Vol.1 開発者としても、経営者としても 仕事で使うパソコンはMac一択!
Mac User's Interview
エンジニアはなぜMacを選ぶのか。
エンタープライズiOS事業を展開する株式会社フィードテイラー。代表取締役である大石 裕一氏はiPhoneがこの世に登場する前から、長年Macを業務に活用しています。開発者、そして経営者として、なぜMacを選ぶのか。その理由を伺いました。
目次
プロフィール
株式会社フィードテイラー
代表取締役 大石 裕一 氏
大阪府立大学(現大阪公立大学)工学部を卒業後、IT企業を転々として、Win/Mac/Linuxのソフトウェア開発、携帯電話開発、ネットワーク設計構築、マネジメントなどを経験。2004年に元同僚と国産初のMac OS X(現macOS)用3ペイン型RSSリーダー「Ensemble」を開発。その後独学でWebシステム開発を始め、2006年にフィードテイラーを設立。
Webシステム開発にMacを選んだ理由
フィードテイラーという会社について簡単に説明いただけますか?
弊社は2006年創業以来、iOS分野に関連した事業に携わり、2010年からはエンタープライズiOSに特化したアプリ開発や導入、運用支援などを行っています。また、最近は業務用iOSの知見がエンジニア界隈、特に開発者界隈に広がっていないことを問題に感じ、オウンドメディア「エンタープライズiOS研究所」を立ち上げ、開発者視点でエンタープライズ固有のアプリのディストリビューションやデプロイメント等に関する情報発信、そして開発会社向けの研修プログラム「業務用iOS開発支援プログラム」をサービス提供しています。
エンタープライズiOS事業のほかに、Web事業も展開されていますよね。
Web事業としては「Webサイトを高速化したい」「セキュリティが心配」といったWordPressサイトのさまざまな課題を静的化技術によって解決する「espar」や、ドメインやDNSレコードの管理代行サービス「espar dns」、PHPが不要な問い合わせフォームツール「espar form」などを提供しています。
今も大石さんご自身で開発業務をされているのですか?
現在は、弊社のエンジニアやパートナーにほとんどの開発業務を任せています。
私はオウンドメディア「エンタープライズiOS研究所」で情報発信するための技術検証のためにコードを書く程度です。たとえば、法人向けアプリ開発をするうえで重要となる「MDM」と連携するSwiftの検証用コードを書いたりしています。また、普段の業務を自動化するためのプログラムをPythonやシェルスクリプトで作ったりもします。
エンタープライズiOS事業に携わっているので、昔からMacユーザだったのでしょうか?
2006年にWebシステム開発会社を創業したのですが、Macユーザになったのは2005年からです。それまでは、MS-DOSの時代から長い間Windowsユーザでした。元同僚から誘われてMac向けのフリーソフトを一緒に作ったのがきっかけで、ちょうどTiger(Mac OS X v10.4)の頃にMacに切り替えたんです。
それからMacを使って独学でWebの勉強を始めたところ、Webシステム開発との相性がよいことに気づき、それ以来ずっとMacを使っています。
「MacとWebシステム開発の相性がよい」とはどういうことですか?
Webシステム開発にはサーバサイドのプログラミングも必要となり、サーバそのものの管理メンテナンスオペレーションが発生します。基本的にサーバはLinuxで動いているので、同じUNIX系統のmacOSと相性がよいのです。
厳密にはLinuxとUNIXは同じではありませんが、Macを使えば標準搭載されている「ターミナル」アプリを使ってLinuxと共通のコマンドを扱えます。ですから、普段のちょっとした知見の蓄積がサーバオペレーションする際にも活きてきますし、ちょっとした処理をターミナルを使ってすぐに手元で行うことができます。そのため、Webシステムの開発者にとってUNIXとは無縁ではいられないと感じたのが、Macを選んだ一番の理由です。
当時、WindowsでもLinuxは扱えなかったのですか?
