くあります。さらに逆のパターン、つまりデジタルで作業したものをアナログに戻す必要があるケースも発生するため、この作業が非常に複雑になります。

本来ならデジタル化によって効率化が図れる部分であっても、アナログのプロセスを考慮しなければならず、結果的に作業が煩雑になるというのは、多くの制作会社が抱える問題です。しかし、これらの作業はアニメ制作において非常に重要な部分でもあり、避けて通ることができないのが現実です。

また、アナログで作業をされているクリエイターが現役で活躍している一方で、デジタルに対する知識やスキルには個人差が非常に大きいという点も課題です。これは単純に年齢によるものではありません。若い世代であってもパソコン作業に不慣れな人もいますし、逆に紙と鉛筆の時代から作業を続けているベテランの中には、デジタルに詳しい方もいます。このようにスキルや知識の差が激しいため、作業の進行やデータのやり取りを進めるうえで、「どのレベルに基準を合わせるべきか」を常に考えなければならない状況があります。

こうした問題点が、後ほどお話しする「デジタルの知識をどのように身につけておくべきか」という部分にも繋がっていきます。アニメ制作の現場では、こうした知識の差を埋める取り組みが、今後ますます重要になっていくでしょう。

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ワークフローと職種

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では、実際のワークフローの中にある職種を紹介します。アニメ制作のワークフローには、「プリプロ」「プロダクション」「ポスプロ」の3つの区分があります。プリプロはプリプロダクションの略称で、ポスプロはポストプロダクションの略称です。

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プリプロは製作の前段階で、企画や資金調達、全体の方向性を決める部分です。関わるのは、株式会社アニプレックスのような製作会社や出版会社、放送局、配信会社(例:Netflix)などが中心になります。ざっくり言うと、制作ではなく製作、つまり”衣”が付いている製作を指します。個人で活動しているクリエイターもこの段階に関わることがありますが、それについては後ほどお話しします。

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プロダクションについてですが、ここでは実際にアニメーションのコンテンツを制作する会社が該当します。例えば、私が所属しているSHAFTも制作会社です。こうした制作会社には、元請けと下請けといった区分がありますが、ここでは詳細な話は省きます。

プロダクションには、作業ごとに特化した会社も多く存在します。例えば、作画だけを専門に行う会社、仕上げ(色塗り)を専門に行う会社、背景制作を専門に行う会社、そしてCGや撮影を専門に行う会社などがあります。弊社でも、タイトルや話数単位で専門的な会社に協力をお願いして制作を進めることが多いです。ひとつの会社で全てをまかなうのは、人的にも時間的にも限界があるためです。

例えばですが、毎週放送するスケジュールの中で、20人のスタッフだけで全てをこなすのは不可能です。そのため、「今週の話数はうちで作るけど、来週の話数は協力をお願いする」というかたちで作業を分担しながら進めています。このように、プロダクションでは他社との連携が重要な要素になります。

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次にポスプロですが、こちらでは主に音楽や効果音を制作する音響会社が関わります。音響調整や音響の仕上げを担当する部分です。加えて、声優や俳優が所属する事務所もこの分類に含まれることが多いです。

さらに、編集作業もポスプロの一部です。編集には「オフライン編集」と「オンライン編集」という段階がありますが、ここは後ほど職種の説明をする際に少し詳しく触れていきます。

大きく分けてこの3つの分類の中に、これだけ多くの種類の会社が存在しています。

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では、具体的にアニメ制作における職種について話を進めます。まず「プリプロ」の段階ですが、このフェーズでは職種を細かく分類するのが難しいため、おおまかに説明します。

プリプロでは、企画や宣伝、WEB制作といった業務が主に行われます。これらは放送局や配信会社、いわゆる”衣”がついている製作会社(例えばアニプレックスなど)が担うことが多いです。ただし、全てをそういった会社が行うわけではなく、他の関係者も関わる場合があります。

もし、「自分が考えたアニメーションや企画を世に出したい」と考えているのであれば、実際にアニメを制作する会社よりも、こうした企画や宣伝を担う会社を目指した方が近道になることが多いです。この場合、採用条件として大卒であることが求められるケースが多いため、大学進学を視野に入れると現実的かと思います。ただし、プロダクションでも企画を行わないわけではなく、あくまで割合として企画会社が多いという話です。

