2024年10月19日(土)に開催された「あにつく2024」より、「データで創る制作管理革新:サンジゲン式クリエイティブの未来」のセッション内容を紹介します。
セッション概要
データで創る制作管理革新:サンジゲン式クリエイティブの未来
サンジゲンでは、CGアニメ制作における革新的な制作管理手法を導入しています。 独自のデータベースシステムにより、発注から納品、スタッフの作業状況や評価、収支管理を一元化。 さらに、作業日報を基にスタッフの作業効率やチェック毎のクォリティ評価を行うシステムも組み込んでいます。 セミナーでは、この取り組みと、その効果について詳しくご紹介します。
【主催】株式会社Too
【特別協賛】オートデスク株式会社
【登壇者】株式会社サンジゲン 松浦 裕暁 氏
株式会社サンジゲン 福永 美優 氏
制作開発セクション
最初に、構成から話していきます。制作開発セクションというのは、制作ともシステム開発とも異なる役割を担うセクションであり、クリエイターとも違います。このセクションを設けた理由は、制作にやってほしかったデータ分析などを専門的に進めるためでした。
職種人数構成
現在、このセクションには4人のメンバーが所属しています。それとは別に、システム開発を担当するスタッフがいて、さらに制作には約20人が在籍しています。
今日はその中でも特に、CGアニメーションの管理方法に焦点を当ててお話しします。この分野のデータは現在、約240件に上ります。チーム構成としては、CGアニメーターが88人、モデリングが約50人、リグが13人という体制になっています。
サンジゲンのスタジオ
スタッフたちは全国に分散しており、全国に9つのスタジオがあります。サンジゲンとしては、全国に8カ所のスタジオがあります。1つは子会社で、株式会社サブリメイション・株式会社Tooと共同で設立した会社『UTALICA』が札幌に拠点を構えています。
これら全てのスタジオを、集中管理する体制を取っています。一元化された管理によって、効率的な制作環境を実現しています。
アニメータータスク概要
アニメーションだけで、年間の制作カット数は約10,000カットに上ります。また、工程ごとに発注を分けて数えると、年間の発注数は約45,000件、チェックの回数に至っては約80,000件にもなります。
これだけの規模になると、人の手だけで管理するのは不可能だと判断しました。私たちは小さな会社からスタートし、当初は人の頑張りで何とか対応してきました。しかし、事業が成長するにつれて複数の仕事が同時進行で進むようになり、タイトル数も増加していきました。結果として、「このままでは無理だ」という結論に至ったのです。
3つの課題
大きく分けて、私たちには3つの課題があります。
まず1つ目は予算の管理です。最近のアニメ制作の予算は以前より高くなってきていますが、その予算が本当に必要なところに正確に使われているのかどうか、正直不安に感じる部分があります。規模が大きくなるにつれて、全員と直接話すことが難しくなってきている中で、経営者として「これはまずい」と感じることがありました。
2つ目はスケジュールの適正さです。最初の段階のまだ何も決まっていない状態で、納品スケジュールだけが設定されることが多くあります。「おおよそこの時期にアフレコをして、この日あたりに納品かな」という感覚で進むこともあるのですが、それが本当に制作現場にとって妥当なのかは疑問です。遅れることも当然ありますし、十分な作業時間が確保されているのかどうかも重要な問題です。サンジゲンでは、朝10時に出社して夜7時半に退社するという運用をしていますが、その時間内で適切に作業を行えるスケジュールが組まれているかどうかを常に確認する必要があります。
そして3つ目は人材の評価です。作業者の皆さんは一生懸命仕事をしてくれますが、当然ながら能力やモチベーションは人によって異なります。一律の評価基準が必ずしも必要だとは思いませんが、個性や努力を正当に評価しなければならないと感じています。一年間を通してそれぞれの作業者に対して適切な評価ができているのかどうか、これも私が課題として感じているポイントです。
制作DB(データベース)
だからこそ、これらの課題を解決しなければならないと考えました。しかし、何か特効薬があるわけではありません。そこで、約10数年前から開発を始めたのが制作DB(データベース)です。この制作DBを導入することで、課題に取り組み始めました。
開発当初は正直全く使い物にならない状態でしたが、現在では大きな役割を果たしてくれています。制作DBは全国のスタッフが使用しており、仕事の進行状況や予算の管理、作業者の評価など、あらゆることを一元管理するシステムとして活用されています。
データ活用の3分野
制作DBについて簡単に説明します。制作DBから出てくるデータは、大きく3つの分野で活用されています。