Windowsでも「cygwin」などを使えばUNIX系OSの実行環境を作れましたが、デフォルトでは搭載されておらず、わざわざインストールする必要がありました。すでに当時はMacを使い始めていたので、その手間などを考えるとWindowsマシンを使うという選択肢はなかったですね。
また、Macと一緒にWindowsマシンも使うのは、会社が大きくなったときに管理オペレーションが複雑になると思い、Macに1本化しました。
今のエンジニアは「スマートなハードウェア」と「Python」を重視か
最近はMacを使うエンジニアがとても増えていますが、当時はどうでしたか?
Macは開発するためのマシンではなかったと思います。2006〜2008年頃は、Macで何かを作るというとデザインや写真、イラストといったクリエイティブワークがほとんどで、Macを利用するエンジニアはとても珍しかったと記憶しています。
Macはさまざまなプログラミング言語との相性はよかったものの、多くの人がそれに気づいていなかったということですか?
そうですね。当時のMacのシェアは低かったですから、そもそもMacを使ったことがないとそうした気づきに至ることはなかったと思います。
それが変わったのはやはりiPodとiPhoneの登場が大きかったのではないでしょうか。iPodが爆発的にヒットしたことで同じApple製品であるMacの注目が高まり、2007年にリリースされた初代iPhoneの登場をきっかけに、Macでアプリ開発をしてみようという人が増えていった結果が今のMacの人気と、Macを使うエンジニアの増加につながっていると思います。
最近のエンジニアがMacを選ぶ理由はどこにあると思いますか?
3年前くらいまでは、私と同じようにUNIX系OSだからという理由でMacを選んでいた人も多かったと思います。
しかし、2016年に「WSL」(Windows Subsystem for Linux)が登場し、2020年には改良版の「WSL 2」がリリースされたことでWindowsマシン上でUbuntuなどのメジャーなLinuxのディストリビューションを動かせる環境が整いました。そうなるとサーバとクライアントがLinuxとUnixといった親戚関係ではなく、完全にイコールになるのでMacを選ぶメリットは減ってきていると思います。
では、別の理由があるということですよね?
ハードウェアのデザインがいい、つまり見た目がかっこいい!というのも1つの理由だと思います。エンジニアとして仕事をするなら、スマートに持ち運べるMacを欲しいと思う若い方は多いのではないでしょうか。
また、つい最近までPythonが標準でインストールされていたのでそれも大きいと思います。今人気の人工知能系の開発や学習を行うにはほぼPython一択なので、Macだと手軽に始めることができます。PHP も Pythonも最新の macOS Monterey ではバンドルされなくなってしまったので、自分で環境構築する必要がありますが。
「iTerm 2」と「Visual Studio Code」を愛用
大石さんは、どのような言語をお使いになるのですか?
昔からPHPはよく使いますし、最近ではPythonや、GoogleのGoも使います。また、Macのターミナルで自動処理プログラムを作成するときはシェルスクリプトを用います。あとは、Swiftですね。
よく使うツールやプラグインはありますか?
Macを開発に使っている方は皆さんおっしゃると思いますが、「iTerm2」をよく使います。macOS標準の「ターミナル」よりも高機能で便利なアプリですね。あとは、Microsoftの「Visual Studio Code」も愛用しています。Pythonで自動処理プログラムを作ったり、普段の開発のメモ帳として使ったり、ありとあらゆるコードを書くシーンで使っています。
Visual Studio Codeはどんなところが気に入っていますか。
たくさんのプログラミング言語に対応していること、そしてプラグインが豊富なことですね。また、あえて1 つ付け加えるとすれば、軽量であることもメリットです。いろいろなプラグインを入れても不思議と重くならないので、日々のツールとしてはとても使いやすいです。
現在はMacのどのモデルをお使いですか?
2017年にリリースされた、27インチのiMac 5Kです。また、サブマシンとしてM1を搭載した13インチのMacBook Proを使っています。メインマシンのiMacは古くなってきたのでそろそろ買い替えたいと思っています。
M1またはM2といったAppleシリコンを使った感想はいかがですか?
