あにつく2022レポート | 『テイルズ オブ ルミナリア The Fateful Crossroad』におけるCG空間を活用したアクションシーンの構築と作画アニメーションとの融合(アニマ)

9月23日(木)から9月25日(日)で開催された「あにつく2022オンライン」より、Day1の「『テイルズ オブ ルミナリア The Fateful Crossroad』におけるCG空間を活用したアクションシーンの構築と作画アニメーションとの融合」のイベント内容をご紹介します。


ウェビナー概要

『テイルズ オブ ルミナリア The Fateful Crossroad』におけるCG空間を活用したアクションシーンの構築と作画アニメーションとの融合

「テイルズ オブ ルミナリア The Fateful Crossroad」において5分間の殺陣のアニメーションを作成するためにアニマがおこなった作業について紹介いたします。
モーションキャプチャーの撮影から3DCGの背景作成、キャラクターのセットアップを解説し、殺陣の中にあるキャラクターの感情表現を作り出すためのフェイシャル作業等、実演を入れながら説明いたします。
作品の要所ごとに作画素材とCG素材を合わせる等、本作独自の制作ラインを紹介しますのでぜひご覧ください。

 主催 :株式会社Too
 協賛 :オートデスク株式会社
 後援 :CG-ARTS
 講師 :株式会社アニマ 吉永 裕志 氏
     株式会社アニマ 三輪 寛大 氏


登壇者プロフィール

セミナーの内容に入る前に、私たち二人のプロフィールを紹介します。

1人目は、プロデューサーの吉永 裕志です。金沢工業大学の電子工学科を卒業して、アニメを専門的に学ぶことなくアニメの作画の制作会社に就職しました。その会社で9年間ほど制作進行や制作デスク、3D制作などの業務をこなして、2016年に株式会社アニマに入社しました。

入社後はCGの世界に飛び込み、さまざまな制作業務に携わりました。現在はプロデューサーとして作品に関わっています。

2人目は、アニメーションスーパーバイザーの三輪 寛大です。アニマ入社前は、トライデントコンピュータ専門学校でCGを学びました。アニマと専門学校の間でセミナーなどの繋がりがあり、アニメーターとしてアニマに入社しました。

作品としては、遊技機のムービーやゲームのPVなどに関わっています。最近は、長編と呼べる作品にも関わるようになりました。今回の題材『テイルズ オブ ルミナリア(以下ルミナリア)』では、アニメーションスーパーバイザーを務めています。

株式会社アニマについて

簡単に、株式会社アニマについて紹介します。アニマという会社名は、「アニメーション」の語源であるラテン語から取っています。

アニマが目指すところは、「『映画』を制作できる会社」です。そのため、1時間を超える作品やシリーズものの作品にチャレンジするために制作体制を整えています。また、ジャンルを問わずにさまざまなことにチャンレンジし、日々自分たちの技術を磨いています。

ルミナリアの制作は「神風動画」様と共同で行い、弊社は主にCGの制作を行いました。本セミナーでは、弊社側の作業で使用した技術を画像と共に説明します。

CG制作の作業工程

まずは、CG作業工程の流れを簡単に説明します。

一番最初に「pre-prodution(プリプロダクション)」を行います。pre-productionは、シナリオやキャラクターの設定など、CGを作るうえで必要な参考資料を準備するパートです。

その後「model rig(モデル リグ)」を経て、「animation(アニメーション)」というキャラクターや物を動かすパートに入ります。ルミナリアの工程では、CGだけではなく「作画」も併用しています。その後、CGとセルの素材をまとめる「composite(撮影)」の作業に入ります。

pre-prodution(プリプロダクション)

それぞれの工程を細かく説明します。まずは、pre-produtionについてです。

pre-produtionは、大きく「シナリオ」と「設定」、「絵コンテ」に分かれます。シナリオは物語を作り、シリーズ構成を整えていく工程です。その後、1話から最終話までのそれぞれの話数で起こる各話シナリオを詰めていきます。

