9月23日(木)から9月25日(日)で開催された「あにつく2022オンライン」より、Day3の「進化するオレンジのアニメーション」のイベント内容をご紹介します。
ウェビナー概要
進化するオレンジのアニメーション
2017年の「宝石の国」から2023年の「TRIGUNSTAMPEDE」まで6年。BEASTARS、ゴジラS.Pなど、オレンジの技術の積み重ねと目指すものを紹介させていただきます。
主催 :株式会社Too
協賛 :オートデスク株式会社
講師 :有限会社オレンジ 和氣 澄賢 氏
有限会社オレンジ 渡邊 喜洋 氏
有限会社オレンジ 半澤 優樹 氏
会社紹介:オレンジとは
まずは有限会社オレンジ(以下、オレンジ)について説明します。オレンジは、2004年に設立されたCGのアニメーション会社です。主にテレビシリーズや劇場作品のCGパートを制作しています。
設立から13年経った2017年からは、元請としてオレンジだけで作品制作をしています。作品としては『宝石の国』や『BEASTARS』、『アイドリッシュセブンMV』、『ゴジラS.P』、そして2023年放送予定の『TRIGUN STAMPEDE』などがあります。
従業員数は2022年度入社の社員を含めて140人です。宝石の国を制作した2017年は60〜70人だったため、5年で約2倍の規模になりました。最近は一年に20名ほど採用していて、特に若い人が多く入社しています。若いエネルギーで盛り上がっている会社です。
アニメーターは80人前後でモデラーが30~40人、その他はエフェクトチームと制作、制作事務が在籍しています。
オレンジを一言で表現すると、「作品と共に成長するスタジオ」です。作品ごとにチャレンジする目標を掲げ、次の作品に繋がることを目指して日々作品を制作しています。
「宝石の国」 – 表情の表現への挑戦 –
最初は「表情の表現への挑戦」です。2017年に放送された宝石の国をもとに説明します。
宝石の国では、CGアニメーションでテレビシリーズを作るにはどうすべきか考えながら制作に取りかかりました。漫画原作の作品をどのように3DCGの映像に落とし込むかということを考えて制作しました。
宝石の国の制作で一番大事なこととして、視聴者に感情移入してもらうことを目標にしていました。そういった点から、CGアニメーションでキャラクターにどのように芝居をさせるのかを大事なポイントとしていました。
こちらはテスト映像のスクリーンショットです。髪の毛の表現なども、宝石の硬質感を表現しながら髪の毛に見えるようにバランスを考えて制作しました。髪の毛の質感を決めるだけでも、約8ヶ月という時間を費やしました。
宝石という人間の形をしているが人間ではないキャラクターへの感情移入で、「キャラ表現(非人間)」の経験を積むことができました。
「そばへ」 – 流体表現への挑戦 –
次に「流体表現への挑戦」です。「そばへ」という作品をもとに説明していきます。
丸井グループの企業CMとして作られた短編アニメーションです。監督は『ミライのミライ』の助監督や、テレビシリーズで放送していた『86ーエイティシックスー』の監督を務めた石井俊匡監督です。
画像を見てもらえれば分かる通り、流体表現は日常にある流体の表現の1つの「雨」です。本作品は、シンプルに登場キャラクターは4人だけです。宝石の国で培ったキャラ表現を活かしつつ、雨の流体表現やエフェクトも1つの芝居として捉えて制作しました。
アニメーション制作では、「いかにデフォルメするか」と「デフォルメした先に何を伝えるのか」が大切です。特にその辺の芝居付けを各スタッフが大事にしていました。
本作品の制作を通して、オレンジに「流体表現」の経験が追加されました。
「そばへ」はYouTubeでも見ることができます。興味がある方はぜひご覧ください。
「アイドリッシュセブン」 – 衣類の表現への挑戦 –
次の挑戦は、「衣類の表現への挑戦」です。これは「アイドリッシュセブン」という作品での挑戦でした。
アプリゲームでも人気のあるアイドリッシュセブンのミュージックビデオをオレンジで制作しました。アイドル作品のためさまざまな衣装を制作しましたが、キャラクターの衣装替えとしてワイシャツを採用しました。ワイシャツでのダンスの動きや光の透けなどの表現を1つのポイントとして制作しました。
本作品では『Marvelous Designer』というソフトを使い、ダンスやモーションキャプチャーに合わせてワイシャツも動く、光で透けるというシミュレーションをしました。しかし、リアルなルックだとセルルックのキャラクターの見た目と差が出てしまうため、衣装のルックを少しセル寄りにしながらリアルな質感も残すというところを意識して衣類の表現を追求しました。
透けなどがあって表現が困難なワイシャツにした理由には、ディレクターの好みや制作側のこだわりがありました。原作の衣装をメイン衣装にしている中で、ミュージックビデオでの衣装替え用の衣装をオレンジから提案してクライアント側からOKをもらうことができました。
制作当初は、Marvelous Designerでワイシャツを作るだけでも試行錯誤を繰り返しました。Marvelous DesignerはCG上で衣服を作るためのソフトですが、アニメーション制作でも応用するために活用していました。