さらに、シリーズ構成という役割もあります。シリーズ構成は、1クールや2クールのアニメの全体像を決める役割で、各話の内容をどう作り上げるかを計画します。その計画に基づいて、シナリオライターが各エピソードを脚本に落とし込む作業を行います。

また、プリプロにはデザインの仕事も含まれます。キャラクターデザインや小物デザイン、背景や空間設定など、作品のビジュアルを構築するためのデザインを行います。これらは全て制作に入る前の準備段階で行われるため、プリプロに分類されます。

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アニメ制作のワークフローについて、具体的な流れをお話しします。今回は2Dに限定した説明ですが、細かく書くと複雑すぎるため簡略化しています。

プロダクションとして主に弊社が関わっている部分は、真ん中の緑色で示されたエリアです。この範囲では、プリプロダクションとプロダクションをつなぐ架け橋となる絵コンテの段階からスタートします。絵コンテは、シナリオから映像に落とし込むための設計図のような役割を果たしていて、制作会社が外部に発注して描いてもらうケースが多いです。

そこから流れとしては、レイアウト、原画、動画の順で進行します。この部分がいわゆる作画と呼ばれる工程で、多くの方がアニメ制作と聞いてイメージする部分です。次に、背景、仕上げと進み、最後に撮影を経て、ポスプロに入ります。ポスプロでは、編集、アフレコ、V編(ビデオ編集)が行われ、完成に近づいていきます。

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では、ここにCGの作業がどう関わるかという話に移ります。CGでは、モデリングやリギング、モーション作成、ライティング、レンダリングといった工程で進められます。中には、ラフ段階と本番段階で分かれる場合もあります。また、作画や仕上げの工程と連携しながら進める必要があり、CGだけで完結することはほとんどありません。

そのため、CGの作業では作画との連携が非常に重要になります。この連携が、2D制作会社でのCG作業の特徴です。例えば、CGと作画の動きを一致させるための「CGレイアウト」という作業があります。あまり聞き慣れないかもしれませんが、2Dと3Dを融合する上で重要な役割を果たします。こうしたCGの具体的な作業については、後ほどさらに詳しくお話しします。

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では、2D作画の中にある職業について説明していきます。さきほど「作画」というざっくりした言い方をしましたが、実際にはこれだけ多くの職業があります。

まず、動画、動画検査といった基本的な役割があります。また、最近は第2原画という呼び方もよく耳にしますが、これはもともと職業として確立されているわけではなく、作業の区分として使われることが多いです。そのため、ここではカッコ書きとしています。

次に、原画、作画監督、総作画監督、キャラクターデザインといった職業があります。特にキャラクターデザインは全員が担当するわけではなく、特定の人が兼任することが多いので、参考程度に見ていただければと思います。

最近のトレンドとしては、総作画監督がキャラクターデザインを兼任するケースが多く見られます。アニメでは、キャラクターデザインが最初に設定され、それに基づいて全員が絵を描く必要があります。ただし、どうしても絵柄にばらつきが出るため、それを統一するのが作画監督や総作画監督の役割です。

作画監督は、原画マン(アニメーター)が描いたキーフレームを、シーンごとに調整して統一感を持たせる役割を担っています。一方、作画監督にもばらつきが出ることがあるため、それをさらに統一して仕上げるのが総作画監督です。最近では、作画監督が10人以上、総作画監督が4〜5人といった大人数で作業するケースも増えており、それだけ負担が大きくなっているのが現実です。

次に、総作画監督が整えた原画を、実際の映像になるフレーム数まで分割して描くのが動画の役割です。この作業は大量の絵を描く必要があるため、ミスやエラーが発生しがちです。そこで、そのミスをチェックし、エラーを防ぐのが動画検査の役割です。

ここまでがいわゆる線画の状態なので、この段階ではまだ色がついていません。

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線画に対して色を付けるのが「仕上げ」という作業です。ただ、単純に色を塗るだけではありません。仕上げでは、同時に数十人から多いときで100人程度のスタッフが作業を進めるため、統一性を保つための工程が必要になります。