従来のIntel製のCPUを搭載したMacと比べると、やはりパフォーマンスの高さに驚かされます。特に、「Xcode」でのビルド時間は劇的に短縮しました。また、それ以外も、たとえば起動が早かったり、Webブラウザを使ったりするときのサクサク感が違いますね。単価あたりのCPU性能はとてもコスパに優れていると思います。
「生産性」と「使いやすさ」もMacを選ぶ理由
御社は創業以来「Windows禁止」にされていますが、Macだけというのは採用に影響はしませんか?
創業当初は珍しかったこともあり、Macだけに絞っていたことが逆に好意を持って受け入れられていたと思います。現在は採用活動をしていないのですが、過去に応募してくださったエンジニアの皆さんはすべてMacユーザでしたね。というか、そうでなかったらそもそも面談に応じていなかったと思います。というのも、創業当時から今でもマネージメントを行う経営者視点からすると、会社で使うパソコンはMac1択だと思うからです。
なぜMacにそこまでこだわるのでしょうか?
これは自分の体験も踏まえてですが、中長期的な観点に立ったとき、従業員の生産性を落とすのがWindowsだと感じています。その理由の1つがセキュリティです。多くの会社がWindowsの環境を安く手に入れて使っているわけですが、結局のところ何かとセキュリティインシデントに見舞われていますよね。最近でいえば、マルウェア「Emotet」による感染が取り沙汰されていますが、Macであれば今のところ、全く関係ありません。ですから、Macを使うことが、まず超合理的なセキュリティインシデント回避策だと思っています。
なるほど。確かにMacはマルウェアの脅威には非常に強いプラットフォームです。従業員も、マルウェアなどを気にすることがなければ、安心して仕事に専念できます。
経営者として従業員にWindowsマシンで仕事をさせるということは、「攻撃を受けるリスクも多いけど、マルウェア防御をくぐり抜けてくる脅威や添付メールには各々気をつけてね」と言っているということだと思うんです。いったい何十年、同じことを言い続けているんでしょうか。それならば、リスクの少ない所に退避して、そこでがっつりと集中して仕事できる環境を従業員のために整えるほうが、トータルの生産性が高いと思います。
中長期的にいろいろなところに気を使わないといけないWindowsと、その必要が少ないMacを比べたときに、後者のほうが生産性が高くなるのは自明のことなので、人を束ねる人がWindowsを使え!はないと思っています。
エンジニアや開発者の方々の働き方も、長時間ずっとコンピュータに向かうのではなく、短期間での生産性が重要になってきていますよね。そうした意味でも仕事に集中できる環境が大切なんですね。
エンジニアも開発者も、だらだらと仕事せずに集中して仕事をして、ワークライフバランスを重視する働き方に変わってきています。ですから、そうした意味においては、シンプルな「使いやすさ」もMacを選ぶ理由の1つだと思います。
たとえば、OSがバージョンアップしたときにがらっと変わることの多いWindowsに対して、Macは基本的なUIや操作性は保ったまま、何が変わったかわからないけど変わっているという状態で進化します。セキュリティの件もそうですが、マネジメントの立場からすると、「使いやすさ」も従業員に余計なことを考えさせないという点でとても大事なことです。
Appleに期待する「PWA」への対応
今後のMacに期待することはありますか?
M1またはM2を搭載した27インチのiMacをリリースしてほしいですね。いろいろな業務を並行して行っていると、できる限り広い画面で、かつ最低でも2画面は欲しいので、Appleシリコンを搭載した27インチモデルの登場を待ち望んでいます。
そのほかに期待することはありますか?
開発者視点で言うと、Appleには「PWA(Progressive Web Application)」への対応をさらに推し進めて欲しいと思います。
Googleの推奨するPWAはWebサイトやWebアプリをネイティブアプリのように利用できる技術のことで、遅れを取っていたAppleもここ数年で段階的に対応を進めています。やはりネイティブアプリを開発するのはハードルが高いため、Webのテクノロジーを用いて"ほぼネイティブに見えるアプリ"を作れるようになるのはWebのデベロッパーにとって大きなメリットですし、間口を広げるという意味でもAppleプラットフォームにとって大きなことだと思います。
大石様、ありがとうございました!
記事は2022年10月17日現在の内容です。
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