企業におけるMacのTotal Economic Impact(TEI)と 日本企業への計算式の適用
Windows PCと比べるとMacは高価......というイメージを持っていませんか?
端末だけの価格を比較すると、そのような場面も多いでしょう。しかし、法人利用においては特に、製品の全使用期間においてライフサイクル全体で価値を測る「総所有コスト(TCO)」の考え方が重要です。
この記事では、企業におけるデバイス導入コストの考え方のポイントと、日本企業で実際にコスト計算した結果をお見せします。
目次
総経済効果=Total Economic Impact(TEI)を考えよう
端末の本体価格は、TCO全体の中の約40%を占めるのみであるというデータがあります。(*割合は機種や利用環境によります。)
また、端末価格を考える際には必ず 利用後の残余価値をセットで考えることも忘れてはなりません。後述のレポートによると、2年利用した時点のWindows PCの残余価値は約7%に対し、Macの残余価値は20%程度残るとされています。
残余価値とは、端末購入から数年経過し、利用を終了した後の中古端末に残る価値のことです。
Windows PCは端末によっては償却の際に費用がかかる場合もありますが、Apple製品は数年利用後の端末も、非常に高い価値を残すことが特徴です。
こうした考え方を起点に、端末にかかるコストだけではなく、オペレーションコストやリスク、リターンも含めてトータルに見た時の総経済効果をTotal Economic Impact(TEI)と呼びます。
3年間で1台あたり約840ドルも削減できる?
「The Total Economic Impact™ Of Mac In Enterprise: M1 Update(2021年7月)」から、Forrester社による海外事例やインタビューの結果を確認できます。
参考:企業におけるMacのTotal Economic Impact™ (TEI):M1チップに関する更新こちらのレポートは、Macを使用する組織10社にインタビューを実施し、コスト・利益・リスクに関するデータを収集したものです。レポート内のWindowsとMacを様々な観点で比較した数値を、分かりやすく図にしてみました。
ITサポート費用および運用コスト
調査では主に下記の点で、Macの導入によってITサポート費用および運用コストがWindows PCより削減できるとされています。
- プロビジョニングにかかる時間が短い
- サポートチケットの枚数が少ない
- サポートチケットの解決コストが安い
- IT FTE(フルタイム従業員)1人当たりが管理できる台数が多い
ハードウェアおよびソフトウェアにかかるコスト
また、Macの導入によってハードウェア・ソフトウェアの関連コストが削減あるいは回避される点も多くあります。
- 3年後の残余価値がWindows PCより高い
- Macの導入により、OSやエンドポイントセキュリティのライセンスを購入する必要がなくなった
- 年間平均のエネルギーコストがWindows PCより安い
この調査結果からモデル組織を作成し、3年間のハードウェア・ソフトウェアのサポート運用に関わる財務分析の結果もレポートには記されています。
Mac1台当たりのITサポートおよび運用にかかるコスト:634.96ドル削減
ハードウェアおよびソフトウェアのコスト:207.75ドル削減
つまり、従業員のPCをWindowsからMacに変更することで、3年間で1台あたり842.71ドルの削減が叶うという結果になりました。
リスクおよびパフォーマンス評価
端末をWindows PCからMacへ変更することで、セキュリティリスクが下がるだけでなく、従業員の定着率にも影響があるという結果も報告されています。
レポートによると、MacはWindows PCと比較して
- セキュリティインシデント数が3分の1
- データ侵害の可能性が3分の1
に抑えられています。
また、従業員の定着率や生産性も、Macの方が高いという結果もあります。
ある顧客企業は、Macによってセキュリティインシデントの発生件数が90%も減少したと述べました。また、調査対象企業の回答から、MacはWindows PCに比べてデータ侵害の可能性が50%軽減すると推定されます。
さらに、インタビューからはMacを導入した場合に従業員のパフォーマンスやエンゲージメントが向上するという結果となりました。Macを使用している従業員の定着率は20%、生産性は5%向上します。また、Macユーザー1人当たりの生産性は3年間で48時間向上します。
実際のコメントの一部抜粋です。
「相関関係から因果関係を切り離す必要がありますが、弊社にとって従業員選択プログラムが有益だということは間違いありません。Macを選択した従業員はより創造的で、営業でより大きな契約を取り、自発的に辞める割合がはるかに少ないです。従業員調査でも、全体的に高いIT満足度を示しました。」
このレポートの数値を参考にすると、
- 端末の初期設定(プロビジョニング)にかかる時間+1台あたりのサポートにかかるコスト
- 3年利用後の残存価値
- セキュリティインシデント発生率
といった項目で、Macの評価がWindows PCを上回っており、TEI(総経済効果)はMacの方が高い、と考えることができそうです。
詳細に興味がある方は、ぜひレポート原文をご確認ください。
日本企業でもMacはWindows PCよりTEIが削減されるのか?