各話シナリオが決まった段階で、キャラクターデザインなどの「設定」を決めていきます。キャラクターデザインを決める際に、シナリオに合わせた背景デザインや、武器や車などの小物デザインも発注します。設定を整えた後、「絵コンテ」に入っていきます。

model rig(モデル リグ)

ルミナリアのアクションシーンは、背景も含めて全てフル3Dです。また、作成した背景や舞台のサイズに合わせて、アクションを決めることもあります。

3D背景を作った後、キャラクターを動かします。キャラクターの作成後にリグを仕込み、それぞれの写真の右側にあるコントローラーで動きを付けていきます。

animation(アニメーション)

model rigの後は、animationです。アニマの特徴は、モーションキャプチャを多く使うことです。そのため、社内には1枚目の写真にあるモーションキャプチャルームを設けています。

アニマでは、モーションキャプチャの動きを3Dのキャラクターに流し込み、その動きに合わせてカメラの配置を決めるかたちでレイアウト作業をしています。カメラの配置が決まった後はボディの作業です。ボディではカメラでの見栄えを確認し、手の位置などを固定していきます。その後、フェイシャル・クロスの作業です。フェイシャルで表情を整え、クロスでスカートなどの「揺れもの」のモーションを整えています。

ここからは、動画のスクリーンショットで説明していきます。

こちらがレイアウトの工程です。仮のモデルと背景でカメラの配置を決めています。

こちらが、足の動きなどをキャラクターに流し込んで動かすボディ映像です。

こちらは、フェイシャル・クロス映像です。キャラクターの表情や着ているローブ、スカート、髪の動きなどの揺れものを作っています。

そして、これがコンポジット映像です。ルミナリアでは3Dによるコンポジット作業を行なったうえで、撮影の工程も挟んでいます。画像は、CG側で構築しているコンポジット映像です。

composite(撮影)

animationを決めた後は、composite(撮影)です。本作では作画のモブキャラクターが出てくるため、CGでアタリを置いたあとに撮影してCGとセル素材をまとめています。その後、背景とライティングを追加して動画制作は完了です。

ここからは、さきほどと違うシーンのスクリーンショットで説明していきます。

レイアウトでは、3Dデータでキャラクターを置いています。この段階では、モーションキャプチャの動きをそのまま使っています。

それからカメラを決めて、画像のようにボディを付けていきます。CGでキャラクターの動きを決めて、原画マンに作画を依頼します。

その後は、表情や口の動きなどを整えるフェイシャル・クロスの工程です。キャラクターがゆっくり食べている、説明を受けているなどの動きと演技を意識して作成しています。

こちらが、3Dのコンポジット映像です。この時点で背景は3Dのままですが、キャラクターの動きはほとんど完成しています。

作画×CG

作画とCGの絡みについて説明します。画像の一番上は、正体を隠すためにキャラクターがローブを羽織っているシーンです。ここでは、CGキャラクターの上から作画でローブを書き足しています。

画像の2段目と3段目は、エフェクトを合わせている例です。本作のエフェクトは作画で起こしていて、戦闘シーンなどではCGに合わせて作成しています。1秒24フレームを2コマ打ちでやっているため、1秒間ごとに12枚作成しています。

ここからは、アクションシーンのスクリーンショットを見ていきます。

レイアウトでは3Dでキャラクターを配置します。モーションキャプチャの動きはそのまま使っています。

レイアウトの動きをCGで調整し、ボディで動かします。このシーンについては、アニメーション作業紹介の項目でより詳しく説明します。

ここで大変だった部分は、音声作業です。通常であれば音声のタイミングを知らせる「ボールド」を置いて収録するアフレコやダビングを、アクションシーンではそのまま3D映像で行いました。よりライブ感を演出するため、息遣いなども入れてもらいました。このように、アニマで制作するアクションシーンはライブ感を大事にすることが多いです。

アニメーション作業紹介

ここからは、CGデータを使って説明していきます。さきほどのスクリーンショットでも登場した、主人公の2人のレオとユーゴの戦闘シーンです。アニマの制作フローではモーションキャプチャのデータを使うことが多いため、画像のようにMotionBuilderで編集しています。