まず、「このシーンのこのキャラクターはこの色で塗ってください」と指示を出す役割が色指定です。色指定に基づき、各スタッフが実際に色を塗る作業をペイントと呼びます。大量の手作業を伴うため、ミスが発生する可能性があり、それをチェックして修正するのが色彩検査の役割です。これは動画検査と同じく、ヒューマンエラーを防ぐために欠かせない工程です。

さらに、色に関わる全体の方針を決める役割として色彩設計があります。色彩設計は、「このキャラクターの色はシリーズ全体でこうしよう」、「この話数ではこういった配色にしよう」という決定を行います。全員が担当するわけではないため、特定の人が任される役職です。

漫画原作の場合、カラー原稿をそのまま参考にすればいいと思うかもしれませんが、アニメではキャラクターが360度動くため、漫画では見えない部分の色も決める必要があります。また、静止画としては問題ない配色でも、動く絵になるとバランスが崩れることがあります。そういった動きに対応した色のバランスを考え、監督と相談しながら決めていくのが色彩設計の重要な仕事です。

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次に、背景と撮影の職業について説明します。背景に関わる職業としては、背景画制作、テクスチャ作成、3DCG背景、背景監督、美術設定などがあります。背景専門の会社にも3Dの部署があることが多く、そうした背景会社を目指すという進路も選択肢のひとつです。

美術設定はキャラクターデザインと同じような役割を持ち、例えば「この話数のこの場所はこういったデザインで描いてください」という具体的な指示を作り上げる作業です。背景監督は背景全体のクオリティを管理する役職で、色彩検査やCGディレクターと似たようなポジションと言えます。その作品のビジュアル全体が統一感を持つように、他のスタッフに指示を出してコントロールを行います。

また、最近では3Dに貼り付けるテクスチャ素材を背景会社が作成し、それを3D部署が受け取って利用するケースも増えています。

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撮影に関わる職業としては、撮影、線画撮影、モニターグラフィックス、撮影監督があります。モニターグラフィックスは、アニメ内で「画面内画面」を作る作業です。例えば、魔法陣のアニメーションや、スマートフォンの中の動く画面などがこれに当たります。これらのデザインや動きの処理を担当します。

撮影の中には、線画撮影と呼ばれる作業もあります。本来は、編集に渡す段階で色付きで全て完成した状態にするのが理想ですが、スケジュールや事情によりそれが難しいこともあります。その場合、絵コンテやレイアウト、原画の段階でムービーを作り、線画のまま撮影を行うことがあります。これは、未完成の状態でも全体の流れを確認するために行われる作業です。専門の会社が担当する場合もありましたが、最近は撮影会社の業務の一部として行われることがほとんどです。

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次に、ポスプロについてお話します。ここでは、編集助手、オフライン編集、オンライン編集、効果、音楽、音響制作、音響監督、声優など、さまざまな職種が関わります。ここにあるように、編集にはオンライン編集とオフライン編集の2種類があります。

オンライン編集は、完成間近の状態で行う編集で、実際に視聴者が目にする直前の映像を調整する作業です。一方、オフライン編集はその前の段階で行われるもので、各カットの尺(何秒、何コマ)や全体の構成を決定します。完成した映像を扱うのではなく、素材の編集を通じて全体の流れを組み立てる作業と考えてください。編集という言葉の中にこれら2種類の作業が含まれていることを理解しておくと良いと思います。

次に音響制作ですが、これは音響部分の制作進行や管理を担当する役割です。プロダクトマネジメントの音響版と言えるもので、スケジュールやクオリティの調整、音響チームの進行を円滑に行う役目を担います。この職種は主に音響制作会社に所属している場合が多いです。

ポスプロはアニメ制作の最終段階を仕上げる重要な工程で、これらの役割が連携して作品のクオリティを高めていきます。

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CGの職業についてお話しすると、モデラー、アニメーター、リガー、FXアーティスト、ライティング、レンダラーなどがあります。また、場合によってはコンポジターやCGディレクター、テクニカルアーティスト、テクニカルディレクターといった職業も含まれます。

ただし、アニメ制作会社、特に弊社のような3DCG部署を持つアニメーション制作会社の場合、職業を厳密に分けていないことが多い印象です。1人が複数の工程を担当することも珍しくありません。

一方で、CGプロダクションやゲーム会社のようなCG専門の会社では、モデラーやアニメーターといった職種が明確に分かれており、それぞれ特化したスキルが求められることが多いです。このあたりの違いや詳細については、後ほど改めてお話しします。