ここからは、上記Forresterの調査を参考に、実際の国内企業でシミュレーションした計算式とそのレポートをお伝えします。
国内大手企業(A社)にて、現状Windows PCにてかかっているコストと、Macを運用した際のコストをヒアリングし、実際の数字をベースにシミュレーションしました。A社の従業員は約13,000人、そのうち1,000台のWindows PCをMacに入れ替えたものとして、2022年に弊社とA社ご担当者様で様々な試算を行ったレポートです。
※ビジネス職が使うMac・クリエイティブ職が使うMacの2パターンの想定を行いましたが、今回の内容はビジネス職でMacを選択したパターンとなります。
ITサポート及び運用にかかるコスト
まずサポート及び運用にかかるコストとして、下記のような項目を試算しました。
ざっくりまとめると、
- Windows PC及びMacを導入した際のプロビジョニング(初期設定)にかかる費用
- サポートにかかる費用
- デバイス管理にかかる費用
- リスク調整
の比較です。結果がどうなったか、見てみましょう。
大きく削減できたのは、「プロビジョニング」にかかるコストです。
Windows PCのプロビジョニングに必要な時間(=ユーザーにPCを渡すまでにかかる時間)は120分。これをMacに置き換えて「ゼロタッチ導入(※)」で初期設定を行った場合、55分まで削減できるという試算になりました。
IT管理者の平均時給から削減されるコストを1,000台分計算したところ、約46%のコスト削減に繋がりました。
※Macのゼロタッチ導入では、ネットワークに繋げるだけで事前に構築したセットアップ内容を流し込むことで管理者の操作を要さずにプロビジョニングが完了します。詳しい実行方法は動画をご覧ください。
サポートについては、Windows PCで発生している年間のサポートチケットが1台あたり1.86件。Macで発生しうる件数の算出は、Jamf Connectによる自動ログインでID問い合わせ減少が起こりうる等の要素を加味して0.9件となりました。1チケットあたりの解決にかかる時間を算出し、時給から削減分の計算を行ったところ、Macの場合はサポートにかかるコストは約16%の削減になるという試算結果でした。
ハードウェア及びソフトウェアにかかるコスト
続いて、ハードウェア及びソフトウェアにかかるコストとして、下記のような項目を試算しました。
ざっくりまとめると、
- PC1台当たりの平均コスト
- 3年後の残余価値
- その他OSなどにかかるコスト
- 年間エネルギー
の比較です。こちらも大きな削減結果が出ました。
一般的には1台あたりの平均コストはWindows PCが下回ることが多いでしょうが、Macの導入時にApple Financial Services(AFS)を利用することで、総支払費用を抑えることができます。
A社の場合は、既にMacBook Proの費用(2022年時点で178,800円)よりも高価なWindows PCを導入していたこともポイントとなりました。
A社特有の試算ではありますが、
- Windows PC:200,000円 × 1,000台
- MacBook Pro:178,800円 × 1,000台
- MacBook Air:134,800円 × 1,000台
と、1台あたりの購入費用だけでも削減効果が出る結果となりました。
3年後の残余価値は、Windows PCを10%、Macを(AFSの当時の補償残価より)22%として計算。
ハードウェアにかかる費用を計算した結果、MacBook Proに入れ替えた場合は23%、MacBook Airに入れ替えた場合は42%ものコスト削減になるという結果となりました。
ソフトウェア費用として、Windows PCはOS(約15,000円)とエンドポイントセキュリティライセンス(約4,000円)、MacはJamf Proの費用(約12,000円)を計上しています。
※ボリュームディスカウントやOSの購入方法、利用中セキュリティソフトウェア等によって差が生じます。
1台あたりの年間エネルギーについても計算しました。
現行Windows PCのW数、メーカーの公表内容から類推したところ、Windows PCの1台あたりの年間消費エネルギーは18,900W。一方MacBook Proだと3,600Wまで落とすことができます。1Wあたりの電気料金を0.027円としてそれぞれ計算したところ、19%の削減となりました。
データ侵害のリスク
計算を行う場合には、Forresterレポートの数字を参考にしつつ、組織当たりの年間平均データ侵害件数・社内ユーザーのダウンタイムを除くデータ侵害の潜在的平均コスト・回避されるデータ侵害件数(年間)・修復、顧客解決、罰金、ブランド再構築、その他あらゆる対外コスト等を算出していく流れになります。
参考:データ侵害を削減する根拠となる「Appleプラットフォームのセキュリティ」
従業員の生産性およびエンゲージメントの向上
最後に、Macを選択した従業員に起こる効果を下記のような項目の算出で計上しました。
Macの場合は起動にかかる時間がWindows PCよりも圧倒的に早く、都度シャットダウンをしない(ほとんどの場合スリープから復帰するのみ)という運用も考えられます。
こうした物理的な時間の短縮と、Forresterレポートから適用した営業パフォーマンスの向上・定着率等を複合して、「従業員の生産性およびエンゲージメントの向上」の結果得られるメリットを算出しました。
アジア圏他企業の事例
データ侵害のリスクと従業員の生産性およびエンゲージメントの向上については、定量的な算出が難しい領域です。Forresterレポートに加えて参考にできそうな、アジア圏の事例をもう一つ見てみたいと思います。
旺旺グループは、世界63か国以上で販売を行う中国の大手お菓子メーカーです。
2015年にWindows PCからMacへの大規模な移行を実施した結果が、このようにレポートされています。
同じアジア圏の企業においても、Mac導入の効果として、IT運用の最適化・セキュリティ向上・複数部門にわたるワークフロー効率化・社員満足度の向上にコスト削減と、具体的な結果が生まれていることが分かります。
まとめ
Forresterのレポートは素晴らしい結果でしたが、米国、英国、カナダといった国々へのインタビューによってまとめられたため、日本企業にとっては少し遠く感じられる部分もあったかもしれません。
今回、国内の実在企業において計算式を適用し、MacのTCO(加えてTEIの一部)をシミュレーションすることができました。結果として、海外企業と大きく差がない割合で、Windows PCをMacに入れ替えた際に総所有コストが削減できることが分かりました。
Macを使いたいという社員の端末を一部Macへ選択させるだけでも、長期的なコスト削減につながるのではないでしょうか。
株式会社Tooでは、Macを企業端末として採用したいという企業向けに、上記のようなコスト試算やPoCのサポートも行っています。ぜひご相談ください。
記事は2022年10月13日現在の内容です。
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