MotionBuilderは、操作が軽く確認しやすいため、重宝しているソフトです。

アニマでは、以前からMotionBuilderを使ってレイアウトを作っています。上の画像は、キャプチャデータを使いながらカメラの配置を決めていくレイアウトの工程です。まだボディは詰め切れていない状態のため、モーションアクターの方の動きをそのままCGキャラクターに流し込んでいます。

しかし、モーションキャプチャのデータをそのまま使ってしまうと、作画のアクションと比べて面白みやダイナミックさに欠けることがあります。その対処法として、3D空間上でわざとキャラクターを滑らせるなどの「嘘」をつくことがあります。もちろん、カメラに映っていないことが大前提です。

CGでは、リアルすぎるからこそ迫力やケレン味が足りないことがあります。本作でも、身体が地面に押し付けられるシーンであえてキャラクターを地面の上で滑らせることで、背景が大きく動くダイナミックな映像を作っています。

嘘をつくことも、3Dで映像を作ることの醍醐味の1つだと思っています。カメラを大きく動かす、地面を動かすなど、迫力のためにあらゆる手段が取れることもCG特有の強みです。

アクション重視の作品であれば、モーションアクターの方もアクションができる方を呼んでいます。現場では、絵コンテ段階の動きに対してアクターの方からアドバイスをもらうこともあります。そうやって現場でアイデアが詰め込まれていくことも多いです。

MAYAでの作業

レイアウト段階では、身体に足が埋まっていて、揺れものも付いていない状態です。そのデータの最終的な詰め作業を行うために、MAYAに移して作業を進めていきます。

画像は、MAYA上の最終工程データです。フェイシャルやクロス、揺れものなどが全て付いています。MotionBuilderでは再生しながら確認できますが、MAYAではリグが複雑になるため、リアルタイムで再生しながら確認はすることは困難です。

そのため、キーポイントになるフレームを確認しながら動きを詰めていきます。

画像の右側のように、カメラに映っていないところは埋まっていることが多いです。このように、優先的に整えるべきカットに時間を割いて作業をしています。

また、3Dの悩みの1つにデータの重さがあります。対処法として、先んじて準備段階で仕込むリグやキャラクターに付ける動きを詰めてから作業に入っています。設計段階で「やりたいこと」と「実際にやれること」を精査することが、CG制作過程ではとても重要です。

フェイシャル・クロス

こちらはレオがレストランで食事をしているシーンです。

キャプチャデータをそのまま使うだけでは、リアルすぎる滑らかな動き、いわゆる「嫌なCGらしさ」が目立ってしまいます。そのため、最初に先行のカットを使ってテストして、動きをチェックしています。

このカットでも、先行カットでフェイシャルの動きをテストしています。表情を見せるために口の周りに影のオブジェクトを置くなど、表現の仕方においてさまざまなテストをしています。

テイルズシリーズでよくある「食事シーン」は本作でも重要視されているため、原作に出てくる「山盛りのマーボーカレーを食べている主人公」をシナリオに沿って演出しています。リアルの人間ではないため、口の中に物を入れて喉を通るという表現や食べている時の頬の膨らみなど、違和感なく見せるために調整しています。

画像右側のビューポートには大量のコントローラーがありますが、それぞれを直接選択するのは大変なため、画像真ん中にあるフェイシャル専用のピッカーを用意しています。

弊社でセルルックも担当する場合は、リグとブレンドシェイプの両方を用意することが多いです。本作でも、基本的にはブレンドシェイプで顔の動きを付けて、リグを使ってさらに誇張しています。

クロス(揺れもの)

こちらは最初のスクリーンショットにあったアレクサンドラとリュシアンの戦闘シーンです。それぞれにマントとスカートという揺れものがあるため、動き方やシルエットの見せ方に合わせてカメラの配置を調整しています。デザイン的に条件が縛られた中で、やりたいことをやるためにいろいろと試行錯誤しながら組み立てたシーンです。