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その他の職業としては、アニメーション制作全体をマネージメントする「制作」と呼ばれる役職があります。その中で、シリーズ全体を通して制作進行を管理する人を「制作デスク」と言います。そのさらに上の役職にあたるのがプロデューサーです。プロデューサーは他の会社との交渉や企画の取りまとめなども含めて、全体のプロデュースを行う役割を担います。

また、設定制作という職業もあります。これはデザインに関する部分を専門的に管理する役割で、普通の制作進行とは少し異なる性質を持つため、別の職種として扱われることが多いです。さらに、演出やその補佐を行う演出助手、全体の指揮を執る監督、そして絵コンテを専門に描く絵コンテマンなどの職業もあります。

これらの職種の多くは、必ずしも会社に所属しているわけではありません。特に監督や絵コンテマン、演出家はフリーランスとして活動しているケースがほとんどです。プロダクトが動き出す際に制作会社がフリーの監督に声をかけ、「このタイトルを一緒にやりましょう」と依頼して組む形が一般的です。

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CGの仕事内容と区分

では、CGの仕事についてもう少し掘り下げて話していきます。

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CGの仕事で主に就職の選択肢として多いのは、モデラーやアニメーター、リガーといった職種です。弊社でもジェネラリストとして幅広い業務を担当できる人材を募集することが多いですが、FXアーティストやテクニカルアーティストといった役職は会社によって募集がある場合とない場合があるため、今回はその部分は割愛します。

モデラーの業務としては、キャラクターのモデリングや、小物(アセット)と呼ばれる携帯電話や車、武器などのモデリング、それから背景のモデリングも含まれます。背景モデリングについては弊社の場合自社で行いますが、背景会社の3D部署に依頼することもあります。

モデリングが進むと次の工程であるリギングに移行しますが、この流れは一方通行ではありません。例えば、モデラーが作ったラフモデルをリガーに渡し、リグの設定を進める中でモデルに不具合が見つかった場合、それをモデラーに戻して修正し、再度リガーに渡すという行き来が発生します。この過程で密な連携が必要になります。

CGレイアウトについては、2Dの作画が始まる前に3Dを使って画面構成を作る作業です。この段階では背景やキャラクターのラフモデルを使い、カットの構図や構成を演出と確認しながら作り上げます。それを作画担当に渡し、作画の基準として活用してもらいます。

さらに、「CGのアタリ」という作業では、作画に必要な部分を3Dで補完します。例えば、キャラクターは手描きの作画で描かれますが、キャラクターが持つ武器や小物がCGで作られる場合があります。この際、作画に合うようにCGを配置し、それを元に作画が進みます。

最終的に、仕上げで色を塗った作画とCGが揃った段階で、CGの本番モデルを配置し直し、撮影に渡す形で仕上げていきます。この過程ではスケジュールが作画の進行に依存するため、作画が遅れるとCGの作業時間が短縮されることがあり、これが制作現場の難しさの一因です。

このような背景から、アニメ制作会社ではCGの職種を厳密に分けることは難しい場合が多いです。モデリングだけ、リギングだけというように業務が限定されると、作業が一段落した際に手が空いてしまうことがあります。そのため、複数の工程をオーバーラップして担当できるジェネラリストが求められる傾向があります。

一方で、モデラーだけ、アニメーターだけといった特化した職種を希望する場合、CGプロダクションやゲーム会社など、専門性を重視する企業を選ぶ方が適している場合があります。アニメ制作会社で特定の業務にこだわると、自分のスキルや希望と会社の求める人材像がマッチしない可能性があるため、就職先の選択は慎重に検討する必要があります。

就職を考える際は、自分がどのような仕事をしたいのかを明確にし、希望するプロダクションや会社を選ぶことが重要です。

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デジタルに関する基礎知識

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次に、デジタルに関する基礎知識についてです。ハードウェアやソフトウェア、それからあとデータの取り扱いに関する基本的な知識という3点になります。

作業環境

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作画用のPCには、HP製の『Z2 mini』を使用しています。現在は世代が新しくなって名前が変わっていますが、引き続きHPの製品を使っています。モニターについては、作画では特に色の精度を重視する必要がないため、比較的安価なモニターを採用しています。