まず1つ目は、「制作管理系データ」です。進捗管理や物量のコントロール、発注作業、日報の受け取り、作業時間の管理などに活用されています。さらにタイムカードの情報もこのDBに含まれており、作業時間を正確に把握することができます。
2つ目は、「人事評価系データ」です。誰にどのような発注がされて、それが何分、何時間かかったのかを記録し、発注された工数に対する超過程度を把握できます。また、クオリティの評価も行っており、80,000件のチェックに対して全てクオリティ評価を行っています。この評価も制作DBを使って一元的に管理されています。
3つ目は、「経営管理系データ」です。予算の管理やスケジュール管理、さらには経営判断に必要な情報を集約しています。こうした経営の視点でのデータも、制作DBに蓄積されています。
これらの分野で活用されることで、制作DBは制作現場の効率化や質の向上、経営管理の最適化に貢献しています。
それぞれのデータの活用先
今回、全てを紹介するのは難しいので、制作DBの基礎となった部分について説明します。特に重要な要素を抜粋して、黄色で示した部分を見せながらお話しします。
制作管理において一番重要なのが、「アニメーション基礎工数表」です。この工数表では、コンテの情報を全て数値化する仕組みを導入しています。この仕組みを活用することで、プロジェクト全体を数値ベースで管理することが可能になります。
また、プロジェクトの進捗管理も非常に重要な要素です。
人事評価系では、「人事評価シート」を使ってスタッフの偏差値を算出する仕組みや、人事評価そのものを行っています。さらに、スタッフが1ヶ月でどれだけ納品しているかといった情報も、全てデータベースで把握できるようになっています。
一方、経営管理系では、「予実管理表」や、全作品の進捗と管理、さらに利益管理も行えるようになっています。
像はそれらの相関図です。
重要なのは、この相関図が示しているように、さまざまなデータが自動的に連携する仕組みが整備されているという点です。一部手動で処理する部分もありますが、データを入力していくと、各種計算が自動的に行われ、必要な情報が瞬時に集約されるようになっています。
カロリー計算表
ここからは、アニメーションの「カロリー計算表:基礎工数表」の仕組みや役割についてお話しします。
基礎工数表
今回は使用するデータは全てダミーとなっています。こちらが「基礎工数表」のスプレッドシートのデータで、実際に運用しているものに基づいています。
この基礎工数表は、社内でさまざまなものを管理する際の基礎となる重要なツールです。例えばスケジュール管理では、特定のカットが上がるまでに必要な日数などの予測を立てることができます。また、特定のカットに使うべきお金などのコスト管理にも役立っています。
以前は、カットの難易度や大変さを主観的に判断していましたが、アニメーターや制作者ごとに感じ方が異なるため、管理が非常に難しい状況でした。例えば、「このカットなら3日かかる」と言う人もいれば、「自分なら2日で終わる」といった意見の違いが出ていました。
そこで、どのアニメーターや制作者にも一律で適用できる共通の基準を設けるために、基礎工数表を導入しました。この表を使うことで、「このカットなら2時間で仕上げてください」といった具体的な基準を示すことができ、主観に頼らない公平な管理が可能になります。これが、サンジゲンでの管理の基本となっています。
基礎工数表は1カットごとに1行ずつデータが入力されており、それぞれのカットにかかる時間が数値で明確に記されています。「このカットは何時間必要か」「このカットはどのくらいで仕上げるべきか」といった情報が、全て数字として管理されています。
サンジゲンでは、「0.1 = 1時間で作業できる量」と定めています。つまり、「1.14」という工数の数値が表に記載されている場合、これは「約11時間の作業量」を意味します。このように、数値を基準にすることで、作業時間を定量的に管理することができる仕組みになっています。
では、どうやって「このカットは1.14工数」と決めているのかというと、表の右側にある数字がその判断のもとになっています。ここには「4」や「1」など、さまざまな項目に基づく数値が入力されています。これらの数値は、コンテの絵を見ながら設定しています。
例えば、一番端の項目はアングルに関するものです。そのカットで顔のアップがどれくらい映っているのか、全身が引きで映るのか。また、カメラワークがどのようになっているのか、動きがあるのか、止め絵なのか、単なる横パンなのか、それとも3Dカメラワークが組み込まれているのか、といった要素によって、作業の重さが変わる仕組みです。