モーションキャプチャ

アニマのアクションシーンではライブ感を大事にしていて、その場にカメラを置いて撮影しても問題ないような迫力でモーションキャプチャ撮影に取り組んでいます。画像は、さきほどのレオとユーゴの戦闘シーンのモーションキャプチャの一部です。

人間の動きでは無茶なコンテなどもあったため、安全に配慮しながら取り組んでもらいました。怪我しないように安全さを保つため、専門家の力もお借りしました。CG技術だけではなく、他ジャンルの専門家の力も借りながら本作の制作を進めていきました。

アニマのこれからの取り組み

アニマでは、これからもCGを中心としたアニメーション制作に全力で取り組んでいきたいと考えています。本作でもアクターの方や作画スタッフの力を借りて制作していたため、これらのノウハウを活かして次の作品に臨んでいきたいです。

今後の大きな目標は、長編シリーズへの挑戦です。シリーズの1話から13話まで作れる制作体制も含めて準備しています。

Q&A

Q1. 現在、映像制作に関係ない大学に通っていますが、アニメ会社に就職したいと考えています。あと半年で卒業なのですが、半年間で上達のためにできることはありますか?

アニメーターになる人材には、専門的なCGの知識が求められます。現在ではYouTubeなどでもCGを学ぶことができるため、そういったものも活用していくべきだと思います。できるのであれば、自分の作った作品をCG会社に提示することがアニメーターになる近道です。プロが教えてくれるセミナーなどに行くことも、作品を残すための有効的な手段だと思います。

しかし、当然アニメ会社で働くのはアニメーターだけではありません。そのため、本当にアニメーターになりたいのか、それともポジションを問わずにアニメ業界で働きたいのか、一度考えてみてください。それによっても、当然準備が変わります。前提として、CG以外のアプローチもあるということも覚えておいてください。

Q2. 作画とCGの組み合わせで、ローブやモブなどをCGで作らないのはなぜなのでしょうか。

これに関しては、CGの弱点が関係しています。作画の場合は上から書けば動きも表現できますが、CGだとローブを作るだけでも揺れやパーツの外しなどの工数が膨大に増えてしまいます。CGでそのポイントに力を入れるべきなのか、アクションシーンに力を入れるべきなのかという選択で、ローブなどは作画に作業してもらうことになりました。

その代わりに、他のアクションシーンはフルCGで作ることにしました。CG側と作画側のそれぞれの時間と工数を鑑みて、作業内容の線引きをしてメリハリをつけました。揺れものはCGだとリアルすぎるため作画で表現するなど、表現方法に合わせて作業を分担させていきました。

Q3. 食事シーンをフルコマで制作した理由を教えてください。

全ての食事シーンをフルコマで制作したわけではありません。カットによって、フルコマと2コマ打ちを変えていました。キャプチャデータを扱う弊社では、全てが2Dの作画作品と比べると、ベースとなる動きの情報量が多いです。作品の特性によって、そのデータをどこまで使って、どこまで削るかを考える必要があります。

本作はキャラクターの等身も高く、デフォルメキャラクターではありませんでした。そのため、モーションキャプチャの動きをベースとして、コマを抜くカットと抜かないカットを選びました。中には、作画に合わせるためにコマを抜いたカットもありました。しかし、2コマ打ちだと画面がカクついてしまったり、エラーに見えてしまうことがありました。それらをエラーや技術の劣化に見せないために、思い切ってフルコマにしたシーンもありました。

Q4. 作画とCGが混在するシーンにおいて、難しかった点や工夫した点を教えてください。

CGがフルコマで動いているシーンに、作画とCGの混在の難しさがありました。フルコマのCGシーンで作画でローブを描く際、原画マンに200枚以上描いてもらったこともありました。

作品によっては、メインが作画でCGがサブの場合があります。その場合はCG側が作画に合わせて動きを決めるため、スムーズな作品作りのために最初に手順を決めるようにしています。

Q5. 全体の制作期間はどのくらいかかりましたか?

企画・シナリオ段階のpre-produtionから起算すると、1年半から2年くらいです。制作期間だけで考えると、約1年ぐらいになります。また、主にアニメーターチームが動いてた期間は6〜7ヶ月くらいでした。

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