描画デバイスとしては、Wacomの『Cintiq 16』を使用しています。Cintiq Proを使うケースもありますが、弊社ではCintiq 16で必要十分な作業環境が整っています。作画用のソフトウェアは、『CLIP STUDIO EX』を使用しています。

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CG用のPCには、HP製の『Z1 Entry Tower G5』を使用しています。こちらも現在では新しいモデルに切り替わっています。CG作業では色の精度が重要になるため、モニターにはEIZOの『FlexScan 24inch』を使用しています。一方、サブモニターには色精度を求める必要がないため、Philips製のモニターを採用しています。

作業内容に応じて、例えばテクスチャ作業やSubstanceの使用時には、WacomのCintiq 16を補助的に使用することもあります。普段は必要に応じて引き出し、使い終わったら片付けるようにしています。

また、CG制作でのメインツールは『Autodesk Maya』です。加えて、『Photoshop』や『After Effects』『Substance』などを使用しています。一部の作業には『Blender』も導入しています。また、実験的に『Houdini』を使用するケースもあり、必要に応じて活用しています。

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ここで、ハードウェアに関する知識の必要性について説明します。例えば、レンダリングやシミュレーションといったCG制作の際には、どのくらいのスペックが必要で、どの部分に負荷がかかるのかを理解していると、作業の効率が大きく変わってきます。また、通常の作業を快適に進めるために適切な環境を整えるには、ハードウェアの特性を知っておくことが重要です。

さらに、個人でPCを購入する際にも、この知識が役立ちます。例えば、「高価なPCなら良い」という誤解に基づいて購入すると、CG制作に向いていないスペックのものを選んでしまい、結果的にお金を無駄にしてしまうことがあります。適切なハードウェアの選択肢を知ることで、無駄な出費を防ぐことができます。

プロダクションに入った後では、作業データがどのくらいの量になるのか、ストレージにどれだけ負荷がかかるのかを把握しておくことも役立ちます。この知識があると、システムエンジニアに頻繁に頼らず、自分で問題を解決できる場面が増えるため、結果的に業務がスムーズに進むことにもつながります。

現在は、ハードウェアや作業環境について解説しているサイトも多く存在します。全てを深く学ぶ必要はありませんが、基本的な部分を軽く理解しておくだけでも、大きな助けになると思います。ぜひ興味を持って知識を身につけていただければと思います。

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ソフトウェアについてですが、「プロが使っているソフトだから良い」という考え方もひとつの選択肢です。ただし、それだけで選ぶのではなく、作業内容や求められるスピード感に合ったソフトを選ぶことも重要です。

例えば、作画で言えば、現在のアニメ制作会社ではCLIP STUDIO EXが主流となっています。そのため、このソフトを選ぶのは合理的な選択です。ただし、他にも選択肢があります。例えば、『Open Toonz』や、弊社の静岡スタジオで導入している『ToonBoom Harmony』、また『TVpaint』などです。最近ではBlenderを使って作画を行うクリエイターも増えています。

仕上げに関しては、古いソフトですが、RETASシリーズの『PaintMan』を未だに多くのアニメ会社で使用しています。このソフトはすでに10年以上前に開発が終了していますが、代替となるソフトがないため、いまだに現場で使われています。塗り作業を他のソフトで行うことも可能ですが、PaintManほどのスピード感を実現できるソフトは現状少ないためです。

背景や撮影に関しては、After EffectsやPhotoshopがよく使われています。また、エフェクト作成では『Illustrator』も活用されています。編集やカラーグレーディングでは、『DaVinci Resolve』が使用されるほか、編集作業では『 Media Composer』や『Adobe Premiere Pro』の使用が増えてきています。

2Dアニメーションのソフトウェアにはこれだけの選択肢があるため、自分の作業内容や目指す方向性に合ったツールを選び、使いこなしていくことが重要です。

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CGソフトの選択肢も多岐にわたります。プロが使用しているソフトを選ぶのもひとつの方法ですが、自分が何を表現したいのか、そのためにどのソフトが適しているのかを考えて選ぶのが最も健全なアプローチです。