この項目を最初に定めたのはサンジゲンの代表、松浦です。元々CG制作に携わっていた経験から、3DCGでどの作業が時間を要するのかを分析し、抽出しました。当初はもっと多くの項目がありましたが、それらを集約し、段階的に分類することで、「CGでこの作業をすると時間がかかる」という基準を明確にしたのがこの仕組みです。
さらに、「手モーション」という項目があります。これは、手や指を動かすアクションに特化したもので、CGでは非常に時間がかかる作業の一つです。例えば、手全体を単純に動かすだけではなく、指を一本ずつ動かすという繊細な動作は特に難易度が高く、大きなアクションとは別でポイントを設定しています。
この課題が顕著に現れたのが『BanG Dream!』の制作時です。モーションキャプチャーを使用していましたが、楽器を演奏する際の指の動きは全て手作業で付け加える必要がありました。当初、この「指の動き」に関する工数が考慮されておらず、アニメーターから多くの不満が出ました。確かにそうだと思い、改めて見直すことにしました。
そして、指の動きが他の動作に比べてどれだけ負荷が高いのかを数値化しました。具体的には、「指の動きが全体の作業量に対して何%重いか」を調査し、それを基準に取り入れました。
この仕組みでは、カットごとにポイントを計算します。例えば、このカットにさまざまな項目で点数を付けた結果、合計で10ポイントになったとします。では「10ポイントは何工数なのか?」という部分ですが、これを換算するために係数「8.3」を使用します。この「8.3」という数値は、過去のデータから導き出されたものです。
サンジゲンでは10年以上前から日報を取り続けています。スタッフがどの作業に対して何分かかったのかを記録し続けてきた、その膨大なデータが基礎になっています。この基礎工数表を作る際に、過去に制作したアニメーションのデータをもとに、実際にかかっていた時間を詳細に分析しました。たくさんのデータをもとに、「サンジゲンのスタッフがこのアニメーションを付ける場合、これくらいの時間がかかる」という平均値を算出し、それに基づいて「8.3」という換算係数を設定しています。
こうして、この基準を使うことで、1カットあたり何時間、何工数が必要なのかを数値化することができるようになりました。面白いのは、このポイント付けは誰でもできるという点です。アニメーション制作の知識がなくても可能で、実際にサンジゲンでは総務事務のスタッフがこの基礎工数表の作成を手伝っています。
逆に、クリエイターや制作スタッフが表を作ると、情報が増えすぎたり、誰が担当するかによって工数が変わるといった問題が生じます。また、作品ごとに基準が変わると管理が複雑になり、全ての作品で使える統一基準が求められました。そのため、「どの作品であろうと一律に適用できる基準」を目指して、この仕組みを整備しました。このようにして、クリエイターでない人でも対応可能な仕組みを構築したのです。
基礎工数表マニュアル
また、こういったマニュアルを用意しています。このマニュアルには、「この項目は何を指しているのか」「どうやって点数を付けるのか」などが詳しく記載されており、カットのサンプルも含まれています。
これを活用して、全国にあるスタジオの事務スタッフに指導し、練習を重ねてもらいました。クリエイティブのことが全く分からない人でも、絵やコメントを見ながら数字を正確に入力できるようにすることを目指しました。その結果、クリエイティブの知識がないスタッフでも基礎工数表を作成できる体制が整いました。
基礎工数表シリーズサマリー
この基礎工数表を活用することで、コンテが上がった段階で「この話数にどれだけ工数がかかるのか」を見積もることができます。これにより、制作のカロリーコントロールや予算、スケジュールの管理に非常に役立っています。
例えば、全体の予算として3,600工数を使用すると決まっている場合、1話から12話までの各話で工数を適切に振り分ける必要があります。シリーズ構成やシナリオが進むと、アクションが多い話数や物量が重い話数が見えてくるので、これを考慮して工数を割り振らないと、1話から積み上げていく中で予算やスケジュールがオーバーしてしまいます。そのため、最初から全体を見渡して計画を立て、基礎工数表を用いて調整を行います。
コンテが上がった際に、「この話数ではこのぐらいしか工数を使えない」と思っていたのに、実際のコンテが重い内容だった場合、基礎工数表を活用して対策を考えます。アングルが全身を映すカットでは4ポイントが付く場合がありますが、地面と脚の接地面が映るとCGの作業負荷が高まります。そこで、少し寄り目のアングルにして足元を映らないように変更することで、カロリーを減らすといった調整が可能です。
また、絵コンテが重すぎてクリエイターから不満が出る場合、どう調整するかが課題になります。よくある対応として、「カットを軽くしてくれ」「もっと簡単なコンテにして」と監督にお願いする方法がありますが、これはシナリオの内容を全て表現しなければならない状況では難しい場合も多いです。