本作品で、3つ目の経験の「衣類の表現」が追加されました。
本編の一部は、YouTubeでも見ることができます。
「BEASTARS」- 毛&表情の表現への挑戦 –
次の挑戦は、「毛&表情の表現への挑戦」です。題材となるのは、2019年に放送された「BEASTARS」です。本作品は漫画原作のアニメ化です。
毛の表現は他作品でも少しありましたが、比較的避けてきた表現でした。宝石の国の制作時は、髪の毛の表現が分かりやすい「シンシャ」という髪の長いキャラクターでヘアーのシミュレーションができないか検証していました。しかしながら、結果としてシミュレーションはうまくいきませんでした。そのため、宝石の国ではヘアーのシミュレーションを使わずにポリゴンの状態で宝石の質感を表現することになったため、「宝石の国では髪の毛の表現ができなかった。」という思いがありました。
そういう意味では、BEASTARSでは毛の表現に挑戦する機会をもらえました。
BEASTARSでは画像のように、まず作画でキャラクター設定を起こし、その後に色が付いている3DCGモデルを作成しました。
毛の表現では、画像のように影でどこまで毛の表現ができるか特に注意して制作しました。
BEASTARSは登場する全キャラクターが体毛のある動物のため、人間と違って影付けでも毛を表現をしなければいけませんでした。全身に毛を生やしすぎると立体が崩れてしまうため、全キャラクター共通で部分的に毛を入れることで対応しました。
画像のようにヘアーファームで数種類の毛の質感をテストしました。
画像のように毛を生やし過ぎると、シルエットは出る代わりに無駄が多くなってしまいます。あくまでキャラクターは省略表現ということを意識して、毛の量を減らしながらもシルエットも出せるというバランスを取ることを毛の表現として取り組んでいました。
そのため、手の毛に関しても動物だから大量に生やすのではなく、画像のように毛深い人よりも少し毛を減らした程度で仕上げました。ポリゴンでの毛の制作やヘアーの埋め込みなど、カット毎に毛の表現を変えることでさまざまな手法を使っていました。
BEASTARSでは表情の表現のために、フェイシャルキャプチャーを導入しました。オレンジで使っているフェイシャルキャプチャーは、機材を頭にかぶって自分自身の顔のパーツを認識させるシステムです。また、BEASTARSはフェイシャルキャプチャーを初めてテストした作品でもあります。キャプチャーするだけではなく、表情の捉え方や理念、筋の表情なども考えながら使用していました。
宝石の国では卵型のフォルムのキャラクターが多かったため、描きで表現できる表情変化が多くありました。そこで「立体的な骨格でも表情を付けられる会社になりたい」という思いが芽生え、その思いをBEASTARSの立体的なキャラクターに注ぐことができました。
画像は、実際にフェイシャルキャプチャーをしている様子です。左上に写っているのは、オレンジのベテランアニメーター都田氏の収録風景です。画像を見ると、表情を大きく動かしている様子が確認できます。大きく動かさないとソフトも認識してくれないため、少し大げさに演技しています。
BEASTARS1期では、約40体いるキャラクター全てのモーションキャプチャーを都田氏が担当しました。慣れていない最初のうちは、毎日顔が筋肉痛で大変だったと聞いています。完成した映像では、アニメーターがフェイシャルキャプチャーのデータを合わせて演技させていました。
本作品では、「毛の表現、表情の表現」が経験として積みあがりました。
「ゴジラ シンギュラポイント」 – 巨大物の表現への挑戦 –
次に紹介するのは、『ゴジラ シンギュラポイント』という作品です。
ゴジラは、東宝スタジオの実写映像なども含めてさまざまな形で映像化されています。ゴジラ シンギュラポイントは株式会社ボンズ様との共同制作で、オレンジはクリーチャーとメカのCG表現を担当していました。
今回の挑戦は、「巨大物の表現への挑戦」です。
昔から「メカは、オレンジの得意分野」とも言われておりまして、さまざまなメカをCGで表現してきました。メカの経験の延長線上として本作での巨大物の芝居があり、怪獣の質感も画像のように仕上げました。
コンセプトアート担当の方が着彩したものをベースにモデリングして、質感の足し方に試行錯誤しながら作りました。上の画像は、Substanceで質感を付けている様子です。質感を付ける時は、参考のために小さな動物の標本や鰐革の質感などの多くの資料を集めていました。画像にあるラドンは、実際の鳥の爪の構造を参考にしていました。
次に、巨大物のアニメーションの動きの表現です。
アニメーションは全てポリゴンで作り切ってしまうと大変になります。そのため、いわゆる「質感」で逃げるポイントを作って巨大物を表現するというところをゴジラシンギュラポイントの制作で大事にしていました。
また、ただリアルな質感にするだけではなくて、輪郭の表現も含めて作画のキャラクターとなじませるという工夫もしていました。
本作品で「巨大物の表現」の経験が積み上がりました。
「HOME」 – 立体空間の表現への挑戦 –
次は、「立体空間の表現への挑戦」です。HOMEという、オレンジオリジナルのショート作品での挑戦でした。