例えば、Blenderは無料で使えるため、選択肢としてとても優れています。しかし、自分が表現したいものや、達成したいビジュアル表現に本当に合っているのかは別問題です。そのあたりをよく考慮した上で選ぶことが重要です。

データに関する基礎知識

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デジタルデータに関する知識についても触れておきます。CG制作では、作業の前後工程が異なるセクションやチームで行われることが一般的です。そのため、作業データのやり取りには、あらかじめ決められたフォーマットや仕様が存在します。

仕様書に書かれている内容を理解せずに作業を進めると、ヒューマンエラーを引き起こしやすくなります。仕様書を正しく理解し、それに基づいて作業するためには、解像度、データフォーマット、コーデックといった基礎的な知識が欠かせません。

学生に向けて

学生時代の取り組み

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ここからは学生の方々に向けて、「こういうことを意識しておくと良いよ」という話をします。

まずひとつ目は、絵を作ることを意識するということです。学生のうちは、どうしてもソフトの使い方を覚えることに集中しがちです。しかし、僕たちがやっているのは、お客さんに見てもらうために良い映像を作る仕事です。そのため、単にソフトを操作するのではなく、「良い映像とは何か」「そのために自分がやるべきことは何か」という部分に目を向けて取り組むことが大事です。

もちろん、ソフトの使い方を覚えることは基本として必要ですが、それはあくまで「手段」に過ぎません。目的は良い映像を作ることなので、ソフト操作だけに意識を向けすぎないようにするのが重要です。

ふたつ目は、納品や時間の使い方を意識することです。プロとアマの大きな違いのひとつは、「締め切り」に対する意識です。僕たちは放映スケジュールが決まっているため、どんな事情があっても必ず間に合わせなければいけません。これは絶対です。

学校の課題で締め切りに間に合わないことがあるかもしれませんが、プロの現場では許されません。期限内に作業を終わらせるという意識を持ち、何があってもやり遂げる姿勢を身につけることが大切です。この「締め切りを守る」という感覚を学生のうちから意識しておくと、プロの現場に入ったときに役立つと思います。

ポートフォリオについて

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ポートフォリオを作る際に意識してほしいポイントについてお話しします。まず、学校で用意されたフォーマットに沿ってポートフォリオを作る方が多いのですが、そのフォーマットや内容が自分を最大限にアピールできているかを一度考えてみてください。フォーマットが整っていることは大事ですが、それだけではあなた自身の強みや個性が伝わらない場合があります。

また、ポートフォリオを作る際は、自分が目指そうとしている会社や業界に対して、その会社が求めている人材像に自分がフィットしているかを意識することが重要です。例えば、ある会社が特定の技術や表現力を求めているのであれば、その要件に応えられる内容をポートフォリオに盛り込むべきです。

効率を考えると、ひとつのポートフォリオを使い回すのは便利ですが、それが全ての会社に適しているとは限りません。自分をアピールするポイントが会社ごとに異なる場合、内容を調整することでより効果的なポートフォリオになります。時間はかかるかもしれませんが、応募先ごとに少しずつ内容を工夫することをおすすめします。

就職とその後

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よく見受けられるのが、「就職が目標になってしまっている」というケースです。会社に入ること自体をゴールとして考えてしまう方が多いのですが、本当の目標はその先にあります。就職はあくまでスタート地点であり、仕事を続けていくこと、そして成長し続けることが大切です。将来の自分のビジョンが明確でなくても構いません。ただ、その先も仕事を続けていくイメージを持ちながら行動してほしいと思います。

また、これは僕からのお願いですが、アニメ以外の趣味を持つことをおすすめします。アニメを趣味として好きでいることは素晴らしいことですが、仕事が趣味と重なると、逃げ場がなくなることがあります。リフレッシュできる場所がないと、仕事で追い詰められたときにパンクしてしまう可能性があります。

そのため、アニメを好きでいながらも、それとは別の趣味を持つことを意識してみてください。アニメ制作で行き詰まったときには別の趣味でリフレッシュし、気持ちを切り替えて仕事に戻る、というサイクルが作れると理想的です。これがあると心の余裕が生まれ、結果的にアニメに対する情熱や楽しさも長く保つことができます。

アニメ制作は好きだからこそ続けられる仕事ですが、続けるためにはバランスを取ることが大事です。そのための工夫をぜひ意識してみてください。

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