そのため、基礎工数表の仕組みを用いることで、カットを削ったり、尺を調整したりする必要はなく、「話数ごとの工数が既定の範囲内に収まれば問題ない」という考え方で運用しています。このように、数字を基準にすることで効率的な調整が可能になっています。
日報
さきほどお話しした過去の実績について、「その実績をどうやって取ったのか」という部分を説明します。サンジゲンでは、全社員が日報を付ける仕組みを導入しています。日報の入力には専用のフォームがあり、各アニメーターには自分に発注されているタスクのリストが右上に表示されます。
この日報システムはタイムカードとも連動しています。タイムカードのデータが自動で左側に反映されるため、日報で報告した作業時間とタイムカードの時間が一致していないと受け付けられない仕組みになっています。このようにして、正確な作業時間を記録し、データベースに登録することが可能です。
また、このログを活用することで、「スタッフ偏差値」という指標も作成しました。この偏差値は、発注された工数に対して実際の消化率を測るもので、例えば1工数が発注された場合に1.5工数かかったなら、その消化率は150%になります。各タスクや工程ごとにこのデータを記録し、スタッフの作業効率を評価する仕組みです。
日報には青や赤のセルで消化率が視覚的に表示されており、100%以下の場合は予定よりも早く終わったことを示します。ただし、作品ごとに作業の重さが異なるため、重い作品では超過率が高くなる傾向があります。そこで、作品ごとの特徴を考慮したうえで、全スタッフの成績分布を見られるように偏差値を導入しました。
しかし、この偏差値は超過率だけをもとにしているため、作業の質や他の要因を考慮できていないという欠点がありました。そのため、「スタッフ偏差値」という指標は、運用してみた結果、失敗だったと考えています。
クオリティ評価シート
最近では「クオリティ評価シート」を活用しています。今回は、そのサンプルデータを持ってきていますので、これを使って具体的に説明します。
クオリティ評価シートは、工数がオーバーした部分やクオリティの評価を7段階で記録する仕組みになっています。このチェックも、全てサンジゲンのデータベースを通じて行っています。作業者は専用のアプリを使って作業データをアップロードします。アップロードされたデータは、ディレクターやチェッカーに通知され、確認が行われます。この評価は選択式で、簡単に入力できるようになっています。
評価基準はわかりやすく、「基礎がなっていない」「演出意図がクリアできていない」「ギリギリOK」などの項目が用意されており、それぞれから選ぶだけです。
評価の結果は点数として集計されます。例えば、サンプルで一番上にある篠崎咲さんは総合で464点という結果が出ています。この点数は、工数の超過やリテイクの回数、クオリティ評価など、さまざまな要素を反映したものです。例えば、超過率に関しては10%オーバーするごとに-1点が引かれ、リテイクは1回につき-1点が減点されます。また、クオリティ評価で最も低い評価を受けた場合は-3点が引かれます。
全てのチェックごとに加点や減点が行われ、最終的に作業がOKとなれば加点もされますが、OKに至るまでのプロセスも評価点数に反映される仕組みです。このように、個々の作業の評価を点数化することで、総合的な成果を測ることができるようになっています。
レイアウトやプライマリ、セカンダリといった各工程ごとに点数をつける仕組みになっています。ただし、評価はそれだけではありません。感覚的な評価も大切にしています。時には、「あの人、最近すごく頑張ってるんですよ」という話をスタッフから教えてもらうこともあります。
しかし、そのような感覚的な評価だけに頼るわけではありません。例えば、「本当にそうなの?」という疑問が出た場合、実際に数値としても成果が表れているはずだと考えます。「頑張っている」という評価が本当に正しいなら、去年と比べて数字が改善されていて、評価も高くなっているはずだからです。
この数値的な基準で「何点以上が優秀」という明確な線引きがあるわけではありませんが、客観的な指標としてスタッフの成長を測る一つの目安になります。その上で、感覚的な評価と数値の結果を総合的に考慮し、最終的にスタッフの給料や評価を決めていく仕組みになっています。
全体進捗
この表では、各タイトルの1話から12話まで、各話数の進捗状況を一目で確認することができます。発注に対して、どの程度カットが進んでいるのかを、データベースからデータを読み込むだけで一瞬で把握できる仕組みです。そのため、進行状況を管理する際に、1カットずつ「OK」「リテイク」といった情報を手動で入力する必要はありません。