HOMEは、人材育成のための『あにめたまご』という企画の1つとして制作されました。オレンジでアニメーターやモデラーの育成ができるのかだけでなく、監督や脚本家の育成などについても考えながら作った作品です。
本作品では、オレンジの社長の井野元英二氏がノータッチという特徴がありました。井野元社長はオレンジの多くの作品に関わっていますが、HOMEに関しては「井野元社長がいない状態でどこまでできるのか」という挑戦でもありました。
HOMEでの挑戦は立体空間、いわゆる背景です。オレンジで作る背景は全てが描きだったため、HOMEではCG空間を作る手法の1つとして「Unity」で3DBGを作成する挑戦をしました。画像は、CGで作成したカットの背景です。
このカットで使用しただけですが、1つの挑戦を積み重ねることができました。
HOMEでは、「立体的な背景の表現」の経験が積み上がりました。
HOMEもYouTubeで閲覧できるため、ぜひこちらも見てみてください。
進化するアニメーション
今回紹介したそれぞれの作品での経験は、これから作る作品に活かすことでアニメーションを進化させることができます。しかし、積み重ねた経験をこれからの作品で全て使えるわけではありません。画像のように、作品で得た経験を作品ごとに使い分けることで、段階的に作品のクオリティを上げることができます。
知識や経験を積み上げていくために会社としてやるべきことは、1つずつ目標を持つことです。「今回できたから次回作にもこれを取り入れてみよう。」、または「今回できなかったから次回作はこれをやろう。」という姿勢を常に持つことを意識しています。こういった挑戦をできる点が、CGアニメ―ション制作の、特にオレンジの面白いところだと思います。
オレンジにもスタッフが増えてきたため、会社の体制構築に力を入れる段階に来ています。作品制作のための技術の向上と合わせて、並行して会社も成長していっています。
では、それらの積み重ねた経験が反映された1つの映像を、ご覧ください。
「TRIGUN STAMPEDE」
最後に、「TRIGUN STAMPEDE」という作品について、簡単に紹介していきます。漫画が原作で、今までに何度かアニメ化されている作品です。今までのテレビシリーズと劇場版は、株式会社マッドハウス様で制作されていました。
この度、2023年に放送されるTVアニメシリーズを、オレンジで作ることになりました。本作品は、本セミナーで紹介した全ての経験を駆使して制作しています。本作品において一番大事にしている点は、人間の表情の作り込みです。いかにして視聴者に感情を伝えるか、そして楽しめるか、それらを意識して制作に取り組んでいます。
これまでオレンジは約18年間、「できないことを出来るようにする」を目標に掲げて、作品制作に取り組んでいました。TRIGUN STAMPEDEを1つの新しいスタートラインとして、次回作に繋げてさらに進化していくことを課題に、日々精進しています。
Q&A
Q1.フェイシャルキャプチャーに使用しているソフトは何ですか?
使っているソフトは『Dynamixyz(ダイナミクシーズ)』です。また、モーションキャプチャーには『MVN』を使ってます。Dynamixyzは顔にセンサーを付けるタイプではなく、カメラでキャプチャーしたデータをモデルに反映するものです。ヘルメットのような装置を被り、カメラで顔の目などのパーツをデータ上で認識させるシステムです。
都田氏の話によると、Dynamixyzは反復使用によって1人の人間の顔を認識して学習していくそうです。使用者が変わると設定し直さないといけないため、精度を上げるために使用者を1人に決めて行うとより効率的です。
Q2.私はアニメーターになりたいと思っています。卒業までの半年で技術上達のためにできることはありますか?
応募書類やポートフォリオを見ていて気になることの1つに、アクションシーンの比率が多さがあります。どういったジャンルの作品でも、ストーリーの大部分は日常芝居や感情的な芝居です。そのため、ポートフォリオのチェックする際には自然な日常芝居や感動的な芝居を重要視しています。自分の喋っている映像を撮ってそれを再現するなど、日常的に無意識でやってることをCGでも違和感なく見れるか、再現できるかということを意識してほしいです。
また、オレンジで使用しているCGソフトは「3ds Max」です。しかし、ソフトに関しては「Maya」や「Blender」などの他のCGソフトが扱えれば何も問題ありません。
Q3.ズバリ、CGアニメの良さはどういうところですか?
日本の作画アニメには、静止画を動いているように見せる編集や頻繁なカット割りなどの特徴があります。それをCGアニメーションで表現するために、1カットあたりの尺の変更や総カット数の縮小、編集点の変更などの技術を駆使できるところがCGアニメの良さや面白いところだと思います。また、技術的に可能であれば予算や時間などの制限も取り払えるのがCGアニメの良さの1つです。
CGには作画とは違う制限もあるため、それを逆手にとった手法を演出やCGディレクターが生み出せていけるとより面白くなると思います。技術を熟知したうえでの発想が求められるため、CGデザイナーやCGクリエイター出身で演出や監督を目指す人達がもっと増えていくと、オレンジの作品だけではなく日本全体のCGアニメが変わっていくと考えています。