作業者がデータをアップロードしたり、ディレクターがチェックを行い、結果を返したりするだけで、全てがデータベース上で自動的に更新されていきます。以前は制作スタッフに手動で進捗を入力してもらっていましたが、膨大な時間がかかっていました。効率を考え、無駄な手入力作業はやめる方針で改善を図りました。
作業者は日々パソコンの前で作業をしており、その作業内容は全てデータベースに記録されています。このデータベースを活用し、進捗状況を整理して見やすくするだけで十分でした。現在では、スプレッドシートを使用する理由も、見やすさを重視しているためです。データベース上の情報をスプレッドシートにコピペするだけで、見やすい進捗表が自動的に生成されます。
さらに、進捗表の更新は制作スタッフではなく、総務事務のスタッフが行っています。その結果、制作スタッフはこの更新作業に時間を取られることなく、アニメーターやディレクターとクオリティについて話し合うなど、よりクリエイティブな時間に集中できるようになりました。
いちいち制作スタッフに進捗について確認する必要もなく、この進捗表やデータベースを見るだけで状況が分かります。「ここで何がつまずいているの?」といった具体的な問題について、シートをもとに効率よく話し合える環境が整っています。
予実管理表
続いて、「予実管理表」についてお話しします。この表は主に経営に関わる部分で、予算と実績を管理するためのものです。
「予実管理表」は、データベースと連携して、誰が何をどのくらいの時間で行ったかを記録し、その作業がどれだけのコストに相当するかを自動的に計算する仕組みになっています。サンジゲンでは全社員が正社員として雇用されており、全員の給料データがデータベースに登録されています。そのため、各作業者の1時間、30分といった作業時間が、個別の時給や給料に基づいて自動的に金額として換算されます。
これにより、どの作業にいくらのコストがかかっているのかを、リアルタイムで把握できるようになっています。例えば、「この作業でコストが少し高くなりすぎているのではないか」といった確認ができるわけです。私はこのデータを常に確認しながら、適正なコスト管理ができているのかチェックしています。
さらに、このシステムでは全スタッフの給料を「原価」として計算し、そこから税務署への報告に使用できる根拠資料としても活用しています。データベースで一元的に管理されているため、何の作業にどれだけの費用が割り当てられたのかを正確に示すことが可能になっています。
手持ち状況表
ちなみに、データベースについてもう少し紹介すると、「手持ち状況表」ではリアルタイムで「誰が何の作業をしているのか」「誰の手が空いているのか」「どの作業が待機状態なのか」といった情報が全てわかるようになっています。こうした仕組み自体は他の管理系ツールでもよく見られるものですが、サンジゲンではそれを参考にしつつ、自社の運用に合わせた形で取り入れました。
モデルライブラリー
サンジゲンは設立から18年になりますが、この18年間で制作したモデルデータは約15,000から20,000弱ほどの点数に上ります。以前はこれらのデータを単にハードディスクに保存しているだけでしたが、現在はデータベースに全て移行し、タグ付けを行いました。この作業だけでも半年ほどかかりました。
まとめ
簡単にまとめると、画像に挙げたことがメリットとなります。
さきほどのカロリー計算表を活用することで、コンテンツのコントロールが非常に容易になりました。監督にとってはカットの削減や内容の調整など、ストレスがかかる部分もあるかもしれませんが、何をすべきかが明確になっています。
最近のアニメの予算が非常に高額になってきていますが、それが現場で適切に使われているのか、予算が高いことで無駄な時間を費やしていないかという将来的な不安があります。予算は常に上がり続けるわけではなく、市場を拡大すればある程度は上昇すると思いますが、いずれはその上昇も止まると考えています。そのときに、適切な時間を使って作業できているかが非常に重要です。
また、働き方改革についても取り組んでいます。タイムカードを導入し、誰が何時間働いているか、その労働時間に対して適切な評価を行っています。定められた勤務時間内でしっかりと働き、その結果が評価される仕組みを整えています。
評価基準が明確であれば、作業者の目標もはっきりと定まります。評価を高めたいと考える作業者にとって、何をすべきかが明確になります。クオリティの高いものを追求したい人は、点数的には下がるかもしれませんが、それも個人の選択次第です。サンジゲンとしては、その評価基準に沿って取り組んでいただけることが望ましいと考えています。
Q&A
Q1.コンテを書く方は、最初からこのポイントを意識しながら作業を進めているのでしょうか?
そうですね。ポイントやカロリーが見えてくると、それを意識して作業を進められるようになります。そのため、カロリー計算表には5回の見直しの機会を設けています。具体的には、素上がり、監督チェック、カッティング後、演打ち後、そして作打ち後の各段階で計算をし直しています。このプロセスを通じて、より正確な評価と調整を行っています。
Q2. クリエイターがクオリティを上げるために時間をかけたいと思うことがある一方で、納期があるという現実があります。評価シートやポイント制度の中で、クオリティと納期のバランスについてどのように考えていますか?
工数表は、過去のサンジゲンの実績から導き出されたデータに基づいて、オッケーラインに必ず乗るよう設計されています。
質問の通り、全体のうちの7割から8割のカットは、その基準で十分だと思います。ただ、それ以外の、もっと突出した「尖ったカット」や「狂気のあるカット」については、ディレクターが責任を持って行うべきだと考えています。具体的には、他の工数を削るなどして、その尖ったカットに工数を割り振ることが可能です。監督にもその調整権限を与えていますので、必要に応じて裁量を持って進められる仕組みになっています。
Q3. 表の管理は総務事務の方が担当しているとのことですが、それによって制作進行の業務負担が軽減されていると思います。その場合、制作進行の評価はどのように行われているのでしょうか?
制作進行も別形式の日報をつけており、その内容をもとに評価を行っています。制作進行にはそれぞれ責任が割り振られており、その責任を果たしていれば評価に繋がります。ただし、制作進行は間接部門にあたるため、表の数値だけで評価を行うことはしていません。
具体的には、制作開発が年間スケジュールを立て、例えば「この話数は何月から何月で終わらせてほしい」という見通しを示します。そのスケジュールに基づいて実際の進行を管理するのが制作進行の役割です。制作開発が立てた見通し通りにプロジェクトを進められているかどうかが、制作進行の評価基準となります。
このポジションは負担が大きくなる部分もありますが、プロジェクトの進行において非常に重要な役割を担っています。
Q4. カロリーや工数がキャラクターの手のモーションなどで判断されていると思いますが、例えばメカや動物、エフェクトなどの人型ではない場合の工数やカロリーはどのように算出されているのでしょうか?
今回は紹介しませんでしたが、それらも表に組み込まれています。ただし、エフェクトは種類が多岐にわたり、個別の特性も異なるため、完全に数値化して管理するのは難しい部分があります。一方で、メカについては比較的詳細に管理されています。
具体的には、キャラクターと同様にリグが組み込まれているかどうかや、その仕組みがどの程度複雑なのかによって工数が変わります。また、メカに関節があるかないかといった要素でも工数が決まる仕組みになっています。これも過去のデータをもとに分析し、一定の基準を設けています。一方で、関節ごとの詳細な工数までは深く掘り下げておらず、もう少しライトな管理になっています。
Q5. モデラーとしてモデルを制作する際、どれくらいの工数がかかるのかを想定して作業を進める必要があると感じています。アニメーターの作業について具体的なポイントの基準が示されていましたが、モデリングの場合はどうしているのか、何かポイントがあれば教えていただけますか?
できれば私も教えたいです。正直に申し上げると、5年ほど取り組んできましたが、まだ明確な基準を見つけられていません。サンジゲンで使用した過去のあらゆる設定画を引っ張り出し、それぞれの要素を洗い出しながら分析を進めています。これまでに作られたモデルの工数データがあるので、それをもとに「この要素にはどれくらい時間がかかるのか」を見極めようとしている段階です。
例えば、髪の毛のモデリングだけを担当する場合などがありますが、これについても工数を正確に算出するのが非常に難しく、複雑すぎてまだ解決できていない部分もあります。
ただし、過去のデータからは「どれにどれくらいの工数がかかったか」という数値は出ています。しかし、それをもとにした明確な基準はまだ完成しておらず、引き続き取り組んでいきたいと考えています。